著作権の問題とは別にもうひとつ、 P2P型 のファイル交換ソフトが問題視されるポイントがあります。それは、 P2P 型のファイル交換ソフトで大容量ファイルが大量に交換されることによる、 ISP のバックボーン圧迫の問題です。
この問題は、著作権の問題と合わせて、ファイル交換ソフトの悪い部分として取り上げられることが多いため、 P2P 型のシステムでは、サーバー型のシステムに比べてトラフィックが大きく膨らむのではないか、という印象をもたれる方が多いようです。
実際のところはどうなのか、インターネットの仕組みから考えてみましょう。
■インターネット接続のボトルネック
インターネットは、そもそもパソコン通信のように1つのホストが全サービスを提供するのではなく、複数のネットワークが相互に接続しているというのが最大の特徴です。そのため、一般的には非常にフラットな網の目のネットワークになっていると思われがちで、私たちがインターネットの図を書く時は、雲の絵や楕円形、網の目状の絵でインターネットを表すことが多いと思います。
しかし実際には、一般的な ISP 事業者では、バックボーンと呼ばれる背骨の部分とアクセス回線と呼ばれる末端部分に分かれた構成になっており、いくつかのボトルネックとなる要素が存在します。
インターネットを利用するときの回線速度について考えてみましょう。現在アクセス回線は、 ADSL と光ファイバーの普及により高速化が進んでいます。 ADSL の現在の最高速は 8Mbps どころか、 40Mbps とも 45Mbps とも言われています。光ファイバーであれば 100Mbps です。
では、光ファイバー回線を契約すればすぐにインターネットに 100Mbps で接続できるようになるかと言うと、それはできません。そこには数々のボトルネックが存在するからです。
■集約により利益を上げる ISP の事業構造
まず各 ISP(インターネット接続事業者)のバックボーンの問題がボトルネックになってきます。
アクセス回線が 10Mbps のケースで考えてみましょう。
福岡に100人、アクセス回線 10Mbps の人がいたとします。これらの人が東京と全員 10Mbps で接続しようと思うと、福岡~東京間は 10Mbps×100=1000Mbps(1Gbps)の回線速度が必要になります。
しかしもちろん、 100人がいつも同時に接続することはありませんから、接続事業者はこの部分のコストを安く上げるためにも、回線速度を低くおさえる必要があります。
同時に利用する平均人数が100人中1人であれば、極端な話、福岡~東京間は 10Mbps の速度でも利用者は満足するかもしれないのです。
ここで、この福岡の利用者100人が急に全員同時に 10Mbps の接続を行うと、ひとりあたりの接続速度は 0.1Mbps(100kbps)となってしまうわけです。
■IX というボトルネック
さらに ISP 同士の接続部分のボトルネックも存在します。
現在、 ISP 同士の接続は通常、 IX(インターネットエクスチェンジ)と呼ばれる、相互接続点を経由して接続されるネットワークになっています。
IX は、イメージとしては東京駅や新宿駅のような巨大ターミナルだと思ってください。当然、ある ISP から別の ISP にデータを送るためには、これらの IX を経由する必要があります。
仮に隣の家にメールを送るだけだとしても、 ISP が異なると、実は大きく遠回りして東京経由だった、ということはインターネットではよくある話なのです。
ある事業者が 100Mbps の FTTH サービスを格安で提供すると発表したとき、実はそのサービス事業者のインターネットへの接続回線速度は 6Mbps 程度しかないのではないか、というのが業界の間で噂になったこともあります。インターネットの現状の利用は、ほとんどがメールと Web ブラウジングが中心だったため、バックボーンがその程度でも十分だ、というのが常識だったのです。
しかしこの環境は、ファイル交換ソフトで音楽ファイルや映像ファイルが大量に交換されるようになると、一変しています。(次回に続く)