前回のコラム でも触れましたが、音楽ファイル共有ソフトに対する音楽業界の反応は過敏と言っても良いぐらい激しいものです。
この背景には「このまま音楽ファイル共有ソフトが普及すると音楽業界は衰亡してしまう」という悲観論が影響していると考えられます。このような悲観論は、過去のレンタル店や MD コピーの問題の時には、ここまで大きい問題にはなりませんでした。
今回はちょっと視点を変えて、この問題を考えてみましょう。
■デジタル配信が CD ビジネスを消滅させるか
まず多くの悲観論の源泉になっているのが「デジタル配信の普及により CD のような媒体が売れなくなる」という議論です。
これ自体は、十分あり得るシナリオです。
流通手段が技術の進歩により変化するというのは、過去にも頻繁に繰り返されてきた出来事です。
例えば、インターネットの普及により株の売買は、証券会社の窓口を訪問すると言うスタイルから、オンラインによる売買に大きく推移してきています。映画や展示会のチケットも、最近は携帯電話で直接申し込み携帯電話の画面をチケット代わりにするということもできるようになりました。
もっと単純な例でいえば、鉄道の発達や自動車の普及による馬での移動手段の消滅、E メールの普及による郵便の減少など、それぞれのシーンで様々な変化が起こっています。
音楽業界においても、レコードから CD へと流通手段は大きく変わりました。
現在一部のアナログプレーヤー愛好家や DJ を除いて、レコードの市場はほとんど CD に取って代わられています。
そういう意味では、CD のような物理媒体からデジタル配信に音楽の流通手段が変化すること自体は十分考えられると言えます。
■流通手段の多様化という考え方
ただ、もちろん媒体による販売というものが完全になくなるかどうかは分かりません。
オンラインニュースがこれだけ充実してきているにも関わらず、紙の新聞は大きく凋落する傾向は見せていませんし、パソコンのソフトウェアのようなダウンロードが容易なものでも、パッケージ販売は依然市場の中心を占めています。
人間の所有欲・収集欲という観点からすると、そのミュージシャンの CD を持っているということ自体がファンにとっては重要であるという議論もあります。
CD という媒体を買わなければ得られないおまけや写真集などによって媒体の流通も必ず生き残ることができると考えられます。
しかし、配信技術や携帯機器の進歩などにより、市場の中心がデジタルでの音楽配信に移っていく可能性は非常に高いと考えられます。
既に携帯電話では非常に高い音質の音楽を配信によって入手することができますし、音楽プレーヤーの機能がついたものも存在します。
ソニーを始めとして数々のメーカーが試みているように、パソコンとコンポが連動しているような機器によって音楽の入手と利用が携帯電話並に簡単にできるようになれば、パソコンを通じた音楽のダウンロードにより弾みがつくことは容易に想像できます。
■デジタル配信による利益分配の変化
そういう意味では、デジタル配信が CD ビジネスを激減させるという可能性は否定できません。
ただ、ここで明確にしなければいけないのは CD 販売ビジネス=音楽業界ではないということです。
流通手段が変化することにより、そのプレーヤーが変化する可能性は十分にありますが、デジタル配信により音楽業界自体が拡大する可能性も存在するからです。
現在、CD を通じて音楽を楽しむために、私たちが払っているお金を考えてみて下さい。
CD アルバムを購入する場合で2000~3000円。一曲だけを CD レンタルで入手したい場合も一枚100円程度のお金を支払います。
ただし、媒体流通の場合、このお金は当然音楽業界に全額入るわけではありません。
CD の運送費、ジャケットやラベルの印刷費、販売店の手数料や利益を差し引くと、真の音楽業界に落ちるお金は大幅に削られていきます。
更に在庫管理のコストや、中古流通や違法コピーによる機会損失まで考えて比較すると、実は直接デジタル媒体で顧客に販売する際のコストと言うものは、媒体流通に比較すると非常に小さくなるのです。
ここに新たなビジネスチャンスが存在します。(次回のコラムに続く)