前回はインスタントメッセージングを紹介しましたが、 P2P と聞いて皆さんが一番最初にイメージされるのは、やはり ファイル共有ソフトでしょう。
先駆けであるナップスターから始まった P2P 型のファイル共有ソフトですが、今では KazaA や、WinMX や Winny など、無数の P2P 型のファイル共有ソフトを Web サイトで見つけることができます。
多くの方は、ナップスターを中心とした P2P ソフトと音楽企業の裁判の話を耳にしていると思います。そこから、P2P のファイル共有ソフトとは、 MP3 の音楽ファイルを共有するソフトだと考えている方も多いかもしれません。
しかし、実はそれは本質的な部分ではありません。このナップスターに始まる P2P 型のファイル共有の仕組みは、純粋に技術的な観点で IT 業界に大きな衝撃を与えているのです。それが、 前々回のコラムで触れた純粋な P2P 技術のメリットの部分です。
■サーバーボトルネックが非常に少ない
ナップスターは、「誰がどの音楽ファイルを持っているか」という電話帳にあたるインデックス部分を中央サーバーに持っていました。そのため純粋に P2P ではないという議論もありますが、それでも資金のない学生が運営するサーバーが半年で900万人、 1年で3800万人もの利用者を獲得して正常に動作していました(もちろんトラブルはありましたが)。
NTT ドコモの iモード が急成長した時代に、頻繁にサーバーがダウンして問題になりましたが、そのiモードでも、 1999年1月にサービスを開始して2001年3月に2000万契約に届くまで、 2年以上かかっています。
あの巨大な NTT ドコモが、携帯のテキスト程度の小さなコンテンツが集中するサーバーの増強に苦労していたのに、ナップスターは、学生を中心とするメンバーで音楽ファイルという大きなサイズのファイル配信に対応してしまいました。これは P2P 型でなければとても実現できない話です。
■非常に低いコストで構築できる
前々回のコラムでも触れましたが、ナップスターは大学生によって開発されました。当時なんと18歳です。もちろん多額の資金があったわけではありませんし、儲けるためのビジネスモデルがあったわけではありません。単純に、自分の欲しい音楽ファイルを見つける仕組みを考えつき、作り上げてしまったのです。
ナップスターは急速に利用者が拡大した上に、ピーク時には5000万人を越える利用者がいたといわれています。それだけの利用者がいる音楽ファイル配信システムをサーバー型で構築しようとすると、複数の高価なサーバーや超高速な回線が必要になり、とても学生が中心に半年や一年で構築できるような代物ではなくなってしまいます。
このようなメリットがある P2P 型のファイル配信システムですが、現在は著作権問題のほうが注目されていることもあり、前回紹介したインスタントメッセージングソフトのように、大企業の参入はまだ表だって始まっていません。
ただ、水面下での模索は始まっており、例えばマイクロソフトの若手開発者が中心に開発した ThreeDegrees というソフトは、 IM ソフトが中心となってはいますが、メンバー同士で持っている音楽ソフトを相手に聞かせることができるようになっています。
もちろんファイル共有という視点では、音楽ソフトだけでなく、企業における提案書や CAD データなどの大容量ファイルにも、同じ仕組みを適用できます。
おそらく著作権上の問題を克服することができれば、 P2P 型のシステムが様々なシステムに転用され、システム構築の一手段として定着していくことが予想されます。