グーグルは、破壊者か、全能の神か

グーグルGoogle―既存のビジネスを破壊する[R30]: 書評:「グーグル 既存のビジネスを破壊する」を読んで。
 すでに、多くの濃いブロガーの間で書評と議論が展開されていますが、私も話題の「グーグル 既存のビジネスを破壊する」を発売前に読ませていただくことができましたので、自分なりの感想を書いておきたいと思います。
 書籍についての具体的な書評は、冒頭のR30さんをはじめとする論客にお任せするとして。
 個人的な率直な感想としては、この書籍「グーグル」は現在のGoogleの立ち位置を、自分の中で整理するのに非常に役に立つ本でした。
 この数ヶ月、自分なりにずっと引っ掛かっていたのは、書籍の帯にも使われている「Google、破壊者か、全能の神か」というような議論。
 昨年、自分でも「Googleはネット世界の創造神なのか破壊神なのか」とか「Googleが次に破壊する市場はどこか」とか、Googleの破壊を意識した記事を書いたことがあります。
 Googleがあくまで一企業である以上、そういった神学論争的な議論をしても意味がないのは分かっているつもりではいるのですが、そういう議論をしたくなるのがGoogleという会社の特徴でもある気がします。
 今回、佐々木さんの「グーグル」を読んで改めて思うのは、Googleを中心としたネット企業が巻き起こしている、富や情報や既得権の再配分の規模の大きさ。
 既存の大手マスメディアから、駐車場やメッキ工場まで、これまでの価値感を逆さにしてしまうような規模で、これまでの「持てる者」からこれまでの「持たざる者」にパワーのシフトが起こっている感覚があります。
 
 当然、そんな規模のパワーシフトは、持てる者であった既存事業者からすれば破壊にしか見えないわけですが、持たざる者だった小規模事業者や個人からすれば、新たなビジネスチャンスの創造と言えるわけで。
 Googleを中心としたインターネットの未来についての議論が専門家の間で空回りしやすいのは、こういったパワーシフトのどこに自分がいるかで、それに対する視点が全く異なるからというのも大きい気がします。
 まぁ、どうも達観している人からすると、この辺りのパワーシフトの議論というのは本来はインターネット自体がもたらす変化として10年前に議論されていたビジョンだったようですので、ようやく本格化したというところでしょうか。
 そういう意味では、Googleもインターネット全体の中の一企業でしかないわけですが、そのインターネット時代の新しい価値感を体現する象徴として、Googleが実際の力よりも(期待と不安をこめて)大きく捉えられていて、神扱いされやすい感じもしないでもありません。(佐々木さんは司祭という表現をしていましたが、なるほどという感じです。)
 ちなみに、そんなことを考えていて改めて気になるのは、今後Googleの立ち位置はどう変化するのかという点。
 極端な例で例えてしまえば、躍進する過程のGoogleのポジションは、民衆から搾取することで大金を稼いでいた悪代官から富を奪い既存の秩序を破壊することで、民衆に富を還元している弱きを助け強きをくじくロビン・フッドやねずみ小僧のようなもんです。
 そういう意味では、Googleが利用者から人気があって、既存事業者から煙たがられるのは当たり前かもしれません。
 ただ、そのロビン・フッドが統治者の側になったときに、果たして民衆である利用者はどういう反応をするのかというのが個人的には気になります。
 やれBMWやサイバーエージェントがGoogle八分にあったという話であれば、まだまだ強いもの叩きで盛り上がれるわけですが。
 書籍に書かれていたような、Adsense狩りにあってアカウントを問答無用で抹消されたとか、自分のサイトが検索ロジックの変更で検索上位から消えてしまったとかいう話が頻発してくると、Googleに対する改革者としての期待が、統治者への不満や不信のようなものに変わってしまう可能性は十分あるわけで、改革者のポジションがいつのまにか統治者のポジションになってくることは十分考えられます。
 その時に、Googleはどこまで今のビジョンやブランドや立ち位置のようなものを維持することができるのでしょうか?
 まぁ、もちろんまだまだGoogleの「強い者叩き」の対象となる企業はたくさんありますから、まだまだしばらくはGoogleはロビン・フッドのポジションでいられるでしょうし、そもそも日本のインターネット市場の統治者はヤフーですから、また議論は全然別になってくるんだと思いますが。
 なんにしても、ここ数年のGoogleやそのライバルたちの動向からは目が話せそうにありません。
 それにしても、最近ブログで書きたいことはたくさんあるのに、持ち前の筆の遅さも手伝って、全ての話題に乗り遅れている感がある今日この頃です。
 ということで、濃い書評を読みたい方はこちらをどうぞ。
すべてを一度懐疑していく (404 Blog Not Found)
書評「ウェブ進化論」と「グーグル Google」。そしてメディアビジネスの競争構造の変化。 (FIFTH EDITION)
書評:「グーグル 既存のビジネスを破壊する」 (R30::マーケティング社会時評)
「グーグル Google 既存のビジネスを破壊する」佐々木俊尚 (ガ島通信)

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佐々木 俊尚


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