2004/10/13にjapan.internet.comに掲載されたコラムです。
(前回のコラムの続き)
■技術の進歩と、既存の法制度のギャップ
もちろん Mercora に課題がないわけではありません。
Mercora では、あくまで他のメンバーが持っている曲の一部が放送されるだけですから、マイナーな曲になればなるほど、好きなときに確実に聞けるという保証は少なくなります。
また、ネットワークにつながっていないと音楽を聞くことができませんから、 iPod のような携帯プレイヤーで聞くためには、別途音楽を購入する必要があります。
ただ、Mercora を利用することで、少なくともインターネットにつながっている間は、自分の聞きたい曲を自由に聞ける可能性が高くなります。
もちろん、既存のラジオ放送においては、利用者は自分の好きな曲を好きなときに聞くことはできません。あくまで DJ の選曲のセンスに依存します。
Mercora も、個々の配信で見れば他のメンバーは選曲を指示できませんが、ただ、配信者が増えれば増えるほど、ミュージックオンデマンドに近い仕組みになります。
つまりMercora は P2P 技術を上手く使って、法制度的にはラジオ放送に近いのに、利用者から見ると限りなくミュージックオンデマンドに近い仕組みを作り出してしまったわけです。
技術と既存の制度のギャップをついた、実に興味深いサービスだといえます。
■今後問われるビジネスモデル
このように「技術的に面白い」Mercora が、ビジネス的に成功することができるかどうかは、注目されるところです。
Srivats Sampath は設立当初からコミュニティに注力することを明言しており、 Mercora のサービスには音楽だけでなく複数の用途が提示されています。現状の主な仕組みは下記のとおりです。
・Mercora P2P Radio
上記で紹介した P2P 型の音楽配信サービス。
・Mercora P2P Pictures
友達や家族との写真共有を目的にしたデジタルアルバムサービス。
・ソーシャルネットワーク機能
興味や趣味が同じ仲間を見つけて友達になることができます。
・コミュニケーション機能
インスタントメッセージやグループチャット的な機能も提供されます。
音楽の趣味を軸にしたコミュニティを形成することで、どのようなビジネスモデルが生み出されるかが、今後のポイントになると考えられています。
最も相性がいいのは、コミュニティで紹介された音楽を実際の CD や MP3 ファイルの購入に結びつけるアフィリエイトビジネスだ、と言われています。 Mercora P2P Radio 自体は視聴サービスとして運営し、有料の音楽配信ビジネスと連動させるというイメージです。
ただ、Mercora が便利になればなるほど無料で音楽を楽しめる土壌ができてしまうわけで、Mercora としてもこれからの舵取りが正念場といえます。
Mercora はまだ日本語の Web サイトを提供しておらず、 Mercora 上での邦楽の配信についても法律の判断上グレーな部分がありますが、おそらく今後、 Mercora のような、既存の制度の間を突いたサービスが増えてくるのは間違いないでしょう。