「クラウド化する世界」は、インターネットによって引き起こされる変化の本質について詳細な考察をしている書籍です。
昨年末に購入して読んでみたので、書評抜き読書メモを公開させて頂きます。
この本では、いわゆる最近日本でも注目のクラウドコンピューティングの「クラウド」がタイトルに使われていますが、現代は『The Big Switch』。
最近よく報道されるようなクラウドコンピューティングのバラ色の未来を語っているのではなく、第三者の視点からIT産業を電力産業の歴史と並べて、冷静にこれから起こる変化について分析している点が印象的です。
「ウィキノミクス」や、「ヒトデはクモよりなぜ強い」を読んで、未来の可能性に興奮している人が、一旦冷静になるという意味で読んでおくべき本だと思います。
【読書メモ】
■電力とコンピューティングの類似点
電力の供給が開始されたとき、電力は制御しにくい予測不可能な力だった。
今日のコンピュータシステムと同様、企業はどのように電力を事業に利用すべきかを考えなければならず、組織や製造工程をすべて変更することもしばしばだった。
■「ランプが光り、発電機が電流を作り出すことだけが必要なのではない」(エジソン)
凡百の発明者と違って、エジソンは個別的に創造することはなかった。彼が造ったのは、システム全体だった。最初に全体を想像し、次に必要な部分を造り、それらの部分を継ぎ目無く適合させた。
■コンピュータのパーソナル化が複雑で無駄な現象を伴う理由
コンピュータの処理能力は通信ネットワークの容量が拡大する以上に急速に進歩してきた。
・ムーアの法則「マイクロプロセッサの能力は1,2年毎に2倍になる」
・グローヴの法則「電気通信の帯域幅は世紀が変わるごとに2倍になる」
■「労力節約用の機器のおかげで労働を軽減できたのは主婦ではなく、それまで主婦を手助けしてた人々だった」(ルース・S・コーワン)
■社会的生産を可能にした3つの技術的進歩(エール大学 ヨハイ・ベンクラー)
・情報や文化的創造に参加するために必要な物理的機械は、先進経済諸国ではほぼ普遍的に流通している
・情報経済における主要な原料は、物理的経済とは異なり、公共財、すなわち既存の情報、知識、そして文化である
・インターネットはさまざまな動機を持つ人々にそれぞれの目的のために行動させながら、全体としては新しい有用な情報や知識、文化財にまとめることのできるモジュール式プロダクションのためのプラットホームを提供している
■産業革命の始まった当初から、大企業への富の集中は、徐々にではあるが確実に進行していた。それを一気に加速させたのが、配電網の整備である。(中略)
しかし汎用コンピューティングネットワークの出現は、全く異なるかたちでの経済の再編成を予言している。少数の企業に富が集中するのではなく、少数の個人に富が集中し、中流階級は侵食され、持てる者と持たざる者の格差が拡大するだろう。
■プルトノミー(Plutonomy) アジェイ・カプール
「ごく少数の富める者が経済成長の原動力となり、その成長を消費する経済体制」
■コンテンツのバラ売り時代(アンバンドリング)
「世界中のコンピュータを単一のネットワークへと束ねたことが、バラ売り時代の先駆けとなったのだ」(ダニエル・アクスト)
■「小さなコミュニティが乱立するバルカン化」(ブリニョウルフソン)
意見を同じくする見解や人々を好むというささやかな傾向がある以上、人間はオンライン上では、一層分化したコミュニティを形成する傾向を示すだろう。
■「同じ意見を持った人々が群れると、その傾向は一段と悪化し、誤った認識を拡散してしまう」(キャス・サンスタイン)
最悪の場合「過激と狂信とテロリズムを植え付ける」ことになるかもしれない
■多目的技術であるワールドワイドコンピュータは、善人に提供しているのと同じ多種多様なアプリケーションを悪人にも提供している
■コンピューティングとネットワーキングにおける重要な進歩の多くは、大衆を解放したいという願望で生み出されたのではない。産業と行政の官僚-それもしばしば、軍事や国防と関わりのある人々-の側で、コントロールが大いに必要とされていることによるところが大きい。
■以前はつながれていなかったコンピュータを厳格なプロトコルによって支配されているネットワークにつなげることは、実際には「新たな支配装置」を作り上げてしまった。(アレキサンダー・ギャロウェー)
「ネットの設立原理は”支配”であって”自由”ではない。最初から支配は存在していたのである」
■メディアは、単なるメッセージではない。媒体は、頭脳でもある。我々が何を、どのように見るかを具体化する。
・印刷されたページは「論理、順序、履歴、注解、客観性、自立性及び規律の重要性を強調してきた(ニール・ポストマン)
・インターネットが重視するのは即時性、同時性、偶然性、主観性、廃棄可能性、とりわけ速度である。
■我々がウェブ上では「パンケーキ人間」になったように感じるのは、それが我々に割り当てられた役割だからだ。
■「ロウソクの弱々しい光の中では、周囲の者が全く異なる、より際だった輪郭をみせることに私たちは気づいた。ロウソクの炎は、物に”現実味”を与えるのだ」
この現実味は「電灯では失われてしまった。物はよりはっきり見えるようだが、現実味という点では、鈍化してしまう。電灯は明るすぎるので、物はその本体や輪郭や質感を失う-ひとことで言えば、本質を失ってしまうのだ」
クラウド化する世界 村上 彩 翔泳社 2008-10-10 by G-Tools |