P2P の誤解:大容量ファイル交換とボトルネック(3)

(前回のコラムからの続き)


■東京中心のトラフィック

不正ファイル交換ソフトのイメージもあり、一般的には、P2P型のような分散型のシステムはトラフィックが大きくなると思われているようです。

しかし、実はインターネットのトラフィックの観点から見ると、中央集中型のモデルのほうが効率が悪くなるケースが多くなります。それは、前段でご紹介したように、インターネットが数々のボトルネックをもった接続形態になっているからです。

現在の日本のインターネットのトラフィック自体は、圧倒的に東京中心の作りになっています。大抵の Web サイトのサーバーは東京のデータセンターに設置されており、北海道の人も福岡の人も東京のサーバーに情報を見に来ます。

もしインターネットのネットワーク構成が、東京から各利用者に対して自転車のスポークのように1人1本ずつ伸びているのであれば、ネットワーク構成もデータの流れも中央集中型になり、ボトルネックは発生しませんが、残念ながらインターネットの構成は、人間の血管のように大動脈から毛細血管まで枝葉上の構成になります。

例えば北海道の人は各毛細血管に当るアクセス回線から、どこかで太い回線に接続され、最終的に大動脈に当たるバックボーンに接続してから、東京へと向かいます。

この場合、各地点から東京へのトラフィックは単純に人数の掛け算となり、北海道から1万人が東京のサーバーの 1MB のデータを同時に取得しに来ようとすると、東京→北海道間には10,000MB(10GB)の回線容量が必要になるわけです。

この掛け算は、当然データサイズが大きくなればなるほど結果も大きくなるわけで、動画のような GB 単位のコンテンツ配信を中央集中型で実現するには、ネットワーク側の負担が非常に大きくなることが明らかです。

■P2Pによるトラフィックの分散

この問題は実は、 P2P 技術を正しく活用することで回避することができます。

先ほどの北海道の例を思い出してください。 1万人が 1MB のファイルを取得するのに、東京→北海道のバックボーンには同じデータが1万回通っていることになります。全く同じデータであるにも関わらず、また、せっかく同じ個所でバックボーンに接続している仲間であるのに、各メンバーが個別に東京に直接データを取得しに行っているわけです。

この 1MB のファイルがもし札幌に置いてあればどうでしょう。 1万人の利用者はわざわざ東京にデータを取りに行かなくても、札幌からデータを取れば良いのです。

そうすれば、何と東京→札幌間は 1MB のファイルを1回やり取りするだけで良いことになり、バックボーンの負荷を大幅に低減できます。

中央集中型の仕組みでは、中央である「東京に取りに行く」という行為があらかじめ指定されてしまっているため、このような取得先の選択の実現が難しいのが現状です。

P2P 型の仕組みでは、各パソコンはバケツリレー的に回りのパソコンにファイルの有無を確認していくため、そもそも近くの端末から先にファイルを見つけてくるという、効率的な仕組みになっているわけです。

WinMX のような現在のファイル交換ソフトは、あまりネットワークの負荷は考えずに、ファイルを持っている対象から直接ファイルを持ってこようとします。ネットワーク的に効率的な取得ルートを選択しないため、現在の「P2P ファイルはネットワーク負荷が高い」というイメージを作り上げる原因になってしまっています。

しかし、実際にはパソコンそれぞれがサーバーのように自己判断できる P2P 型のシステムだからこそ、ネットワークの負荷を考慮したコンテンツ配信の仕組みを実現できるのです。

■カスケード配信

この理論を活用すれば、例えば ISP は各拠点にデータを分散させるためのサーバーを設置して、バックボーンの負荷を大幅に減少させることができます。

現在の WinMX や Winny には著作権保護の問題がつきまとうため、難しい部分がありますが、 ISP 事業者自信がファイル交換で主なトラフィックを占めているファイルを各拠点に置いてしまえば、バックボーンをファイル交換ソフトに占拠される、という問題も回避することができるのです。

つまり、東京、大阪、福岡などアクセスが集中する各拠点にデータを分散して配置することで、各利用者は自分の手近な拠点からデータを自動的に取得する形になり、現在のアクセス回線の高速化の恩恵をより直接的に得ることができるのです。

現在類似の仕組みでサーバーデータを拠点分散させているケースも出てきていますが、P2P 技術のように各クライアントレベルでこの分散の仕組みをコントロールすることができれば、現在のネットワーク構成を維持した形で、より効率的なブロードバンドコンテンツ配信の仕組みが実現できるようになる、と考えられています。