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2004年2月19日

P2P の誤解:大容量ファイル交換とボトルネック(3)


(前回のコラムからの続き)


■東京中心のトラフィック



不正ファイル交換ソフトのイメージもあり、一般的には、P2P型のような分散型のシステムはトラフィックが大きくなると思われているようです。



しかし、実はインターネットのトラフィックの観点から見ると、中央集中型のモデルのほうが効率が悪くなるケースが多くなります。それは、前段でご紹介したように、インターネットが数々のボトルネックをもった接続形態になっているからです。



現在の日本のインターネットのトラフィック自体は、圧倒的に東京中心の作りになっています。大抵の Web サイトのサーバーは東京のデータセンターに設置されており、北海道の人も福岡の人も東京のサーバーに情報を見に来ます。



もしインターネットのネットワーク構成が、東京から各利用者に対して自転車のスポークのように1人1本ずつ伸びているのであれば、ネットワーク構成もデータの流れも中央集中型になり、ボトルネックは発生しませんが、残念ながらインターネットの構成は、人間の血管のように大動脈から毛細血管まで枝葉上の構成になります。



例えば北海道の人は各毛細血管に当るアクセス回線から、どこかで太い回線に接続され、最終的に大動脈に当たるバックボーンに接続してから、東京へと向かいます。



この場合、各地点から東京へのトラフィックは単純に人数の掛け算となり、北海道から1万人が東京のサーバーの 1MB のデータを同時に取得しに来ようとすると、東京→北海道間には10,000MB(10GB)の回線容量が必要になるわけです。



この掛け算は、当然データサイズが大きくなればなるほど結果も大きくなるわけで、動画のような GB 単位のコンテンツ配信を中央集中型で実現するには、ネットワーク側の負担が非常に大きくなることが明らかです。



■P2Pによるトラフィックの分散



この問題は実は、 P2P 技術を正しく活用することで回避することができます。



先ほどの北海道の例を思い出してください。 1万人が 1MB のファイルを取得するのに、東京→北海道のバックボーンには同じデータが1万回通っていることになります。全く同じデータであるにも関わらず、また、せっかく同じ個所でバックボーンに接続している仲間であるのに、各メンバーが個別に東京に直接データを取得しに行っているわけです。



この 1MB のファイルがもし札幌に置いてあればどうでしょう。 1万人の利用者はわざわざ東京にデータを取りに行かなくても、札幌からデータを取れば良いのです。



そうすれば、何と東京→札幌間は 1MB のファイルを1回やり取りするだけで良いことになり、バックボーンの負荷を大幅に低減できます。



中央集中型の仕組みでは、中央である「東京に取りに行く」という行為があらかじめ指定されてしまっているため、このような取得先の選択の実現が難しいのが現状です。



P2P 型の仕組みでは、各パソコンはバケツリレー的に回りのパソコンにファイルの有無を確認していくため、そもそも近くの端末から先にファイルを見つけてくるという、効率的な仕組みになっているわけです。



WinMX のような現在のファイル交換ソフトは、あまりネットワークの負荷は考えずに、ファイルを持っている対象から直接ファイルを持ってこようとします。ネットワーク的に効率的な取得ルートを選択しないため、現在の「P2P ファイルはネットワーク負荷が高い」というイメージを作り上げる原因になってしまっています。



しかし、実際にはパソコンそれぞれがサーバーのように自己判断できる P2P 型のシステムだからこそ、ネットワークの負荷を考慮したコンテンツ配信の仕組みを実現できるのです。



■カスケード配信



この理論を活用すれば、例えば ISP は各拠点にデータを分散させるためのサーバーを設置して、バックボーンの負荷を大幅に減少させることができます。



現在の WinMX や Winny には著作権保護の問題がつきまとうため、難しい部分がありますが、 ISP 事業者自信がファイル交換で主なトラフィックを占めているファイルを各拠点に置いてしまえば、バックボーンをファイル交換ソフトに占拠される、という問題も回避することができるのです。



つまり、東京、大阪、福岡などアクセスが集中する各拠点にデータを分散して配置することで、各利用者は自分の手近な拠点からデータを自動的に取得する形になり、現在のアクセス回線の高速化の恩恵をより直接的に得ることができるのです。



現在類似の仕組みでサーバーデータを拠点分散させているケースも出てきていますが、P2P 技術のように各クライアントレベルでこの分散の仕組みをコントロールすることができれば、現在のネットワーク構成を維持した形で、より効率的なブロードバンドコンテンツ配信の仕組みが実現できるようになる、と考えられています。

2004年2月13日

P2P の誤解:大容量ファイル交換とボトルネック(2)


(前回のコラムからの続き)


■大容量ファイルの乱舞



ファイル交換ソフトは、音楽業界との著作権問題で注目を浴びていますが、 ネットアーク社の調査によると、ファイル交換されているもののトップは「映像ファイル」で、全体の38%を占めています(音楽ファイルは20%で、画像ファイルは17%)。



当然、これまでのインターネットでトラフィックの大半を占めていたメールや Web のブラウジングに比較すると、映像ファイルのファイルサイズは飛躍的に大きくなります。



さらに Winny のようなキャッシュ型のファイル交換ソフトは、必要のないファイルまで各メンバーのパソコンにコピーしてしまうため、 ISP にとっては耐えがたいレベルまでトラフィックが上がってしまっているのが現状です。



現在のインターネットのトラフィックにおけるファイル交換ソフトが締める割合は40%とも60%とも言われており、アクセス回線のブロードバンド化の進展とともに、インターネットのトラフィックは急速に増加傾向をたどっているのです。



このトラフィック増加は当然、ボトルネックである ISP のバックボーンや IX を直撃しています。



バックボーンを高速道路だと思ってみてください。これまでは小型バイクかせいぜい普通自動車程度のデータが行き交っていただけの ISP のバックボーンを、現在は超大型のトラックや規格外の巨大なタンカーが大量に行き交っているようなものです。いくつかの ISP がファイル交換ソフトのトラフィック規制に乗り出したのも、無理のないことだと言えます。



■報われない中間 ISP 事業者



本来は利用者のインターネット利用速度が上がっているわけですから、それに応じて高い料金を徴収し、その料金をバックボーンの設備投資コストにまわすことができれば、この問題はある程度解消できます。



ただ、現在の ISP 事業者はそれができない立場になってしまっています。確かにアクセス回線は ISDN から ADSL や光ファイバーに変わり、大幅な高速化を遂げました。しかし、Nifty や Biglobe などの ISDN の時代にトップシェアを占めていた ISP 事業者は、アクセス回線高速化に応じた利用料金を利用者から追加で徴収できません。アクセス回線の料金を得ているのはあくまで NTT 東西やイー・アクセスなどのアクセス回線事業者であって、大抵の ISP は定額で月額2,000円程度の利用料金を得るという状況のままなのです。



つまり先ほどの自動車の例えで言うならば、これまでは高速道路の入口が狭かったために小さい自動車しか入ってこれなかったのが、入口の拡大によって、巨大なトラックが簡単に入ってこれるようになってしまったわけです。しかも、高速道路自体の利用料金は変わらないという条件のままで。



本来はアクセス回線の高速化がこれだけ強調して宣伝されているのですから、バックボーンもそれに応じて高速化して提供する義務があるはずですが、事業者が異なることによりギャップが生まれてしまっています。アクセス回線事業者は高速化により利用者の確保に躍起ですが、バックボーン側の ISP 事業者は、急速な高速化は望んでいないわけです。



■ブロードバンドコンテンツのないブロードバンド



実際のところ、現在ブロードバンドブロードバンドと騒がれていますが、真の意味でブロードバンドを活かしているコンテンツは存在していないとも言われています。



ADSL がこれほどまでにインターネットの利用環境を改善したのは、もちろん 1Mbps 以上の回線速度を提供したことも大きいですが、実は低額で常時接続できる環境を整えたことが最大の功績であり、ナローバンドのコンテンツを有効に利用する下地を作った、というのが正確な状況でしょう。



現在のインターネットでは実は、 100Mbps であろうが 8Mbps であろうが、体験感覚自体はほとんど変わらないというのはよく言われることです。アクセス回線が 100Mbps になっても、 ISP のバックボーンや IX の接続速度、接続先の Web サーバーの接続速度などの複数のボトルネックがその速度に対応していないと、実力を発揮できません。



もし利用者全員が 100Mbps をフル活用したら、バックボーン側の ISP 事業者は簡単に窮地に追い込まれる事業構造になっているというのが実際のところで、ボトルネックを複数抱えている現状のインターネットの問題点が、ファイル交換ソフトによる急速なトラフィック増加により、予想よりも早く顕在化してきたというのが現状なのです。



そういう意味では、現在は ISP のトラフィック問題はファイル交換ソフトの違法性だ、というような論調がありますが、この問題はまったく別の議論であることが明確です(もちろん Winny のような不適切なファイル交換の手法にも問題はありますが)。



逆に P2P の技術を事業者が適切に使えば、このトラフィック問題の解決策を見出すことも可能だと言われています。



(次回のコラムに続く)

2004年2月 5日

P2P の誤解:大容量ファイル交換とボトルネック(1)


著作権の問題とは別にもうひとつ、 P2P型 のファイル交換ソフトが問題視されるポイントがあります。それは、 P2P 型のファイル交換ソフトで大容量ファイルが大量に交換されることによる、 ISP のバックボーン圧迫の問題です。


この問題は、著作権の問題と合わせて、ファイル交換ソフトの悪い部分として取り上げられることが多いため、 P2P 型のシステムでは、サーバー型のシステムに比べてトラフィックが大きく膨らむのではないか、という印象をもたれる方が多いようです。



実際のところはどうなのか、インターネットの仕組みから考えてみましょう。



■インターネット接続のボトルネック



インターネットは、そもそもパソコン通信のように1つのホストが全サービスを提供するのではなく、複数のネットワークが相互に接続しているというのが最大の特徴です。そのため、一般的には非常にフラットな網の目のネットワークになっていると思われがちで、私たちがインターネットの図を書く時は、雲の絵や楕円形、網の目状の絵でインターネットを表すことが多いと思います。 



しかし実際には、一般的な ISP 事業者では、バックボーンと呼ばれる背骨の部分とアクセス回線と呼ばれる末端部分に分かれた構成になっており、いくつかのボトルネックとなる要素が存在します。



インターネットを利用するときの回線速度について考えてみましょう。現在アクセス回線は、 ADSL と光ファイバーの普及により高速化が進んでいます。 ADSL の現在の最高速は 8Mbps どころか、 40Mbps とも 45Mbps とも言われています。光ファイバーであれば 100Mbps です。



では、光ファイバー回線を契約すればすぐにインターネットに 100Mbps で接続できるようになるかと言うと、それはできません。そこには数々のボトルネックが存在するからです。



■集約により利益を上げる ISP の事業構造



まず各 ISP(インターネット接続事業者)のバックボーンの問題がボトルネックになってきます。



アクセス回線が 10Mbps のケースで考えてみましょう。



福岡に100人、アクセス回線 10Mbps の人がいたとします。これらの人が東京と全員 10Mbps で接続しようと思うと、福岡~東京間は 10Mbps×100=1000Mbps(1Gbps)の回線速度が必要になります。



しかしもちろん、 100人がいつも同時に接続することはありませんから、接続事業者はこの部分のコストを安く上げるためにも、回線速度を低くおさえる必要があります。



同時に利用する平均人数が100人中1人であれば、極端な話、福岡~東京間は 10Mbps の速度でも利用者は満足するかもしれないのです。



ここで、この福岡の利用者100人が急に全員同時に 10Mbps の接続を行うと、ひとりあたりの接続速度は 0.1Mbps(100kbps)となってしまうわけです。



■IX というボトルネック 



さらに ISP 同士の接続部分のボトルネックも存在します。



現在、 ISP 同士の接続は通常、 IX(インターネットエクスチェンジ)と呼ばれる、相互接続点を経由して接続されるネットワークになっています。



IX は、イメージとしては東京駅や新宿駅のような巨大ターミナルだと思ってください。当然、ある ISP から別の ISP にデータを送るためには、これらの IX を経由する必要があります。



仮に隣の家にメールを送るだけだとしても、 ISP が異なると、実は大きく遠回りして東京経由だった、ということはインターネットではよくある話なのです。



ある事業者が 100Mbps の FTTH サービスを格安で提供すると発表したとき、実はそのサービス事業者のインターネットへの接続回線速度は 6Mbps 程度しかないのではないか、というのが業界の間で噂になったこともあります。インターネットの現状の利用は、ほとんどがメールと Web ブラウジングが中心だったため、バックボーンがその程度でも十分だ、というのが常識だったのです。



しかしこの環境は、ファイル交換ソフトで音楽ファイルや映像ファイルが大量に交換されるようになると、一変しています。(次回に続く) 

   

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