「リーン・スタートアップ」は、スタートアップの成功のためのポイントについて、エリック・リース氏が考察されている書籍です。
献本を頂いていたので、遅ればせながら書評抜き読書メモを公開させて頂きます。
いまやシリコンバレーやスタートアップ業界において、「リーン・スタートアップ」という言葉は標準語に近い状態になっていると言えます。
日本にも著者が出版記念で来日して、ワールドビジネスサテライトで取り上げられるなど話題になりましたが、海外のスタートアップ系のイベントに出ると必ずと行って良いほど、このキーワードを耳にすることになるといっても過言ではないでしょう。
実際、本を読んで個人的にも驚いたのは、これまでに様々なところで議論されていたスタートアップが抱える課題やその乗り越え方が、実に体系的に整理されていること。
同じような話を語っている人は、これまでにもたくさんいたと思いますが、ここまでそのポイントを整理して一冊にまとめた本はなかったと思います。
ピボットやMVP(minimul viable product)など、スタートアップ系のイベントで登壇者が解説なしに使うようになっている言葉のコンセプトも説明されていますから、まさに今後しばらくはスタートアップ業界のバイブルとして使われるようになる本だと言えると思います。
ちなみに、個人的にちょっと嬉しかったのは、リーン・スタートアップのリーンという言葉が、トヨタのリーン生産方式から来ていることが何度も明確に書かれていること。
書籍の中でも「第二次世界大戦後、トヨタをはじめとする日本の自動車メーカーは最新の大量生産技術を駆使する米国の巨大向上に太刀打ちできなかった。この状況を逆手にとり、バッチサイズの縮小で成功したのが大野耐一や新郷重夫らのイノベーターだ。」と、リーン生産方式を開発した大野耐一氏、新郷重夫氏の功績をたたえていますが、現在のネット産業における日本のスタートアップの生きる道が、一つここに描かれているように思います。
GoogleやFacebookのような巨大なインフラになりつつある米国のウェブサービスに対し、日本のスタートアップはどのように自らの役割を定義していくべきか。
そんなことも妄想したくなる本です。
スタートアップに携わっている人はもちろん、変化の激しいインターネットやソーシャルメディアに携わっている方には是非読んで欲しい本です。
【参考記事】
・「リーンスタートアップ」著者エリック・リース氏が来日講演。”スタートアップとはマネジメントのことだ” - Publickey
【読書メモ】
■リーン・スタートアップの5原則
・アントレプレナーはあらゆるところにいる
・起業とはマネジメントである
・検証による学び
・構築-計画-学習
・革新会計
■リーン・スタートアップという名前は、トヨタで大野耐一と新郷重夫が開発したリーン生産方式にちなんだものだ。リーンな考え方は、サプライチェーンや製造設備の運営方法を根本から変えつつある。
■スタートアップの三層構造
・ビジョン
・戦略(ピボット)
・製品(最適化)
■スタートアップとは、とてつもなく不確実な状態で新しい製品やサービスを創り出さなければならない人的組織である。
■小さな数字が出るくらいなら、売上ゼロ、顧客ゼロ、魅力ゼロのほうが資金をはじめとする経営資源を手に入れやすい。
■ザッポスはごく小さなシンプルな形でスタートした。
提供サービスを構築したからこそ、以下のことを学べた
・顧客の望みについて精度の高いデータが得られた。
・現実の顧客とやりとりする位置に自らを置き、顧客のニーズを学んだ。
・顧客が予想外の行動をする場合があり、たずねようとも想わなかった情報を入手した。
■製品開発で問うべき4つの問い(マーク・クック)
・我々が解決しようとしている問題に消費者は気づいているか?
・解決策があれば消費者はそれを買うか?
・我々から買ってくれるか?
・その問題の解決策を我々は用意できるか?
■共通する問題は「十分な調査にもとづく計画を信じる」という一般的な総括マネジメント手法の常識を乗り越えなければならない点だ。計画というのは長期にわたり安定した運用実績があってはじめて効果を発揮するツールである。
■スタートアップのステップ
・仮説:挑戦の要(leap of faith)
・構築フェーズ:実用最小限の製品 MVP(minimul viable product)の構築
・計画フェーズ:革新会計(innovation accounting)
学びの中間目標(learning milestone)の設定
・学習フェーズ:ピボット(pivot)
■現地・現物(自分で行って見ること)
顧客を実際に確認して理解し、それをベースに戦略的な意思決定を行うこと
■アントレプレナーが市場調査を行う際の二つの危険
・少しでも早く行動に入りたがり、戦略の分析に時間をかけたがらない
・分析による停滞。計画の改定を繰り返してばかりで先に進めなくなる。
■手間の問題から顧客を増やすのが難しくなったとき、初めて、製品開発という形で処理の自動化をスタート
MVPが段階的に進化するたび、少しずつ時間が節約され、少しずつ多くの顧客に対応できるように。
■アイデアを知られたら他者のほうがうまく実行できるのであれば、いずれにせよそのスタートアップに生き残れるチャンスはない。
■コホート分析
総売上や総顧客数のような総計あるいは累積値を見るのではなく、製品と新しく接する顧客グループの成績を個別に見る。
■ファンネルの例
・登録したがログインしなかった
・ログインした
・会話を1回行った
・会話を5回行った
・有料会員になった
■虚栄の評価基準
総顧客数をはじめとする虚栄の評価基準でスタートアップの目がくらむと、革新会計が正しく機能しなくなる
■作業の段階的進捗を表すかんばんダイヤグラム
ひとつのバケツには最大で3つのプロジェクトしかいれられない
・バックログ
・構築中
・構築完了
・検証中
■3つのしやすさ
・行動しやすさ:レポートが行動につながるためには、因果関係がはっきりしていなければならない。
・わかりやすさ:レポートはできるかぎりシンプルにして全員が理解できるようにする
・チェックしやすさ:社員が信じられるデータにしなければならない
■ピボット前とピボット後
・成長のエンジン
・登録率
・アクティベーション
・定着
・紹介
・売上
・生涯価値
■ピボットのさまざまなタイプ
・ズームイン型ピボット
・ズームアウト型ピボット
・顧客セグメント型ピボット
・顧客ニーズ型ぴぼと
・プラットフォーム型ピボット
・事後湯構造型ピボット
■第二次世界大戦後、トヨタをはじめとする日本の自動車メーカーは最新の大量生産技術を駆使する米国の巨大向上に太刀打ちできなかった。
この状況を逆手にとり、バッチサイズの縮小で成功したのが大野耐一や新郷重夫らのイノベーターだ。
■ポイントは顧客ではなく「顧客に関する仮説」
フィードバックループは実際に行う順番に合わせて「構築-計画-学習」としているが、計画はこの逆順で考える。まず学ぶ必要があるものをみつけ、そこから逆順でその学びが得られる実験となる製品を考える。
■過去の顧客の行動が新しい顧客を呼び込む
・クチコミ-製品に満足した顧客がいれば、そこから自然な成長がもたらされる
・製品の利用に伴う効果-ファッションやステータスになる製品は、使われているだけで宣伝効果がある
・有料広告を通じて-獲得費用が獲得した顧客から得られる収益よりも少なければ、その差を使ってさらに多くの顧客を獲得できる
・購入や利用のリピートを通じて
■3種の成長エンジン
・粘着型成長エンジン-顧客が魅力を感じ、長期にわたって使ってくれるように設計した製品を提供している→顧客の離反率や解約率に注目する
・ウイルス型成長エンジン-その製品を顧客が普通に使うだけで人から人へと認知が広まる→ウイルス型ループは、ウイルス係数からその回転スピードが求められる
・支出型成長エンジン-顧客生涯価値と顧客獲得単価に注目する
■5回のなぜ
技術的に見える問題も、その根底には人的問題が隠れている。
なぜを5回問えば、その人的問題を発掘できる可能性がある。
■5回のだれ、を避ける方法
トラブルの影響を受けた人、全員を集めて真因の追求をすること
会議室がとても混むかもしれないが、これはどうしても必要だ。この検討会に参加していない人がいると、それが誰であっても悪者にされるからだ。
■5回のなぜを活用するためのルール
・初回はどのようなミスに対しても寛大に接する
・同じミスは絶対に繰り返さない
■イノベーションを生み出すための組織的な特質
・少ないが確実に資源が用意されていること
・自分達の事業を興す権限を有していること
・成果に個人的な利害がかかっていること
■社内イノベーションでは、「どうすれば社内スタートアップを親組織から守れるか」が課題だとよく言われるが、私は逆に「どうすれば親組織を社内スタートアップから守れるか」が課題だと思う。
人間は脅されれば自分を守ろうとするものだし、皆が自己防衛に走っている状態でイノベーションは成功しようがない。
■イノベーションのサンドボックス
・製品やサービスのうち、サンドボックスにいれられた部分のみ、どのチームもスプリットテストによる実験を自由に行える
・ひとつの実験は最初から最後までひとつのチームが管轄する
・実験期間には上限を設定する
・実験対象の顧客にも上限を設定する
・実験の評価は、行動に繋がる評価基準が5~10個ある評価報告書1通で行う
・サンドボックスで作業するチームもそこで作られる製品も、すべて、同じ評価基準で成否を測る
・実験を準備したチームは評価基準と顧客の反応を実験中にモニタリングし、大きな問題が発生したら実験を中断する。
■企業は、4種類の仕事のマネジメントをしなければならない。
・製品の開発がなければ始まらない
・社内スタートアップが成長期に入ると、スケールアップの問題に直面する
・新製品の市場が確立されるとルーチン的な作業が増える
・4番目の段階は業務コストとレガシー製品が中心になる
■リーン・スタートアップの活動
・リーン・スタートアップ・ミートアップ
http://lean-startup.meetup.com
・リーン・スタートアップ・ウィキ
http://leansutartup.pbworks.com
・リーン・スタートアップ・サークル
http://leanstartupcircle.com
・リーンスタートアップの教訓会議
http://sllconf.com
■参考書
・イノベーションのジレンマ
・イノベーターの処方箋
・教育×破壊的イノベーション
・キャズム
・トルネード
・ライフサイクルイノベーション
・製品開発フローの原則
・トヨタの生産方式
・確実に勝つ
リーン・スタートアップ ―ムダのない起業プロセスでイノベーションを生みだす エリック・リース 伊藤 穣一(MITメディアラボ所長) 日経BP社 2012-04-12 by G-Tools |