mixiのプライベートグラフ戦略が正しかったということが、LINEによって証明されたという仮説

 先週末に、トライバルメディアハウスの社員の方が書いたブログが話題になり、最終的に社長の池田さん名で謝罪文まで出す結果になるという騒動がありました。
社員の「mixiは死ぬ」ブログに謝罪 SNSマーケティングのトライバルメディア
120717mixienjyo.png
 上記の件では、記事タイトルや記事内で「mixiは死ぬ」という表現を使ってしまったということで、お詫びすることになったようですが。
 実はこれでプレスリリース謝罪文の発行が必要になるなら、私自身も先日ツイッター上で「LINEすごいなぁ。完全にFacebookをぶち抜きましたね。mixiはLINEにとどめを刺される形になるとはなぁ。」というような類似の発言をしていますので、実は他人事ではありません。
 実際に、この発言を見て言葉の使い方が不適切と思われた方も少なくないようなので、訂正も兼ねてブログに発言の背景の詳細説明を書いておきたいと思います。
 まず、情報開示として、私の知り合いの方なら良くご存じだと思いますが、私はmixiには多数の知り合いや友人がmixiにいますし、mixi社長の笠原さんは尊敬している経営者の一人で、主催したイベントであるWISHに笠原さんにビデオ出演してもらったり、取締役の原田さんにパネリストで来てもらったりしている人間です。
 2010年には、TechCrunchの下記のような記事でmixiにエールを送ったこともあります。
mixiは、mixi日記成功の呪縛から解き放たれることはできるか。
 ブログを書き始めた2004年頃のmixiやGREEによる第一次SNSブームが私の人生を大きく変えたのは間違いありませんし、それから8年以上mixiの動向はウォッチし続けてきました。
 そういう意味では、私個人はmixiに盛り上がって欲しいと思っている人間ですし、企業のソーシャルメディア活用を支援する立場の人間としても、国産SNSの代表であるmixiの存在が、海外のプレイヤーとの差別化を図る上でも非常に重要になる立場にあるのが正直なところでもあります。
 企業向けのmixiページ勉強会を主催したり、企業のmixiページ開設の支援も行っていますから、実際には、上記のような発言をすべきではない立場の人間だと言えるでしょう。
 ただ、だからといって私がブログやツイッターで中途半端にmixiを持ち上げたところで逆にステマ呼ばわりされるのがオチですし、そんなもの誰もこのブログに求めていないと思いますので、あえて発言の背景を正確に書きたいと思います。
 それはLINEの登場によって、mixiのプライベートグラフ戦略が見直しを迫られる可能性がでてきたと感じたということです。
 もちろん、戦略の結果は後になってみないと分かりませんし、当然mixiが挽回できる可能性もあるわけですから、「とどめを刺される形」という表現は強すぎたと思います。
 とはいえ、今更言葉を繕っても仕方が無いですし、mixiにいる友人や知り合いの方々を鼓舞する意味であえて書きます。
 
 現在のmixiはFacebookを仮想敵として意識しすぎた結果、LINEとFacebookの両者に板挟みになってしまってきていると思います。


 日本でもFacebookユーザーが急速に増え始めていた2011年8月、mixiが提示した戦略が「mixiタウン」構想でした。
 
mixiページは「mixiタウン」構想の第1歩
120717mixipage.png
 Facebookに追い上げられ始めているとはいえ、1500万を超えるアクティブユーザーを抱えているmixiが、検索エンジンの対象外であるプライベートSNSから、Facebook同様のパブリックな検索可能なmixiページに展開していくというのは、個人的にも納得感がある戦略でした。
 実際、私は当時こんなブログを書いています。
mixiページでリスクを取ってでも、mixiが手にすべき3つの重要なパートナー
 また、個人的に興味深かったのが、その後mixiが繰り返し強調することになっていく「プライベートグラフ」という考え方です。
ミクシィ笠原健治氏ソーシャルメディアの立ち位置の違いを語る―IVS会場で
120717mixiprivate.png
 Facebookの人間関係は実名と言うこともあり平均150~200人ぐらいで比較的パブリックな性質が含まれるのに対し、mixiの人間関係は40人程度で近しい友達が中心のプライベートグラフである、というのは、実際の日本におけるFacebookの拡がりを見ていると興味深い指摘でした。
(米国においてはFacebookは本当に親しい人とつながるのが普通で、名刺交換しただけで友達申請すると驚かれるようなので、日米でFacebookの位置づけが違うということなのでしょうが)
 
 それから一年。
 個人的には、今、日本におけるプライベートグラフの重要性を証明しつつあるのは、LINEであると感じています。
120717line.png
 実際にはLINEも、もとは韓国を中心に流行していたカカオトークなどのクローンサービスということができますから、既に証明されていたプライベートグラフの重要性を日本で再発見した、という方が正しいのかもしれません。
 私はオープンコミュニケーションが好きな典型的なソーシャルメディア好きですから、ブログやツイッターのようなオープンなコミュニケーションに価値を感じている人間ですが。
 実際には人間のコミュニケーションというのはその99%以上がクローズドでプライベートなものです。
 
 固定電話も携帯電話もほぼ全ての通話はクローズドでプライベートですし、PCインターネットにおいても携帯インターネットにおいても、その最大の利用アプリはクローズドな「メール」のやり取り。
 実際、インターネットの利用時間のほとんどはメールに費やされていると言われています。
 
 だからこそ、クローズドコミュニケーションの象徴である電話会社出身の私は、ソーシャルメディア的なオープンなコミュニケーションに、コミュニケーションの新しい可能性を見いだして魅入られてしまうわけですが。
 一般的には、普通の人のコミュニケーションは、クローズドが中心で全く問題ないわけです。
 従来は、このクローズドコミュニケーションは、電話やメールなどのオープンなプロトコルによって実施されており、1社によって独占されてはいなかったわけですが、ここに来てLINEは、スマホにおけるメールやチャット機能の独占的プレイヤーになろうとしているわけです。
 まぁ、私自身、日本においてLINEのようなチャットサービスがこれほどの爆発を見せることがあるなんて想像もしていませんでしたし、後付けで解説者的に分析してるからこそ、言えることではあるのですが。
 実はプライベートグラフを重要視するのであれば、ツイッター的なタイムライン機能より何より、単純な双方向のメッセージ機能の方が重要で、mixiはスマホのmixiアプリで利用者同士のメッセージ交換機能をコアと考えて開発に取り組むべきだったかもしれない、というのが、現状から考えられる一つのシナリオです。
 今回LINEがソーシャル機能の実装を宣言したことにより、LINEはプライベートグラフに特化したSNSとして、ある意味アジア代表SNSとしての世界挑戦に打って出ることになります。
120717linetimeline.png
 昨年初頭から、mixiは最大のライバルとしてFacebookを意識せざるを得ない構造にありましたし、mixiチェックインやいいねボタン、mixiページなど、Facebookの類似機能の実装に開発リソースを奪われていたわけですが、その隙にmixiが提示していたプライベートグラフの領域にLINEという全くスコープに無かったライバルが彗星のごとく現れてしまったわけで、正直、この業界の変化の早さには恐怖すら感じます。
 いずれにしても、現段階でのmixiは、文字通りFacebookとLINEの板挟みになってしまっていると感じています。
 実名主義をグローバルスタンダードに世界を席巻しようとしているFacebookに対し、日本人はよりプライベートグラフの方が重要だからそこに特化するという戦略は実は非常に正しかったわけですが、その後mixiが注力していた機能はどちらかというとオープン側の機能が中心だったように思います。
 今となって振り返ると、実はmixiが注力すべきはプライベートグラフを強化するためのスマホアプリだったかもしれない、というのがLINEの登場による示唆といえると思います。
 まぁ、こんなもの後付けだから言える話で、2年前に分かったかというと分からなかったわけですが。
 いずれにしても、mixiのFacebookに対抗するプライベートグラフ戦略は実は非常に正しかったわけです。
 ついでに、先日、青山学院大学の経営学部の学生が主催する青山マーケティングサロンというセミナーで講演させて頂いた際に、経営学科2年の青木さんが「学生にとってのSNS」という調査結果を発表していたので、そこから関連するグラフを3つご紹介しておきましょう。
【調査概要】
 調査主幹:青山マーケティングサロン 経営学部経営学科2年 青木 優さん
 調査時期:6月中旬
 回答:1年生 224人 2年生 212人 3年生 146人 4年生 46人  合計 628人
 (男子354人、女子274人)
 まず所有アカウントの比率。
120717research1.png
 全てをおさえてLINEが1位です。
 
 さらに興味深いのが、実際の利用頻度のアンケート結果。
120717research2.png
 利用頻度のグラフが、mixiとLINEで極端に真逆になっています。
 それもそのはず、このアンケートの対象となっている青学生のスマートフォン所有率は実に86%にも上るんです。
120717research3.png
 
 いろいろ学生に直接聞いてみたのですが、なんでも大学入学当初は大抵mixiメインのユーザーだったのが、スマホ普及とともに他のサービスも使うようになり、最近は一気にLINEの波が押し寄せてるんだとか。
 もちろん、青学の経営学部生という特殊なサンプルなので、これ一つ取って日本の若者の傾向というのは嘘になりますが、実に興味深いデータであると言えます。
 少なくとも上記のアンケートやヒアリングの結果だけ見ると、就職活動や自己PRのためには、FacebookやTwitterのような余所行きのプラットフォームを使っていて、プライベートグラフである近い友人との本音トークはLINEでする、という構造になりつつあるのが透けて見えます。
 実際にmixiのコアユーザーである20代~30代の女性層がどうなっているかは、mixi側のデータを見ないと分かりませんし、これだけのデータで推測するのは危険です。
 「「mixi」×読モオーディション、7万フォロワーの一大ムーブメントに」なんてニュースもありましたし、LINEにも、セキュリティ側の問題の指摘や、ソーシャル機能実装などの複雑化によるユーザー離れのリスクがないわけではないですし、相対的な関係だと言えます。
 ただ、mixiが今後も現在のポジションを維持するためには、この構造的な板挟みから早急に脱出する必要があるのは間違いありません。
 そういう意味では前述のトライバルメディアさんの社員ブログの指摘は、死ぬという言葉は確かに釣りタイトルとして強すぎたかもしれませんが、興味深い問題提起だったと思います。
 ブログでの失言が公式リリースで謝罪するまでの状況に発展してし、それがITmediaの記事でまで取り上げられてしまうというのは、ブロガー視点ではショックですが、そのあたりのブロガー的視点の話は下記のブログに詳細は譲るとして。
Fool on the Web: 「mixiは死ぬ」で謝罪しているとブログは死ぬ
 一方で今回の失言話がこれだけ話題になるほど、多くの人がmixiの今後の動向を注目しているのは事実です。
 上記の記事で言及されているように、ウェブサービスにとって一番恐ろしいのは全く話題に上らなくなること。
 そういう意味では、mixiには何と言っても1500万人を超えるアクティブユーザーの人たちがいるわけですから、その人たちのエネルギーを上手く使って、是非国産SNSらしい新しい方向性を見いだして欲しいと切に願います。
 あのアップルも、1997年にマイクロソフトからの出資を受け入れた前後に、さんざん「アップルは死んだ」とか、終わったとか魂を売ったとか言われていましたが、今や世界の時価総額の1%超を1社でカバーするほどの超優良企業です。
 
 LINEがこの1年で急速な伸びを見せたように、mixiが適切なスマホアプリや、新しい機能実装をすれば、逆に新しい成長のエンジンを見つけることも可能でしょう。
 我々のような単なる外野の批評家による勝手な推測話は、是非鼻で笑って流して、サービスの成果で間違いを証明し、日本のウェブサービスならではの新しい世界を示して欲しいと強く思う今日この頃です。