ライフサイクルイノベーション (ジェフリー・ムーア)

479811121X 「ライフサイクルイノベーション」は、「キャズム」で有名なジェフリー・ムーアがイノベーション戦略について詳細に考察した書籍です。
 昨年購入して読んでいたのですが、読書メモを書いてなかったので、書評抜き読書メモを公開させて頂きます。
 この本で最も印象的だったのは、対消費者向けのボリューム・オペレーション型の企業と、大企業が中心のコンプレックス・システム型の企業においては、戦略が全く反対になることが多いという点。
 言われてみれば確かにそうなのですが、多くの企業が陥りがちなワナのような気がします。
 翻訳もITmediaオルタナティブブログでもお馴染みの栗原さんが担当されていてとても読みやすいですので、「イノベーションのジレンマ」や「キャズム」に影響を受けたという方には、お薦めの本です。
【読書メモ】
■イノベーションがもたらす結果
・差別化:「他社より上に立つ」、つまり、競合他社が追随できないレベルの差別化を行う
・中立化:「クラス最上級」を求めるのではなく、「必要にして十分」な目標を追求する必要がある
・生産性向上:既存プロセスの再構築にフォーカスしたイノベーションが必要
・浪費
 ・上記のいずれかを目指したが達成できなかった
 ・中立化を行おうとしたが、「必要にして十分」の目標を超えてしまった
 ・差別化を目指して資源を投入したのに、実際には中立化の効果しか得られなかった
■イノベーションが十分な効果を発揮できない理由
・リスク回避の発想
・企業戦略の整合性の欠如
■二つのモデルはビジネスのあらゆる局面において反対に位置している。
 一方のビジネス・アーキテクチャで最適の戦略が他方では最悪の戦略になることも十分あり得る。
・ボリューム・オペレーション型の企業:基本は対消費者
 標準化された製品と商取引により大量販売市場でビジネスを遂行することに特化している
・コンプレックス・システム型の企業:大企業を主要顧客とする
 複雑な問題を解決するコンサルティング的要素が大きい個別ソリューションが提供される
■コンプレックス・システムの階層
・ターゲット顧客
・ソリューション・セールス
・コンサルティング/インテグレーション・サービス
・ソリューション・アーキテクチャ
・サードパーティーの要素
・テクノロジー・アーキテクチャ
・インテグレーション・プラットフォーム
・レガシーシステム
■ボリューム・オペレーション・モデルの同心円
・テクノロジー
・製品・サービス
・共用基盤
・流通チャネル
・プロモーション
・ブランド広告/プロモーション
・消費者


■コンプレックス・システムのやり方
・定性的な市場調査により、統合されたアーキテクチャでのみ満足される要件が識別される
・統合アーキテクチャは例外的な構成要素を外部調達することを念頭に置いて作られている
・統制がとれたバリュー・チェーンを通じてマーケティングされ、ハイタッチの営業で販売され、広範囲のコンサルティングによりサービスされる。
■ボリューム・オペレーションのやり方
・定量的な市場調査により、モジュラー型のアーキテクチャで満足される要件が識別される。
・バリュー・チェーンは最も共通性が高い構成要素を中心に行われ、製造は固定的なプロセスで行われる。
・マーケティングはブランドと広告プロモーションを通じて行われ、販売はロータッチの流通チャネル経由で行われる。サービスは限定的である。
■イノベーションによる差別化を実現するための3つの要素
・コア・コンピタンス
・競合分析
・市場カテゴリーの成熟度
■特定の市場カテゴリーにおいて、設定した範囲内で、選択したイノベーション・タイプにフォーカスし、競合他社よりはるかに優位な位置に立ち、顧客やパートナーが競合他社を有効な選択肢とみなさなくなるようにする。
■イノベーションタイプ別のイノベーション・ゾーン
・製品リーダーシップ・ゾーン(成長期)
 ・破壊的イノベーション
  今までになかったテクノロジーやビジネスモデルにより新しい市場カテゴリを作り出す
 ・アプリケーション・イノベーション
  既存のテクノロジーの今までなかった応用分野を発見することで新規市場を作り出す
 ・製品イノベーション
  既存の市場における既存の製品に対して、前例がない機能の追加をすることで差別化を図る
 ・プラットフォーム・イノベーション
  下位にある既存テクノロジーの複雑性を隠すための単純化階層を導入する
・顧客インティマシー・ゾーン(成熟期)
 ・製品ライン拡張イノベーション
  既存の製品に構造的な変更を加え、独立したサブカテゴリーを作り出す
 ・機能強化イノベーション
  製品ライン拡張イノベーションの方向性をさらに進めていき、より細かい変更を基盤からより離れた部分で行う
 ・マーケティング・イノベーション
  購買プロセスでの潜在的顧客とのやりとりにおける差別化にフォーカスする
 ・顧客エクスペリエンス・イノベーション
  機能的な差別化ではなく、製品が提供するエクスペリエンスで価値提案を行う
・オペレーション・エクセレンス・ゾーン(成熟期)
 ・バリュー・エンジニアリング・イノベーション
  既に確立した製品の外部的な属性を変えることなく、原料や製造プロセスのコストを削減する
 ・インテグレーション・イノベーション
  多様な構成要素をひとつの集中管理型のシステムに統合することで、顧客の維持管理コストを削減する
 ・プロセス・イノベーション
  製品ではなく、それを作り出すプロセスから無駄を排除することで利益率を向上させる
 ・バリュー・マイグレーション・イノベーション
  コモディティ化しつつある構成要素から離れて、より利益率が高い領域にビジネスモデルをシフトしていく
・再生ゾーン(衰退期)
 ・自立再生イノベーション
  自社内の資源を使って、成長する新規市場カテゴリーに自社の方向性を変更する
 ・企業買収再生イノベーション
  カテゴリー再生の問題を外部企業の合併や買収により解決する
 ・収穫・撤退
■ボリューム・オペレーション型企業における製品イノベーションの成功要因
・製品の真の意味での革新性を実現する研究開発
・ひとつの革新的ポイントを主張するマーケティング
・製品を中断なく大量供給できる製造と物流能力
■プラットフォーム・イノベーションを行う二つの道
・直接的経路:(ボリューム・オペレーション型企業向け)
 製品を出荷した段階でプラットフォームの目標を宣言する。最も単純な戦術はプラットフォームを無料で提供するアプローチ
・間接的経路:(コンプレックス・システム型企業向け)
 製品をプラットフォームとしてではなく、単独で価値がある製品として普及させる。ここでのキーは製品とベンダー独自のテクノロジーを結びつけ、スイッチング・コストを高くする。
 普及した製品をプラットフォームへと変換する。この変換により、サードパーティーはプラットフォームを使った製品を構築し、既存の開発機能と顧客ベースを有効利用できるようになる。
■シスコのカスタマー・ドリブン
 信頼できる顧客を見つけたら、その顧客からの要望には従え
■表面部分で価値をふかし、基盤部分でコストを削減する
■コンサンプション・チェーンにもとに付加価値提供を行う選択肢のレビューを行う
 購買のライフサイクルを15段階に分割。どれかひとつの段階を優先的に扱い、どのように改善できるかを顧客やパートナーと詳細に話し合う。
■コンプレックス・システム型企業のマーケティング・イノベーションにおける目標
 ブランドによる差別化ではなく、顧客の評判による差別化
 自社が唯一のベンダーとなる排他的なコミュニティを作り、そのメンバーと親密な関係を築くこと。(できるだけ外部から見えないように振る舞い、背後で影響力を行使すること)
■コンプレックス・システム型企業における顧客エクスペリエンス・イノベーションの前提条件
・購買者に対する直接的なアクセスが存在する(エクスペリエンスの差別化は他社を介して提供することはできない)
・真の意味での思想的リーダーシップ(顧客には今まで知らなかった新しいことを経験しているという印象を持たせる)
・カリスマ的な経営者が顧客エクスペリエンスのまとめ役を行うことがきわめて有効
■プロセス・イノベーションの投資を検討する際のポイント
・他社がソリューションを容易に模倣できないような阻害要因があるか
・ソリューションを他社よりもきわめて早期に実現できるか
・他社より優れたソリューションを提供可能か
■バリュー・マイグレーション・イノベーションの重要ポイント
・自社の役割の価値の低下を認識する
・価値の移行がどの方向性にあるか予期する
・価値の移行を競合他社より先に実現する
■自立再生イノベーションの成功ポイント
・変革を行うリーダーは社外ではなく社内から登場する
・自立再生が劇的な事業撤退を常に行うとは限らないものの、自社の主流ビジネスが利益を生み出している間に、新規ビジネスにリスク覚悟で大幅な投資をしておくことが必要
・成熟した企業が新しい俊敏な企業に打ち勝つことが必要
■企業買収再生イノベーションの成功要因
・経営陣の冷静かつ断固としたリーダーシップ
・合併後の組織統合(同格の企業の合併はきわめて困難)
・経営陣の注意を統合のプロセス自身ではなく、統合がもたらす新しい市場での成功に向ける
■イノベーション選択のステップ
・アイデアを広める
・ポートフォリオの分析
・ターゲット市場カテゴリーの分析
・検討対象のイノベーション・タイプを絞る
・優先的な選択肢を推進する
・主要なイノベーションのベクトルを選択する
・企業全体を参画させる
■コンテキストからコアへ資源を移動するための取り組み
・現状のプロセスを再構築し、資源の必要量を抑え、貴重な人材の需要を削減する
・現状のスキル・セットそして次世代のコアのニーズに合致するように人材のリサイクルを行う
■ミッション・クリティカル性とコアの混同
・四半期毎の業績目標を達成することにフォーカスしており、目標達成のために次世代のイノベーションを推進したりしない
■ミッション・クリティカルな業務を再構築するための五段階モデル
・集中化
・標準化
・モジュール化
・最適化
・アウトソーシング
■ほとんどの企業においては、セールスの資源もマーケティングの資源も各市場セグメントの収益に比例するように配分される。このようなやり方はまったくの誤りだ。
 正しい経営方針とは、確立したビジネスでは毎年生産性を向上し、できるだけ少ない資源で、できるだけ多くの収益を上げるようにすることである。
■資源リサイクルの3つのゾーンで移管を行う
・発明ゾーン:社内起業家 新しいコアを作るため常識外の発想をする
・展開ゾーン:プログラム・マネージャ プログラムを拡張できるよう常識を適用
・最適化ゾーン:プロセス改善者 資源を取り出せるように常識と常識外の発想の両方を活用
■資源をコンテキストからコアに向けていくためのアジェンダ
・現状のビジネスのコア/コンテキスト分析を行う
・コア/コンテキスト分析を保管するために資源配分の分析を行う
・野心的なアジェンダを設定する
・チームとしての行動計画を立案する
・市場への投入タイミングにフォーカスする
・行動を開始する
・行動を継続する

479811121X ライフサイクル イノベーション 成熟市場+コモディティ化に効く 14のイノベーション
栗原 潔
翔泳社 2006-05-16

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