アンバサダー・マーケティング(ロブ・フュジェッタ)を読むと、釣った魚にエサをやらない従来のマーケティング手法は、すごいモッタイナイと感じられると思います。

4822249778 このたび、こちらの「アンバサダー・マーケティング」という書籍で、解説を担当させていただきました。
 本日10月3日、発売となりますので、書評抜き読書メモの前半を公開させて頂きます。
 今日の夕方開催するインバウンドマーケティングとアンバサダーマーケティングのダブル出版記念セミナーでも紹介させていただきますが、この「アンバサダー・マーケティング」は、AMNのクリエイティブディレクターである藤崎さんが監修を担当し、私が解説を書くという形で、AMNが全面的に出版をお手伝いする形で取り組んだプロジェクトになります。
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 表紙にも書いてあるように原題は「Brand Advocates」。本来はそのまま翻訳するなら「ブランド・アドボケーツ」や「アドボケーツ・マーケティング」とするべきだったんでしょうが、それでは米国のマーケティング事情に詳しい一部の方にしか伝わらないだろうと出版社の方々にもアドバイスをいただき、ブランドアドボケーツ=ブランドの熱烈な支援者という言葉の雰囲気に近い「アンバサダー」に全部置き換える形で翻訳をさせて頂いています。
 もともとは、「教えて!カンヌ国際広告祭」などの書籍でもおなじみの佐藤達郎さんに、この本のコンセプトがAMNの提唱しているアンバサダー重視のアプローチに非常に近いから翻訳したほうが良いとご紹介いただいたのですが、私自身も読んでみて私以上に、アンバサダー的な口コミしてくれるファンの価値を強烈に推奨している本で驚いたのをよく覚えています。
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 ちょっと読んでもらえばすぐわかると思いますが、「インフルエンサーは注目を集めるのは得意だが、必ずしも売上に貢献するとは限らない。アンバサダーがオススメすれば売上に直結する」とか「アンバサダーに報酬を払わない」や「カネや無料サンプルを渡さなければ動いてくれないような顧客は、本物のアンバサダーではない。傭兵である。」など、一般的な日本のキャンペーンの現状からすると、かなり過激な発言が続きます。
 ここまで純粋にシンプルに考えて本当に機能するのか?というのは当然大勢の方が思うはずで、実際米国でも賛否両論を含んだ議論を他のマーケッターと、そこここで交わしているようです。
 ただ、この著者のロブ・フュジェッタ氏のすごいのは、その信念のもと、実際に多数の企業と報酬に基づかないアンバサダープログラムを展開し、成果を出しているところでしょう。
 本書で紹介されるNPSの究極の質問とアプリを組み合わせた手法は、パッと読むと本当にこんな上手くいくのかな?と疑問がわいてしまうぐらいシンプル。
 私自身も、この数年、アンバサダーやアドボカシーを重視した手法を推奨してきた人間ですが、この著者は私以上に、口コミしてくれるファンの価値の可能性を心底信じている人なんだなというのが伝わってくる本です。
 解説にも書かせていただきましたが、そうはいってもソーシャルメディアユーザー比率の高い米国の成功事例ですので、日本でこれをこのまま真似するのは、ツイッターやFacebook活用と同様良くないと正直思っている面もあります。
 ただ、やはり本当の意味でアンバサダーの価値を明確にしようと思うと、ここまで一気に言い切ってしまって証明していく必要があるのかなとも感じています。
 特に、同じく解説にも書いたように、日本企業は顧客との関係を大事にしている企業が多く、実は多数の既存顧客が口コミで顧客を連れてきている事実を日々感じているんですが。
 従来のマスマーケティングの価値観では、大事なのは新規顧客獲得であって、既存顧客やファンというのは「釣った魚」であって無価値に見られがちなんですよね。
 最近のiPhoneによる3携帯事業者による新規顧客獲得合戦が象徴で、長くその事業者の回線を使い続けている優良顧客より、毎年事業者を変更しているキャリアホッパーの方が毎回キャッシュバックで優遇されるなんて、明らかに何かが間違ってると思うんですが。
 これこそがこれまでの新規顧客獲得を重視するマーケティングの常識であり、釣った魚にエサをやらないのが常識の世界観だと思うんですよね。
 でも、ソーシャルメディアによって顧客の口コミの影響力が急上昇している今現在、これって実はすごいモッタイナイことだと思うんですよね。
 そういう意味では、アンバサダー・マーケティングを読んでもらえると、ソーシャルメディアの普及によって影響力を持ったファンをアンバサダー化し、いわゆる「釣った魚」と一緒に新しい市場を作っていくマーケテイングの可能性というのを感じてもらえるのではないかなと思います。
 昨日ご紹介した「インバウンドマーケティング」はもちろん、「グランズウェル」や「エフェクト」と合わせて読むのもお勧めです。
 ちなみに、AMNでも本日の出版記念セミナーのような活動も含め、アンバサダーに関する取り組みを継続して「アンバサダー・ラボ」というブログで今後ご紹介していく予定ですので、こちらも是非ウォッチしてください
【読書メモ】
■この本に登場するマーケティングは、マスコミュニケーションでは不可能だったユーザー一人ひとりの気持ちに着目し、個人とつながりを持つことで、個人の気持ちと熱量をマーケティングに生かすものだともいえる。(藤崎 実)
■アンバサダーがこれほど力を持っている理由は、たった一言で説明できる。「信頼」だ。世界中のネットユーザー10人中9人が、様々な広告形態のうち最も信頼できるのは友人や家族からのオススメだと答えている。ネット広告を信頼するのは10人中2人に過ぎない。
■最近の当社の調査では、アンバサダーの49%が商品やサービスをオススメする主な理由として「使ってみて良かったから」を挙げた。
 オススメする主な理由として、インセンティブや報酬を挙げた回答者はわずか1%だった。
■アンバサダーは何をしてくれるのか
・実質的な営業部隊として活躍してくれる
・ネット上の評価を高めてくれる
・すばらしい経験の”証言者”となってくれる
・質問に答えることで、迷っていた買い手を購入に踏み切らせてくれる
・クチコミによる紹介客、クリック数、販売数を増やしてくれる
・新商品の販売を応援してくれる
・説得力のある宣伝コピーを作ってくれる
・会社やブランドを批判者から守ってくれる
・競合の存在や市場ニーズを知らせてくれる
・フィードバックを提供してくれる


■アンバサダーの多くは2~3タイプの商品に関してきわめて強い影響力を持っているが、それがあらゆる商品カテゴリーに波及するわけではない。
■インフルエンサーvsアンバサダー
・インフルエンサーの多くは、自らをブランドから独立した存在だと考えている
 アンバサダーはあなたのブランドに夢中だ。
・インフルエンサーは移り気だ。
 アンバサダーの愛情は、生涯続くこともある。
・インフルエンサーは注目を集めるのは得意だが、必ずしも売上に貢献するとは限らない。
 アンバサダーがオススメすれば売上に直結する
・インフルエンサーよりアンバサダーの方が人数が多い。
・アンバサダーにオススメしてもらうのに報酬やインセンティブを提供する必要はない。
■パワー・アンバサダー
・交友範囲の広さ
・頻度
・影響力
■アンバサダーを増やす五ヶ条
・ヤバいぐらい最高の製品
・記憶に残るサービス
・良い利益を得る努力をする
・コストが増えても正しいことをする
・社会的良心を持つ
■はっきりさせておきたいのは、アンバサダー・マーケティングの目的はアンバサダーに何かを売ることではなく、アンバサダーとともに売ることだ。
■アンバサダー・マーケティングを有償の紹介やレビュー制度、クーポンをシェアした人に報酬を支払う販促手段などと混同しないようにしよう。
 有償の紹介やレビューは推奨ではなく、賞金稼ぎだ。
■カネや無料サンプルを渡さなければ動いてくれないような顧客は、本物のアンバサダーではない。傭兵である。
■アンバサダーの三大効果 三つのR
・Revenue:需要と売上高を増やす
・Referral:顧客獲得コストを半減させる
・Recommendation:好意的なクチコミを増幅し、ネット上の評価を高める
■信頼の三角形
・アンバサダー 推奨 ← 喜び、自己表現
・潜在顧客   収益 ← 満足感、便利
・マーケター  アンバサダーへの報酬 ← 紹介客、売上、クチコミ
※お金のインセンティブよりも無形の報酬
■アンバサダー・マーケティング 五つのポイント
・アンバサダーに報酬を払わない
・アンバサダーの手間を省く
・アンバサダーの発掘・活性化は継続的に
・アンバサダーの意見に耳を傾け、やる気を引き出す
・結果を追跡し、最適化する

4822249778 アンバサダー・マーケティング
ロブ・フュジェッタ 藤崎実
日経BP社 2013-10-03

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