2004/11/4にjapan.internet.comに掲載されたコラムです。
ここ数か月のコラムでは、主に音楽配信を中心とした P2P ソリューションを紹介してきました。
ただ、P2P 技術の適用範囲は、もちろん音楽配信だけではありません。
音楽関連のソリューションに比べるとあまり目立ってはいませんが、実はそれ以外の分野でも様々な P2P ソリューションへの取り組みが始まってきています。
今回からは、そのような幅広い分野での P2P ソリューションを紹介していきたいと思います。
まず今回紹介するのは、独立行政法人の情報通信研究機構(NICT)が実施している、 P2P 型の医療情報流通実験です。
■実証実験の概要
情報通信研究機構(NICT)とは、独立行政法人であった通信総合研究所(CRL)と、認可法人であった通信・放送機構(TAO)が統合してできた組織で、日本の通信分野のさらなる発展を支援する目的で設立された独立行政法人です。
NICT では、 2002年4月より「P2P型高信頼情報流通に関する研究開発」を旭川高信頼情報流通リサーチセンターにて推進しており、今回の実証実験はその総括にあたるものです。
具体的な実験内容としては、北海道内の14の病院と、北海道東海大学と旭川高信頼情報流通リサーチセンターを含む、 16の拠点を P2P 型ネットワークシステムで結び、医療情報流通技術についての評価を行います。
ここで対象となっている医療情報とは、電子カルテや医療関係の動画像伝送などの医療データです。
一般的には P2P というと不正ファイル交換のイメージが強いですから、皆さんも電子カルテのような個人情報を P2P で流通させて大丈夫? と思うかもしれませんね。
この実験にどのような特徴があるか見てみましょう。
■実証実験の特徴と今後の可能性
NICT が発表した報道機関向け資料には、下記の2点が特徴として挙げられています。
1.安全性と高速性の両立
医療従事者のアクセス権限証明書によって閲覧範囲を制御し、また医療データを暗号化して各病院に保存することで安全性をまず確保しています。
さらに、暗号化したままで高速検索を行う技術を開発し、安全性と高速性を両立させているようです。
2.異常アクセス等を検出
ハイブリット型 P2P と呼ばれるサーバーを組み合わせた仕組みにすることで、すべての端末のアクセス履歴を収集しています。さらにこれらのアクセス履歴を高速に解析することで、異常なアクセスを早期に発見、防止することを実現しているようです。
つまり、NICT の高度なセキュリティ技術と P2P 技術を組み合わせることで、サーバーのコストを抑えつつ、 P2P 型の弱点とされてきたセキュリティの維持を実現しているわけです。
また、電子カルテなどの個人情報は、サーバーなどで集中管理してしまうと、逆に一部の管理者がすべての患者の情報を閲覧できてしまう、という問題も含んでいます。
そこで、P2P 型で個人情報をあくまで個別の病院で管理しておけば、中央管理コストの低減化と同時に、個人情報のセキュリティ強化にもつながるという考え方もあるわけです。
電子カルテの流通が実用化されると、重複検査や二重投薬を抑制することができ、診療時間の短縮や医療費削減に大きく貢献することができる他、転勤などで病院を変えた患者に対しても継続した治療を行える、などの効果があるようです。
この実証実験は12月下旬まで4か月かけて行われています。成果が出ることを楽しみに待ちたいですね