UCCのTwitterマーケティング炎上事例に見る、マスマーケティングとソーシャルメディアマーケティングの境界線

 先週末に実施されたUCCのTwitterを活用したキャンペーンが、炎上して中止になってしまい、いろいろ話題を呼んでいるようです。
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参考記事:
Twitterマーケティングで炎上、UCC上島珈琲が謝罪へ
企業がtwitterスパムを行い、アカウントを凍結される? |
まとめ「炎上マーケティング?UCCのキャンペーンbotがひどすぎる件」
 金曜日に開始されたキャンペーンが、金曜日中にTwitterで炎上して、金曜日中に炎上自体がTwitterやブログで話題になって、金曜日中に謝罪リリースも出され、金曜日中にメディアの記事が書かれているという、実に典型的なTwitter時代らしい展開の早い炎上事例になってしまったというべきでしょうか。
 個人的にも、先週木曜日にちょうど「つぶやきまとめCMS」を発表しているのでポジショントークにはなってしまいますが、同じ業界に生きる人間としてあまり他人事でないのもありますし、良い機会なので日頃感じていることをまとめておきたいと思います。
 今回のUCCの手法自体は、Twitter上でコーヒーにまつわるつぶやきをしている人に、botが自動的にメッセージを送るというもの。
 記事によると、代理店が提案した形をそのまま実施したもののようですが、まぁ間違いなく日本のTwitterを活用したマーケティングの成功事例として良く語られる「ドロリッチなう」のパターンをコピーして提案したものでしょう。
参考:Twitter上で人気の「ドロリッチなう」にグリコが感謝メール!
参考:Twitter というつぶやき。或いは、口コミ。 (n-yoshi@laresjp)
 ドロリッチなうbotは、Twitter上の「ドロリッチなう」発言に自動的にコメントをするbot
 今回のUCCのものは、Twitter上の「コーヒー」発言に自動的にコメントをするbot
 Twitterを使ってない人からすると、この二つの何が「成功」と「炎上」の境界線になっているのか、正直全く分からないはずです。
 ただ、この二つにはTwitter利用者の視点では、実は様々な大きな違いがあります。
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 4段目の開発者の違いも大きな違いではありますが、実は最も重要なのは、上記の2段目と3段目の違いでしょう。
 
 「ドロリッチなう」というのは、Twitter上でそのフレーズの面白さからゲリラ的に流行ったフレーズで、少なくとも何かしらドロリッチに興味がある人でなければ発言しないキーワード。特に単純な「ドロリッチ」ではなく、「ドロリッチなう」なのがポイントで、偶然に発言されるキーワードではありません。
 それに対し今回対象とされたと言われる「コーヒー」や「懸賞」というキーワードは、発言した人がUCCに興味があるとは限らないキーワード。
 良く「カンバセーショナルマーケティング」のプレゼンをする時にも強調しているのですが、この違いは、普通に人間の会話をイメージしてもらえれば明らかです。
 数人で「ドロリッチなう」の会話をしている時に、ドロリッチの人が挨拶やお礼で話しかけてくるのと、数人で「コーヒー」や「懸賞」の会話をしている時に、UCCの人がキャンペーンの宣伝をしてくるのとでは、受ける印象が全く違うのは誰でも分かる簡単な違いです。
 こういう普通の会話だと明確な違いが見えづらくなってしまうのは、やはりTwitterやソーシャルメディアが技術主導な特殊なサービスに見えてしまうことがあるのでしょうし、もう一つ見落としてはいけないのが企業のマーケティング担当者がおかれている役割とメディアの相性の違いです。
 私自身、AMNで様々な事例に関わってきて強く感じることですが、マスマーケティングとソーシャルメディアを活用したマーケティングでは、環境や価値観が大きく異なります。
 この違いは、これまでのマスメディアを活用したマーケティングに慣れている担当者からすると、「違い」なんていう生易しいものではなく、考え方を180度、つまり思考を逆転させなければいけないぐらいの強烈なギャップです。
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 ただ一方で、ソーシャルメディアを活用したマーケティングにおいても、企業の担当者が会社や上司から期待されている役割はそう簡単には変わりません。
 先週参加したJAGATのパネルディスカッションでも、日清のマーケティング担当者の方が「努力してネットの企画で数千人、数万人にリーチしても、会社の売上からすると誤差と捉えられてしまう」という趣旨の発言をされていましたが、いわゆる「マス」を対象にしたメーカーではこういう話は当然一般的です。
 おそらく、今回のUCCのTwitterマーケティング企画においても、キャンペーンサイトへの不特定多数の誘導が期待されていたことは容易に想像でき、そうなってしまうと今回のbotが「UCCコーヒーなう」という発言者を対象にしたものでは母数が圧倒的に不足しているのは明確。
 そうでなくても、先日のTwitter勉強会の資料にも書いたように日本のTwitter利用者はまだ母数が少ないですから、UCCが今回のbotで対象数を増やすためには、当然「コーヒー」や「懸賞」とターゲットの幅を広げざるを得なくなってしまいますし、サイトの誘導数を増やすためには間接的にUCCを好きになってもらうよりも、直線的にサイトに誘導する宣伝メッセージにせざるをえなくなります。
 過去にいくつか発生してきたブログやSNSを活用した炎上事例も、こうしたマスマーケティングの常識をそのままソーシャルメディアに持ち込んだために発生したハレーションのような事例がほとんどでした。
 そういう意味で、実は、ブログやTwitterなどのソーシャルメディアだけで、マスへの認知を期待するマーケティング担当者の期待に応えることは、ほとんど不可能。
 そう割りきってしまうことこそが、ソーシャルメディアを効果的に使えるようになるポイントなのではないかと考えています。
 マスメディアとソーシャルメディアに、同じ役割を期待するから間違ってしまうわけで、最初から役割が違うと思ってしまえば、いろんなことが楽になるのではないかと思います。
 
 大きくUCCさんの話から、話が脱線してしまいましたが。
 個人的に今回の炎上事例で感心したのは、UCCさんの対応がトラブルの認知から実質2時間程度とかなり早く、しかも謝罪のプレスリリースまでが半日もかかっていないというメーカーとしては驚異的なスピードだった点。
 過去のGoogleのPayPerPost騒動でも一日またぎ(時差があるので単純比較はできませんが)だったことを考えると、実に迅速な対応だったと言えると思います。
 そういう意味で、UCCの公式Twitterアカウントでも下記のような声明が出されており、単純な謝罪だけで終わりにしようとされていない点も、個人的に注目している点です。
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 過去の日本のネットマーケティングの炎上事例では、ほとんどがサイトの閉鎖やコミュニティの閉鎖で、その後顧客との対話のチャネルを一時的にしろ閉じてしまっており、その結果、炎上という結果だけが実際のダメージよりも余計に大きく強調されている側面が強い気がします。
 ただ、実はこの窮地でも顧客との対話を続けることこそが、ソーシャルメディアを本当に企業にとって意味があるものにする上で重要なプロセスであることは、米国のDELLを始めとする様々なケースで証明されています。
 一マーケティング事業者である私が書くのもおかしな話ではありますが、今回の迅速な対応を見る限り、会社のカルチャーとしては、実はUCCはソーシャルメディアを上手く活用することができる可能性が十分あるのではないかと思ったりもします。
 今回の炎上でUCCさんがTwitterアカウントを閉じてしまったり、ネットを通じた利用者とのコミュニケーションのチャネルを閉じてしまうことになってしまわないことを切に願いますし。
 逆にこれを糧に、是非日本ならではのネットやソーシャルメディアの活用にチャレンジしていただくことを期待したいなと勝手に思ってしまうのは、私だけでしょうか?

“UCCのTwitterマーケティング炎上事例に見る、マスマーケティングとソーシャルメディアマーケティングの境界線” への6件のフィードバック

  1. 燃えたUCC

    最近 あしたさぬきでもついったー されてる方が多いのでもう タイトルの意味に ピン とくるかもしれませんねそうUCCの Twitter利用のキャンペーンが…

  2. UCCのTwitterマーケティング振り返り - 7つのブログでの反応

    2010年2月初旬に起こったUCCの「Twitterキャンペーン」騒動。このキャ

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