クチコミマーケティングの発展にWOMマーケティング協議会ができること

womj_logo.png 昨日、WOMマーケティング協議会の発表をしてから初めてとなるクチコミマーケティング研究会が開催されました。
(参加された皆さん、お疲れ様でした。会場のキャパシティの関係で抽選に漏れた方々すいませんでした)
 当日の様子は、ほかの方々のブログをご覧いただければと思いますが、よく考えるとWOMマーケティング協議会についてこちらのブログで全く言及していなかったので、当日研究会でお話しさせていただいたような個人的な思いをここにメモしておきたいと思います。
 WOMマーケティング協議会のサイトをご覧頂くと分かりますが、わたし自身もWOMマーケティング協議会には世話人として参加をさせて頂いています。
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 正直な話、今あらためて発起賛同人の方々のそうそうたるリストを見ると、いわゆる広告業界、PR業界の経験としてはまだようやく2年が経とうかという程度の私なんぞが、その中に並んでいるのを見るのも実に恥ずかしい話なのですが。
 実は、私はこのWOMマーケティング協議会の言い出しっぺの一人だったりします。


 クチコミマーケティング研究会をやってみようという動きが具体的に始まったきっかけは、昨の2008年2月に太田さん矢嶋さんが開催されたPR系ブロガー新年会。
 PR代理店の人間でも広報担当経験もない私が、なぜか光栄にも最初の乾杯の挨拶をさせていただいたのですが(中立な人間だったからでしょうか)、そのときに「日本版WOMMAをやりませんか?」という主旨の挨拶をしたら、主催者の太田さんがちょうど同じことを考えて調査をされていたという偶然のタイミングで、クチコミマーケティング研究会の開催が決まったという経緯があります。
 で、何で当時アリエル・ネットワークというソフトウェア会社の一マーケッターでしかなく、あくまで一ブロガーでしかなかった私が、そんなことを挨拶で口走ってしまったかというと、さかのぼるのは2006年12月の筑波だったと思います。
 情報ネットワーク法学会という学会で、佐々木俊尚さんや川上さん、藤代さんとパネルディスカッションをした帰りに、藤代さんと延々と日本のブログマーケティングにおける倫理の必要性や、ブログの倫理をテーマにしたイベントの開催等について議論していたことがあるのです。
 2006年という年は、日本にいわゆるPayPerPost系のブログ記事広告サービスが大流行した年で、「ブロガーって300円払えばヨイショ記事書いてくれるんでしょ?」的な雰囲気が感じられて、ブログを昔から書いている人間としては、とても寂しくおもっている時期でした。
 電車の中で藤代さんと、議論の必要はあるけれど、意義のある程度に盛り上げるのは難しいのではないかと延々とぐるぐるまわる議論をしていたような記憶があります。
(その後もちょくちょく、藤代さんや小川さんと似たような議論をしていた記憶もあるので、どこが初めだったかは正直怪しいですが、藤代さんがWOMMAの規定を翻訳してたのもこの日なので、多分この日だったはず。)
 しかし、当時は、その後別の人たちと、利用者であるブロガーを規制することは難しいしするべきでもない、するなら広告代理店やマーケティング事業者をするべきじゃないかという議論をしたことがあったり、米国でオライリーがBlogger’s Code of Conductという行動規範を提唱したものの、様々な批判を受けて頓挫したのをみたりするにつけ、オライリーですら、米国ですら無理なんだから、日本では無理だろうと、そもそも一ブロガーでしかない私なんかができることなんて無い、と思ってしまったことを覚えています。
 ただ、その問題意識はその後もずっと私の中でもくすぶり続け、わたし自身もAMNの設立に携わることになり、AMNに正式にうつることになり、マーケティング業界に足を踏み入れていくことになり、ますます問題意識が自分の中で深くなり、AMNでブログマーケティングポリシーとかを作ってみたりもしましたが、AMN一社でできることの限界を感じ、2008年2月のPR系ブロガー新年会に至り、冒頭の乾杯の挨拶につながるわけです。
  
 その後、太田さんや藤代さんの超人的なネットワーク活動の甲斐もあり、クローズドで開催されていたクチコミマーケティング研究会にまさにクチコミで参加頂いた大勢の皆さんの議論の甲斐もあり、昨年12月にWOMマーケティング協議会設立準備会について発表するにいたります。
 まぁ、正直私自身の研究会への貢献度は他の方に比べるとかなり低いのですが、個人的にはそのきっかけの一人になれたことを自分勝手に、感慨深く思っていたりします。
 で、じゃあWOMマーケティング協議会はいったい何を目指している組織なのか?ということなのですが。
 実は、本当に正直なことをぶっちゃけてしまうと、私自身は協議会ができることはかなり限定的だと思っています。
 人によってはWOMマーケティング協議会が警察的な組織になって、ルール違反のマーケティングを罰するべきだとか、そういう主旨のマーケティングのルールを定めるべきだという方もおられるとは思いますが。
 実際にはクチコミマーケティングって、別に広告代理店やPR代理店でなくても、簡単にそれっぽいサービスは実施することができますし、企業の担当者一人ががんばれば実施することもできるわけで、いわゆる業界団体でルールを定めたところで、それ以外の事業者がルール違反をすれば団体ができることはほとんどありません。
 例えば、海外のスパム事業者に対して、WOMマーケティング協議会ができることはほとんどないでしょう。
 また、日本では「クチコミマーケティング」という言葉が、独自の市場のように一人歩きしていますが、個人的にはクチコミを意識したマーケティングというのは、マーケティングの基本だと思っていたりして。
 そう言う意味では、関係事業者が必ず入らなければいけない業界団体という形式を取るのは不可能なのではないかと思ったりしています。
 また、米国に比べると、日本のマーケティング倫理というのは、かなり基準が違うのが現状です。
 米国のGizmodoやTechCrunchの話を聞くと、米国のメディアではPayPerPostはもちろん、記事広告すら絶対やるなというメディアが多いそうですし、Weblogs,Incのガイドラインをみると、ものをもらって記事を書くこともNGとされています。
 メディアパブの田中さんによると、米国のプロのジャーナリストは、レビューを書くときも製品はレンタルして記事を書き返却するのが当たり前で、記者発表会等への交通費ももらわないのが普通だったりするそうです。
 ひるがえって日本の現状を考えると、クライアント企業が純広告よりも記事広告やいわゆるクチコミマーケティングに傾倒している傾向があり、企業のニュースサイトや雑誌ですら広告なのか記事なのか曖昧なエリアが拡大している状態だそうで。
 さらには、いわゆるクチコミマーケティングを売りにしたサービスが大量に発生したために、すでに一部の人たちの間では「クチコミマーケティング」ってなんか怪しい、という印象を持っている人まで増えてきているそうで。
(そんなわけで、もともとクチコミマーケティング協会という名称の予定だったのが、WOMマーケティング協議会という名称に決まった経緯があったりします。)
 そんな環境の中で、WOMマーケティング協議会が純粋なルールを設定しても、既存クライアントのニーズや要望を考えると、実効性は残念ながらかなり低いでしょう。
 協議会という組織自体、さまざまな思惑の企業が参加するごった煮の組織な訳で、そんな組織で高いハードルのビジョンを持ったルールを設定するのは相当難しいと思っています。
 
 ただ、それでも私がWOMマーケティング協議会をやるべきだと思っていて、AMN自身の運営で精一杯なのにWOMマーケティング協議会の設立にコミットしているのは、「そういう議論自体をやることに価値がある」と信じているからです。
 業界としては素人ながらに、いわゆるマーケティング業界に入ったつもりで二年たちますが、日々感じることが多いのはこの業界の意外な閉鎖性というか業界ごとの壁。
 日本の組織が、宣伝、広報、マーケティング、販促、営業、システムなど、縦割りになっていることが多いのと同様に、業界側も広告代理店、PR代理店、制作会社、ネット系サービス企業、クチコミマーケティング事業者などがそれぞれに課題や疑問を持ちつつも、それぞれに最適解を模索している感じ。
 成功事例も失敗事例も、米国のマーケティング系イベントなんかに比較すると、まだまだ本音の話があまり表に出てきませんし、ノウハウの共有も進んでいない印象があります。
 いろいろ話を聞いていると、マーケティングの専門家が眉をひそめるような手法を運営している企業においても、実は担当者がほかの会社のサービスを見よう見まねでやっているので、そういう専門家からみると倫理的に良くないサービスになってしまっているだけで、新しい業界の常識を知ってえらくあわてる、なんていうケースもあるようです。
 マーケティングの炎上事例でも、担当者がリスクを知らずにある意味天然で代理店に依頼したケースが多いように聞きますし、年末に話題になったやらせ行列問題にしても、担当者の人からしたら「みんなやってるのに何でうちだけ」ときっと思っているのではないかと思ってしまったり。
 まぁ、インターネット以前のマーケティングは、別にそれが問題になることも少なかったですし、それでも良かったんだと思いますが。
 現在は、利用者の怒りをかう手法を使ってしまった場合、それが利用者にばれると一気にネットで注目されて、メディアに取り上げられるという悪いスパイラルに入る可能性があるという時代になっていて。
 そう言う意味では、企業も事業者側も、もっと注意してマーケティングを考えなければならなくて、何が利用者にとって良い手法で、何が良くないのか、という議論や情報共有自体が、もっと業界の垣根を越えてされるべきではないかと思ったりするのです。
 個人個人ではいろんなネットワークがあるでしょうし、意見交換の機会もあるのだとは思いますが、いろんなものの境界線が溶けて無くなろうとしている今にあった「場」というものは、もっとあっても良いのではないかと感じます。
 そう言う意味では、個人的には、昨日のクチコミマーケティング研究会は、まずその最初の一歩としての位置づけで、これからそういう議論や情報交換が増えていくかどうかが、まずはWOMマーケティング協議会に向けたチェックポイントなのかなーと感じた一日でした。
 
 もちろん、もし、WOMマーケティング協議会が、そういう場の一つとして確立できるのであれば、きっと単なる情報交換の場としてだけではなく、いろんな意味でマーケティングにとって意義のある組織になりうるとは思いますが。
 そもそも、そこに到達できるかどうかは、クチコミマーケティング研究会に参加している一人一人の思いがどれだけつながるかにかかっているのかなーと思ったりします。
 何だか世話人をしているのに、あまりに第三者的な緩い感じのコメントですいませんが、現在のWOMマーケティング協議会設立準備会と、クチコミマーケティング研究会は本気でそれぐらいの緩い運営になっています。
 
 ただ、個人的には、そういう業界とか組織の境界線を超えた情報共有や、意識のすりあわせが、広い意味での業界全体の空気とか慣習を変えていく力になりうるのではないかと信じています。まずはそこから始めようというのが現在のWOMマーケティング協議会設立準備会のステータスだとご理解頂ければ幸いです。
 そう言う意味では現在のWOMマーケティング協議会設立準備会は参加して、何か特別な情報が得られたり、マーケティングに取り組む上で何か得することがあるかというと全くそんなことはなく、逆に研究会に参加したら無理矢理ブレストに参加させられたり、会のお手伝いを頼まれてしまったり、鏡割りを頼まれてしまったりという、そんな不思議な団体だったりするのですが。
 そんな場で、業界の他の人たちと情報交換や議論をしたいという方、日本のマーケティングの将来に可能性を感じていつつも不安がある方は、企業の中で一人で試行錯誤しながら悩んでおられるような担当者の方は、まだまだ、発起賛同人も募集中ですし、メーリングリストに登録することも可能ですので、興味がある方は是非登録だけでもしてみてください。
 研究会の様子を知りたい方は、参加された方々の記事を参考までにどうぞ
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“クチコミマーケティングの発展にWOMマーケティング協議会ができること” への1件のフィードバック

  1. WOMマーケティング協議会の研究会に参加

    適当に書き散らかすだけのブログもどうかと思い、しばらく書いていませんでした。1月ももう月末ですが、今年初めてのエントリーです。今日はニュースへのコメントで…

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