P2P の誤解:無料サービスとビジネスモデル(2)

(前回からの続き)


■無料で手に入るものにも誰かがお金を払う世界

実はこのような、同じサービスが無料と有料で混在するビジネスは、他の分野にもあります。違法性との関連で言えば、駐車場が分かりやすいでしょう。 

駐車も一応利用者には無料と有料の選択肢があります。もちろん、路上に車を放置と駐車違反に問われますし、ドライバーは誰もがそれを知っています。 ただ、いくら警察が取り締まっても、無料を選択したいドライバーは警察が取締りを行わない道路を調べたりして、違法行為を選択しつづけます。しかし、誰もが常に違法駐車をするわけではありません。逆に、常に有料駐車場を利用するドライバーも存在します。

そういった顧客をターゲットに、都会の100円パーキングはその数を増やしていますし、デパートなどのように、商品を購入すれば駐車場が無料になる、というサービスを売りにするところもあり、相応の利益や効果を生むことができます。

違法性との関連がない分野、たとえば新聞のようなニュースビジネスがあげられます。

インターネットを活用すれば、多くのニュースは無料で入手することができます。しかし、有料の新聞、メールニュースといったものもまた同時に利用されています。

紙の新聞の市場が無料のメディアによって一部失われつつあるのは事実ですが、同時に、新たなオンライン上のニュースサービスによる市場が生み出されました。有料のサービスは、情報を編集して提供するという付加価値に注力することで生き残りを図るでしょうし、逆に無料であることを利用して読者層を増やし、その読者層に対する広告で収入を得るというビジネスモデルもあります。

■無料サービスの収益性のハンディキャップ

では、実際に Apple 社のような有料の音楽配信サービスは、今後無料音楽配信が継続して存在しても利用され続けるでしょうか。

ポイントは、有料サービスが無料音楽配信よりもサービスとして優れている状態を維持できるか、という点にあります(もちろん、著作権料を支払わない配信が違法行為であるという定義も、非常に重要です)。

ここでの「無料音楽配信」とは、利用者が費用を一銭も払わず、経済的な利益を事業者(もしくは個人)が得ないモデルです。さらに違法行為であることから大手事業者の支援は受けづらい状況になり、結果としてサービスの改善にかけられるお金の規模は小さくなります。

そのような無料サービスと、収益を上げながらそれを用いてさらなるサービスの改善を図れる有料サービスとでは、当然サービスの差がうまれる余地が大きくなります(もちろんそうならない可能性もありますが)。

有料だが利用者のニーズを満たす使い勝手のいいサービスが存在すれば、無料だが違法性があるサービスではなく、有料サービスを利用してお金を払う人が存在する可能性は十分あります。

この話は、実は違法性の問題がなかったとしても、同じ結果になることもあります。

たとえば、ここ数年無料サービスが注目をあびた分野として記憶に新しいのが、 ISP サービスです。通常のプロバイダが月2,000円程度の接続料を徴収するのに比較して、無料プロバイダは広告料を収益にすることで、利用者には全くの無料サービスを実現しました。当時は無料プロバイダが他のプロバイダを圧倒するという議論もありましたが、現状はまだ多くのインターネット利用者は ISP 料金を支払い続けています。

もちろん、理由はいろいろ考えられますが、無料のモデルが必ずしも勝つとは限らない例として、参考になると思います。

将来の音楽ビジネスがどのような形態になるのかは皆目検討がつきませんが、ただ、このように考えていけば、無料音楽配信の普及=音楽ビジネスの衰亡につながるとは限らないことは、理解できるのではないかと思います。

逆にこの変革期の今こそ、新しい音楽ビジネスモデルが生まれるタイミングであることは確かです。

いつまでも音楽ファイル共有ソフトの違法性の議論に拘泥するのではなく、無料音楽ファイル共有ソフトの存在を吹き飛ばすような魅力的な有料サービスが、そろそろ日本からも出てきてほしいと思いませんか?