「ストーリーとしての競争戦略」は、楠木建さんが競争戦略について考察された書籍です。
昨年非常に話題になっていたので買って読んでみていたのですが、遅ればせながら書評抜き読書メモを公開させて頂きます。
通常、経営本や戦略本というと個人的には海外の著者の本しか買いません。
日本においてはどうしても書籍の出版のサイクルが早すぎるために、中身の濃いビジネス本が少なく、読みやすいノウハウ本が中心になっている印象が強いからです。
おそらく海外においては英語と言うこともあり、しっかりと書いた分厚い経営本や戦略本が比較的寿命が長く売れ続けるのだと思いますが、日本においてはそういうポジションを取るのが難しいというのも影響しているのでしょう。
ところが、この「ストーリーとしての競争戦略」は、実に本格的な戦略本です。
正直、日本でこれほど本格的に体系立って書かれる経営本が書ける方がおられるとは思っていませんでした。
海外の戦略本と並べても遜色ない、楠木さん独自の競争戦略論と言えると思います。
一回読んだだけで全てが理解できるとはとても言えず、何度も繰り返し読みたくなる本だと思います。
まだ読んでいない方は、是非読んでみることをお勧めします。
「イノベーションのジレンマ」や「ブルー・オーシャン戦略」とあわせて読むのもお勧めです。
【読書メモ】
■静止画を動画に
従来の戦略論には「動画」の視点が希薄でした。戦略のあるべき姿が動画であるにもかかわらず、その論理を捉えるはずの戦略「論」はやたらと静止画的な話に変更していたように思います。
■なぜユーザーは静止画的な短い話を好むのでしょうか
・とにかく忙しい
・主たるユーザーが、経営者と言うよりも経営企画部門などの「戦略スタッフ」であることが多い
・「プロフェッショナル経営者」という幻想。経営者の戦略スタッフ化
・コンサルタントによるマーケティングの影響
・静止画的な短い話は、コミュニケーションが簡単
・マクロな経営環境の変化は、とりわけ長い話を嫌がる傾向を加速させている
■バズワードの生い立ち
・ただの英訳 例:IT
・形容詞もの 例:ニューエコノミー
・現象もの 例:フラット化
・方法もの 例:クラウド・コンピューティング
・概念もの 例:複雑系
■多くのバズワードは五年後にはほとんど見かけなくなります
■競争戦略とは
競争がある中で、いかにして他社よりも優れた収益を達成し、それを持続させるか、その基本的な手立てを示すもの
■競争戦略の二つの流派
・種類の違い:ポジショニング(SP:Strategic Positioning)
・程度の違い:組織能力(OC:Organizational Capability)
■ルーティンとしてのOCは模倣が難しい
・暗黙性、因果関係の不明確さ
・経路依存性
・OCそのものが時間とともに進化する
■SPとOCでは戦略形成におけるマネジメントの役割も違う
・SP:マネジメントは意志決定者
・OC:マネジメントの競争優位に対する影響力はより間接的
■戦略ストーリーの5C
・競争優位:利益創出の最終的な論地
・コンセプト:本質的な顧客価値の定義
・構成要素:競合他社との「違い」
・クリティカル・コア:独自性と一貫性の源泉となる中核的な構成要素
・一貫性:構成要素をつなぐ因果論理
■WTP-C=P
WTP(Willingness To Pay)
C(コスト)
P(利益)
■ストーリーを構成する第一歩としてシュートの軸足を決める
WTP、コスト、ニッチ特化による無競争の三つのシュートの間にトレードオフの関係がある
■マブチとサウスウェストの共通点
・いずれも秀逸でユニークな戦略ストーリーで成功
・いずれも初期の段階から完成されたストーリーをもっていたわけではない
・戦略ストーリーをつくる大きなきっかけとなった打ち手に、当時の状況からして仕方がなかったという面がありました
■優れたコンセプトを構想するためには、常に「誰に」と「何を」の組み合わせを考えることが大切です。「誰に」と「何を」を表裏一体で考えることによって「なぜ」が初めて姿を現すからです。
■「それが本当にネットでなければできないことでなければ、やらない」(ジェフ・ベゾス)
■「エンターテイメントとしてのショッピング」(楽天三木谷)
「ほとんどのEコマースは、ネットをお手軽な自動販売機だと思っている。われわれは徹底的にその逆を行く」
■コンセプト作りに大切なこと
・すべてはコンセプトから始まる
・誰に嫌われるかをはっきりさせる
・コンセプトは人間の本性を捉えるものでなくてはならない
■「来るべきネット時代を見据えていた。だからこそそれに逆行してあえて紙でスタートした」(ホットペッパー平尾)
■「ゲームをつくるときにユーザーやユーザーに近いところにいる営業部門からのフィードバックを聞いてはいけない」(任天堂宮本茂)
■クリティカル・コア
・他の様々な構成用途と同時に多くのつながりをもっている
・一見して非合理に見える
■全体と部分の合理性
・全体合理、部分合理:普通の賢者
・全体合理、部分非合理:賢者の盲点(キラーパス)
・全体非合理、部分合理:合理的な愚か者
・全体非合理、部分非合理:ただの愚か者
■競争優位の階層
・レベル0:外部環境の追い風
・レベル1:業界の競争構造→先行性)
・レベル2:ポジショニング→トレードオフ)
・レベル2:組織能力 →暗黙性
・レベル3:戦略ストーリー→一貫性・交互効果
・レベル4:クリティカル・コア→動機の不在、意図的な模倣の忌避
■持続的な競争優位の論理
・防御の論理:B社はA社の戦略を模倣しようとするときに障壁があるので、A社の競争優位が持続する
・自滅の論理:B社がA社の戦略を模倣しようとすること自体がB社とA社の差異を増幅するので、A社の競争優位が持続する
■戦略ストーリーの骨法10ヶ条
・エンディングから考える
・「普通の人々」の本性を直視する
・悲観主義で論理を詰める
・物事が起こる順序にこだわる
・過去から未来を構想する
・失敗を避けようとしない
・賢者の盲点を衝く
・競合他社に対してオープンに構える
・抽象化で本質をつかむ
・思わず人に話したくなる話をする
■トヨタ生産方式は、先見の明の産物ではない
経営資源が不足する中で生産量成長を余儀なくされた
急速なモータリゼーションがモデル多様化を伴わざるを得なかった
■称賛されるときもこき下ろされるときも、アマゾンの戦略は基本的に同じストーリーで一貫していた
■念仏
一人一人がその念仏を唱え、自分の行動がその行動基準から外れていないかを毎日の中で確認できる
「コア商圏・飲食・居酒屋・9分の1・三回連続受注・20件訪問・インデックス受注」(ホットペッパー)
ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件 (Hitotsubashi Business Review Books) 楠木 建 東洋経済新報社 2010-04-23 by G-Tools |