イノベーションのジレンマ (クレイトン・クリステンセン)

イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき イノベーションのジレンマは、今更紹介するまでも無いクレイトン・クリステンセンの名著です。
 最近、イノベーション勉強会を開催するようになったこともあり、改めて読んでみました。
 「顧客の意見に熱心に耳を傾け、新技術への投資を積極的に行い、常に高品質の製品やサービスを提供している業界トップの優良企業。ところが、その優れた経営のために失敗を招き、トップの地位を失ってしまう」
 当時、トップ企業が落ちぶれるのは大企業病のせいだと思っていた自分にとって、この視点は非常に刺激的なものでした。
 始めてこの本を読んだときは、まだNTTでIR担当をやっている頃だったのですが、今改めて読むと、自分が分かったような気分になっていたもののちゃんと身についていなかったことを思い知らされます。


 特についつい忘れがちなのが「存在しない市場は分析できない」という点。
 なんだかんだと昔の癖で、何かを始めるときにリサーチから入ってしまうんですが、既存事業のリサーチはそれはそれで重要なものの、全くの新規事業を始めるときには、そこから導き出されたデータや数字はほとんど役に立ちません。
 そうは言っても、何かしら自分を勇気付けてくれるものが欲しいので、更にリサーチをし続けて深みにはまったりしまうわけで。
 本書で「既知の戦略を実行するためではなく、学習のための計画でなくてはならない」と指摘されているように、学習しながら小さな成功を積み上げていくというやり方を、いまだに自分が本質的に理解できていないのを改めて反省しました。
 今更言うまでもないですが、特に新規事業や先端テクノロジーのビジネスに携わっている人には必読書だと思います。
【読書メモ】
■持続的技術と破壊的技術
・持続的技術:今まで評価してきた性能指標に従って、既存製品の性能を向上させる
・破壊的技術:短期的には、製品の性能を引き下げる効果を持つイノベーション
■破壊的技術の5つの原則
原則1:企業は顧客と投資家に資源を依存している
原則2:小規模な市場では大企業の成長ニーズを解決できない
原則3:存在しない市場は分析できない
原則4:組織の能力は無能力の決定的要因になる
原則5:技術の供給は市場の需要と等しいとはかぎらない
■企業は、あるバリュー・ネットワークのなかで経験を積むと、そのネットワークに際立ってみられる需要に合わせて能力、組織構造、企業文化を形成することが多い。
■既存企業の意思決定のパターン
ステップ1:破壊的技術は、まず既存企業で開発される
ステップ2:マーケティング担当者が主要顧客に意見を求める
ステップ3:実績ある企業が持続的技術の開発速度を上げる
ステップ4:新会社が設立され、試行錯誤の末、破壊的技術の市場が形成される
ステップ5:新規参入企業が上位市場へ移行する
ステップ6:実績ある企業が顧客基盤を守るために遅まきながら時流に乗る
■資源依存
 企業の行動の自由は、企業存続のために必要な資源を提供する社外の存在(主に顧客と投資家)のニーズを満たす範囲に限定される
■「専門家の予測はかならず外れる」
 破壊的技術をとりまく不透明な環境の中で、信頼できる事実は一つだけ
■不可知論的マーケティング
 破壊的製品がどのように、どれだけの量が使われるか、そもそも使われるかどうかは、使ってみるまでだれにも、企業にも顧客にもわからないという明確な仮定にもとづくマーケティング
■組織の能力の3つの枠組み
・資源
・プロセス
・価値基準
■破壊的技術の開発における最大の課題は技術的なものではなくマーケティング上のもの 製品の破壊的な特性が有利になる次元で競争が発生する市場を開拓するか、見つける。 
■破壊的技術のマーケティング戦略決定の3つのポイント
1.最初は主流の用途に使えない事を認める
2.初期の市場がどのようなものになるかは市場調査ではわからない
3.既知の戦略を実行するためではなく、学習のための計画でなくてはならない
■破壊的技術の設計における3つのポイント
1.単純で信頼性が高く、便利でなければならない
2.特徴、機能等を短期間に低コストで変更できる製品プラットフォームを設計する
3.価格は低く設定しておかなければならない
■イノベーションのジレンマのまとめ
1.市場が求める進歩のペースは、技術によって供給される進歩のペースとは異なる。
2.イノベーションのマネジメントには、資源配分プロセスが反映される。
3.あらゆるイノベーションの問題には、市場と技術の組み合わせの問題が伴う。
4.たいていの組織の能力は専門化されており、特定の状況にのみ対応できるものである。
5.破壊的技術に直面したとき、大規模な投資を行うために必要な情報は存在しない。
6.一面的な技術戦略をとるのは賢明でない。
7.新規参入や市場の移動に対しては、実績ある企業の慣習的な経営知識が強力な障壁になる。

イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき
クレイトン・クリステンセン


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