トルネード (ジェフリー・ムーア) は、「キャズム理論」や「イノベーションのジレンマ」を本気で理解したい方には必読書だと思います。

4903212238 「トルネード」は、キャズム理論の「キャズム」でも有名なジェフリー・ムーアの書籍です。
 献本を頂いたので、書評抜き読書メモを公開させて頂きます。
 日本でも「キャズム」は非常に有名ですが、実はジェフリー・ムーアの書籍は続き物で、キャズムに続く二冊目がこの「トルネード」です。
 原題は、一冊目が「Crossing The Chasm(キャズムを超える)」で二冊目が「Inside The Tornado(トルネードの中へ)」で三冊目が「Gorilla Game(ゴリラゲーム)」という完全なシリーズもの。
 私も初めて原著を読んだのがもう10年以上前なんですが、日本では一冊目を翔泳社がヒットさせたものの、二冊目・三冊目は別の出版社が翻訳を担当し、あまり注目されずに終わった過去があります。
(その後、「ライフサイクルイノベーション」は久しぶりに翔泳社が翻訳を担当し、ある程度ヒットしたようですが。)
 その二冊目の「トルネード」を今回新たに明確にキャズムの続編として打ち出して再出版されたのが今回の書籍になります。
 私も久しぶりに改めて読んだのですが、やはりジェフリー・ムーアならではの分りやすい比喩の元に表現される理論は分かりやすく参考になる点が多々あります。
 特にいわゆるキャズムを超えようとする技術の普及が足踏みしているタイミングと、この本でトルネードと呼ばれる急速な技術の普及期において、企業側に求められるコア要素ががらりと変わるというのは意外に知られていない重要な視点だと思います。
 テクノロジーの登場時には中心にいたはずの企業が、そのサービスが一気に普及するタイミングになると、一件質の悪そうな他事業者に市場を一気に持って行かれてしまうというシーンは日本のIT業界でも良くある光景のような気もします。
 ハイテク業界での新規事業に取り組む人にとっては「キャズム」「イノベーションのジレンマ」と並んで、今でも必読書の一つと言える本だと思います。
【読書メモ】
■ライフサイクルが次の段階へ進んだときには、戦略を多少変更する程度では足りない。勝つためには、むしろ以前とは正反対の戦略をとる必要がある。
■ビジョナリーは「将来的に有用になる」ことを予想して賭に出るが、実利主義者は「すでに稼働中」という実績を求める。
■マーケットの六段階
・初期市場
・キャズム
・ボウリング・レーン
・トルネード
・メイン・ストリート
・終焉


■なぜいきなりトルネードへ飛び込んではいけないのか。
・顧客の大半は、あなたが置き換えようとしている古いパラダイムをまだしばらく使うつもりだから
・あなたの新製品が広く一般に通用するかどうか、まだ証明できていない。
■ボウリング期の原則
・参入コストが現時点での売上高を超えるようなら、そのセグメントへの参入は見送るべき
・IT責任者ではなくエンド・ユーザーに焦点を当てる。いわゆる「エコノミック・バイヤー」に狙いを定める
■トルネード・マーケティングの原則
・競合他社を容赦なく攻撃する
・流通チャネルをできるだけ早く拡大する
・顧客は無視する
■トルネードのなかでいかにパートナーを管理すべきか
・パートナーをつのり、共同作業によって強力なホールプロダクトをつくる
・このホールプロダクトを普及させ、マーケット・リーダーに立つ
・パートナーを片っ端から追放して、ホールプロダクトを一般ユーザーにまで広める
■メインストリートの最大の特徴
 新規顧客を見つけて基本的なコモディティを売るだけでは、利益を伸ばし続けることは不可能。既存の顧客層をベースに、付属的なニッチ市場を開拓する必要がある
■ホールプロダクト・プラスワン
 トルネード期にコモディティ化したホールプロダクトをもとに、副次的な何かを補足して差別化する。メインの機能は強化しない。
■メインストリートで勝者と敗者を分ける肝心なポイント
 本当の敵は、ライバル企業では無く、購入代理業者だ。
 メイン・ストリートにおける目標は、すでに確保済みの顧客から最大限に利益を上げることにある。
■テクノロジー・ライフサイクルに波紋を広げる二種類の不連続性
・「パラダイム・ショック」
 エンド・ユーザー、あるいはエンド・ユーザーを支えるインフラに影響を与えるタイプ
・「アプリケーション・ブレイクスルー」
 テクノロジーの進化によって、いままでにない新機能が現われ、エンド・ユーザーの役割を劇的に変えるとともに、投資収益率を大幅に押し上げる
■いかにして競争優位を得るか
・製品リーダーシップ(製品の性能や機能)
・オペレーショナル・エクセレンス(業務運営の優秀さ)
・カスタマー・インティマシー(顧客との親密度)
■初期市場で重要な組み合わせ
・現状でボトルネックになっている難点を完全に回避し、劇的な変化をもたらす可能性。
・ビジョナリーがいま抱えているプランの得意な条件に対応できる柔軟性
■キャズムを超える際の重要な組み合わせ
・あくまでもホールプロダクトを提供する
・先頭を切ることが肝心。二等賞は存在しない
■トルネード期の戦い方
 動乱期だから、競争上の戦略を整理するのはかなり難しい
・ゴリラはオペレーショナル・エクセレンスを活かして、製品を大量に出荷し、できるかぎり多くの新規顧客を獲得するとともに、ユニットあたりの製造原価を下げる。
・サルは、低価格を武器にする。
・チンパンジーは、自社なりの製品リーダーシップを発揮してゴリラと戦う。
■メイン・ストリート全般に共通する心得
・製品リーダーシップでは無く、オペレーション・エクセレンスとカスタマー・インティマシーが成功要因である
■競争心過剰は企業を脱線させる忌むべきもの
【営業部門の競争心過剰)
・戦略上のターゲット顧客と、たまたま行き当たった潜在顧客とを区別して、後者を獲得するための資源は控え、そのぶん前者の獲得に力を入れるべきだ。
【エンジニアの競争心過剰】
・ライバル製品の機能を意地でもうわまろうとする気持ちが競争心過剰を招き、自分たちのターゲット顧客がそんな機能を必要としているのかどうかを忘れてしまう。
【マーケティング・スタッフの競争心過剰】
・自己優先の姿勢がいつの間にか自己独占に変わってしまう。パートナーがとうてい受け入れがたいような条件を押しつけようとしてしまう
■マーケットにおける6つのポジション
・顧客が利用できる、購入の選択肢のシステム
・マーケットをかたちづくる、企業の相互作用のシステム

4903212238 トルネード キャズムを越え、「超成長」を手に入れるマーケティング戦略
ジェフリー・ムーア Geoffrey A. Moore 中山宥
海と月社 2011-02-28

by G-Tools