「ウィキノミクス」は、いわゆるウェブ2.0的な世界における特徴的な現象や、その原理について考察した本です。
昨年購入して読んでいたのですが、読書メモを書けてなかったので、書評抜き読書メモを公開させて頂きます。
すでに多数のブログで書評が書かれているように、この本は「フラット化する世界」や「ウェブ進化論」などで描かれている変化によって、具体的にどのような新しい仕組みが生まれつつあるのかということを豊富な事例と共に解説した本です。
今年は、個人的にもクラウドソーシング的なアプローチにチャレンジしたいと思っているのですが、そういったネットならではの新しいアプローチに興味がある方はこの本は必読書だと思います。
【読書メモ】
■ウィキノミクス
・ピアプロデューサー:ビットでできた製品の構築にはオープンソース型のやり方が利用できる
・アイデアゴラ:アイデアと革新の備えある人材のグローバル市場にアクセスすれば、問題解決能力を拡大することができる
・プロシューマー:価値創造に参加できるだけのツールをユーザーに与えれば、とてつもない革新の源となる
・新アレクサンドリア人:コラボレーションによる科学という新しいやり方により、技術革新の加速とコストの削減ができる
・参加のプラットフォーム:パートナーによる大規模コミュニティが協力関係で結ばれたエコシステムとなって価値を生む。
・世界工場:企業の境界も国境も越えて人的資本を活用し、物理的な物の設計や組み立てを行うことができる
・ウィキワークプレイス:さまざまな形で組織階層を打ち破り、意欲を高め、イノベーションを増やすことができる
■可能性と危険性
小さくてオープン、もちつもたれつの世界はダイナミックで高い活力をもつ可能性があると同時に、テロや犯罪が増えるおそれもある。
■「集産主義には強制と中央集権が伴う。集合活動は自由意志による選択と分散型協調が特徴である」(ハワード・レインゴールド)
共産主義が個人の独立的思考を抑圧するのに対し、マスコラボレーションとは、個人や企業が広く分散されたコンピュータと通信技術を活用し、ゆるやかで自発的な協力関係を通じて共有する成果を得ることなのだ。
■ウィキノミクスの4本の柱
・オープン性
・ピアリング
・共有
・グローバルな行動
■「大企業の大半は多国籍企業であってグローバル企業ではなく、それが大企業にとって大きな問題になりつつあります」(GMのCIO ラルフ・ジジェンダ)
■ファンはボランティア宣教師(コリー・ドクトロウ)
「読者に作品のファイルを託すと、彼らは私を仲間だと認めてくれるのです」
■新しいウェブの先頭を切る4つのテーマ
・ブロゴスフィア
・集合知
・公開広場
・偶発性イノベーション
■「顧客を信じるとおもしろいことが起こるんです。顧客が信じてくれるんですよ」(タンテック・セリック テクノラティ)
■西側諸国の教育システムが衰退している原因は、子どものしつけが悪いからでも、先生の質が悪いからでも、基準に実効性がないからでもない。夢中になれるコンテンツが無い点なのだ。
■「コースの定理」
社内のほうが安上がりなら社内でやれ、市場で調達したほうが安上がりなら社内でやろうとするな
・インターネット以前:新しい取引を社内で行うコストがオープンな市場で行うコストと等しくなるまで規模を拡大していく
・インターネット以後:社内で取引を行うコストが社外コストを超えないレベルまで、企業は規模を縮小すべき
■ゆるやかなピアネットワークで、豊富な資金力をもつ大企業と対等に渡り合えるほどの財やサービスを生み出せるのは、自発的参加によるピアリングのほうが適材適所を実現しやすいから。
■財産権という概念の逆転
・従来の知的財産とは、成果物を他社が利用したり配布したりできないように排除する権利
・ピアプロダクションでは、「一般公衆利用許諾契約」(GPL)により、変更点がコミュニティで共有されることを条件に成果物の共有と変更の権利をユーザーに保証する。
■ピアリングの3つの条件
・生産物が情報や文化であること
・全体を小さな部分に分割し、他の部分とは独立に貢献できる形でなければならない。
・こうして得られた部品をくみ上げて最終成果物にするコストが小さくなければならない
■ピアプロダクション活用のポイント
・弱点の克服に利用すること。
・バランスの取れたアプローチをすること
・コミュニティの規範を受け入れ、そのスピードに合わせること
・優先順位を高くすること
■ピアプロダクションの事業的メリット
・社外の人材が活用できる
・ユーザーとともにあることができる
・関連製品の需要を喚起できる
・コストが削減できる
・競争のポイントを動かすことができる
・コラボレーションから摩擦をなくすことができる
・社会資本の形成ができる
■プロサンプション:製品の創出にユーザーが積極的かつ継続的にかかわる形態
■現状を変えようとしている二つの力
・ユーザーがプロシューマー・コミュニティを作るようになった結果、取るに足らない動きだったものがオープンな場に出てきたこと。
・「リードユーザー」と呼ばれる自分で製品プロトタイプを作ってしまう人々が行う改造の中に、メインストリームの市場にとっても魅力的なものがあると企業が気づいたこと
■プロシューマー・コミュニティの活用のポイント
・単なるカスタマイズではない
・管理統制は不可能
・ツールキットと環境整備
・参加してピアとなる
・成果を共有する
■遺伝子配列をパブリックドメインとすることにより、メルクは、バイオテクノロジー企業によって大事な情報にライセンス料金と取引費用という重しがつけられることを防ごうとしたのだ
■大学とのパートナーシップの活用のポイント
・産学パートナーシップによって製品ロードマップを刷新すること
・ウィン-ウィンのコラボレーションとすること
・研究者コミュニティを広くカバーすること
・科学はオープンに保ち、応用を独占すること
・顧客の「代理人」から学ぶこと
■オープンプラットフォームの3つのポイント
・最初に実験ではなく淘汰が行われるようになったため、たくましいビジネスモデルだけが生き残る
・徹底的な分散化とオープン化からは扱いにくい環境が生まれるが、そこで的確となるビジネスモデルを作らなければならない
・利害関係者、全員が、各自の貢献に対して十分かつ適切な金銭的補償を得られなければ、参加のプラットフォームは継続的に成立できない
■ダイナミックなプラットフォームをもつ企業こそ、数え切れないフリーエージェントが提供する豊かな才能を手にできる可能性が高い
■ピアプロダクションの特性や利点の多くが原子でできた製品にも適用できることも事実(それを実現した例が中国の二輪車産業。数百社が設計から製造までをコラボレーションで進める形となっている)
■世界工場を使いこなす
・価値を左右するポイントに集中すること
・編成し、組織する力を通じて付加価値をつけること
・迅速で相互的な設計プロセスを構築すること
・モジュール型アーキテクチャーを活用すること
・透明で平等なエコシステムを作ること
・コストとリスクを分散すること
・未来を見つめる鋭い目をもつこと
■ウィキワークプレイス
ボトムアップ型アプローチは、明確な構造で指示を与えなければ社員は何もできないという深く染みついた常識とまっこうからぶつかる。
■ブログを書く理由は、広報するためでもなければ顧客に良い印象をもってもらうためでもなく、自己満足のためでもない。ただ単に、全社メールを送るより、ブログのほうが効率的で透明性が高く、交換がもてるからだという(サン・マイクロシステムズ CEO ジョナサン・シュワルツ)
■リナックスやウィキペディアなどのコラボレーションプロジェクトが示しているものは、社員を企業の階層構造に合わせようとするより、生産的な組織を社員に自律的に作らせたほうがずっと簡単で費用もかからないことが多いと言うことだ。
■ウィキノミクスの設計原則
・リードユーザーからヒントを得ること
・クリティカルマスを達成すること
・コラボレーションのインフラストラクチャーを提供すること
・十分な時間をかけて適切な構造と統制を実現すること
・参加者が価値を得られるようにすること
・コミュニティの規範に従うこと
・プロセスが進化するに任せること
・コラボレーションの精神を研ぎ澄ますこと
ウィキノミクス マスコラボレーションによる開発・生産の世紀へ 井口 耕二 日経BP社 2007-06-07 by G-Tools |