「イノベーションのDNA」は、「イノベーションのジレンマ」の著者として知られるクレイトン・クリステンセンの新作です。
献本を頂いたので、書評抜き読書メモを公開させて頂きます。
10年以上前にイノベーションのジレンマを読んで受けた衝撃は、個人的には忘れもしませんが、イノベーションのジレンマでは解決されていなかった疑問の大きなものの一つが、「イノベーションのジレンマで描かれているような破壊的イノベーションを生み出せるような人になるにはどうすれば良いか?」です。
実際のイノベーションの起こし方自体は「明日は誰のものか」や「イノベーションへの解」などでも描かれていますが、今回のフォーカスは最も重要なイノベーションを引き起こす「人」自身になります。
たいていの人はスティーブ・ジョブズや、ジェフ・ベゾスのような典型的な破壊的イノベーターを前にして、ああいう感覚や才能は天性のもので、生まれつきの性格で決まるから、自分には無理だろう、と思ってしまうもの。
ところが、今回のイノベーションのDNAにおいて、クレイトン・クリステンセンは、そういった創造性は「生まれ」ではなく「育ち」の方が重要で、イノベーターは育てることができると説いています。
そういう意味では、私たち誰もが努力すれば破壊的イノベーターになりうるという意味で、この本は救いがある本だと言えるのですが。
一方でこの本を読んできつい一発をくらったと感じたのが、日本のような「個人より社会を、実力より年功を重視する国で育った人が、柔軟な発想で現状を打破してイノベーションを生み出す事が少ない」というくだり。
個人的には戦後の日本というのは文字通り様々な破壊的イノベーターを生み出してきたと信じていますが、その後の高度経済成長や高齢化を通じてできた社会構造とか社会の雰囲気により、実は日本自体が構造上破壊的イノベーターを生みづらい構造になってきている可能性があるわけです。
このあたりは、先日ご紹介した「20歳のときに知っておきたかったこと」とも通じる話だと思いますが、やはり日本が現在の構造的な右肩下がりの構造から脱するために本気でイノベーションを生み出す国に生まれ変わろうとするならば、ビジネスマン一人一人の努力とは別に、学校や企業内の教育構造とか、評価に対する考え方とか、いろんなものを根本的に変えないといけないのかもしれないな、と感じます。
新しいイノベーションにチャレンジしたい若い世代の人だけでなく、大組織でイノベーションを起こしたいと考えている経営者やマネージャーの方々にも是非読んで頂きたい本だと思います。
【読書メモ】
■イノベーターの四つのタイプ
・スタートアップ起業家
・企業内起業家(企業内でイノベーティブな事業を立ち上げた人たち)
・製品イノベータ(新製品を開発した人たち)
・プロセス・イノベータ(画期的なプロセスを導入した人たち)
■革新的なアイデアが生まれるきっかけ
・現状に異議を投げかける質問
・技術や企業、顧客などの観察
・新しい事を試した体験や実験
・重要な知識や機会に目をむけさせてくれた会話
■創造性に関する限り、「生まれより育ち」
このことは、日本や中国、韓国、多くのアラブ諸国など、個人より社会を、実力より年功を重視する国で育った人が、柔軟な発想で現状を打破してイノベーションを生み出す事が少ない理由を部分的に説明する。
■イノベータDNA
・関連づける力
・質問力
・観察力
・ネットワーク力
・実験力
■経営幹部の得意なスキル
・分析力
・企画立案力
・行き届いた導入力
・規律ある実行力
■イノベータに共通する二つの姿勢
・彼らは現状を変えたいという意志に燃えている
・こうした変化を起こすために、つねに「スマート・リスク」をとっている
(リスクを認識した上で、自らの責任で果敢にリスクを取る)
■多くのイノベータが、これらの重要なスキルに欠けている事を自覚して、必要な能力を備えた人材を探し、タッグを組んでいる
■大企業が破壊的イノベーションに失敗しがちな理由が、発見力ではなく実行力で選ばれた人材が最高経営層を占める事にある
■T型人間(IDEO)
特定の専門分野に深く精通している人は、その知識をなじみのない新しい概念やアイデアと組み合わせる事ができるため、創造性が高い傾向にある
一つの知識分野に深く精通しているが、さまざまな分野にわたる幅広い知識を積極的に得ようとする
■関連づける力を伸ばすためのヒント
・新しい関連づけを強制する
・別の会社になりすます
・たとえを考える
・おもしろ箱をつくろう
・スキャンパー(代用、結合、応用、拡大、転用、除去、逆転)
■「正しい答えを見つけることではなく正しい質問を探す事こそが、重要かつ至難の問題だ。誤った質問に対する正しい答えほど無駄なものはない」(ピーター・ドラッカー)
■対象の実態を把握する
・「いまどうなのか」の質問をする
・「なぜこうなった?」の質問をする
・「なぜなのか?」「なぜ違うのか?」の質問をする
■質問力を伸ばすヒント
・質問ストーミングを行う
・質問思考を養う
・自分のQ/Aレシオを調べる
・質問ノートをつける
■観察力を高めるためのヒント
・顧客を観察しよう
・企業を観察しよう
・琴線に触れたものを観察する
■アイデア・ネットワーカーと資源ネットワーカー
・資源ネットワーカー
自分や自社を売り込むため、必要な資源を手に入れるためにネットワークを築いている。
・アイデア・ネットワーカー
新しいアイデアや洞察を引き出すために、いろいろな考えや視点を持つ人と話す
■ネットワーク力を伸ばすヒント
・ネットワークの幅を広げる
・食事時のネットワーキング計画を始めよう
・来年は少なくとも二度は会議に参加しよう
・創造の場をつくろう
・外部から人を招こう
・合同研修を行う
■「社員には、あえて袋小路に入り込んで、実験しろとハッパをかけている。実験にかかるコストを減らして、できるだけたくさん実験できるようにしている。実験の回数を100回から1000回に増やせば、イノベーションの数も劇的に増える」(ジェフ・ベゾス)
■「点と点がいつか必ず結びつく、そう信じていれば、皆の通る道を外れても、自信をもって心の赴くままに行動することができる。これが大きな違いをもたらすのだ」(スティーブ・ジョブズ)
■勤めた産業や企業の数が多い人ほど、イノベーションの実績を上げている確率が高かった。勤務した産業が一つ増える事は、暮らした国が一つ増える事よりも、イノベーションを促す効果が大きかった。
■実験力を培うためのヒント
・物理的障壁を越える
・知的境界を越える
・新しい技術を身につける
・製品を分解する
・試作品をつくる
・新しいアイデアを試験的に導入する
・トレンドを探す
■イノベーティブな企業
・人材
・経営陣は自らイノベーションの陣頭指揮を執り、発見力に優れている
・イノベーション・プロセスのすべての管理レベル、事業分野、意志決定段階に、発見力指数の高い人材が、適切なバランスで配置されるよう、つねに気を配っている
・プロセス
・従業員に関連づけ、質問、観察、ネットワーキング、実験を明確に促すプロセスがある
・発見志向型の人材を採用、育成、優遇し、昇進させるためのプロセスがある
・哲学
・イノベーションは全員の仕事であって、研究開発部門だけの仕事ではない
・破壊的イノベーションにも果敢に取り組む
・適切な構造をもった少人数のイノベーション・プロジェクト・チームを数多く用いる
・イノベーションの追求においては、スマートリスクを取る
■「ラフリーは現場に出て、消費者とふれあう事にこだわる。とにかく消費者のことを知りたくてたまらないのだ」(P&G)
■製品開発とマーケティングのチームに属する人材は、平均して実行力より発見力に優れていなくてはならない。逆に、財務や業務関連のチームの人材は、平均して発見力より実行力が高くなくてはならない。
■IDEOはデザインファームだから、どんなチームにもデザインに精通したメンバーが一人はいる。だが同時に次の三つの領域のどれかに該当する専門知識を持った人材を配置するよう心がけている
・ヒューマン・ファクター(革新的なアイデアの望ましさを判断する)
・テクニカル・ファクター(核心的なアイデアの技術的実現可能性を見極める)
・ビジネス・ファクター(事業の存続可能性と核心的なアイデアの収益性を評価する)
■イノベーション能力をもつ従業員をどうやって探し出しているのだろうか?
・卓越した発見力を証明する実績がある
・少なくとも一つの知識分野に深く精通し、ほかの分野にも幅広い知識を持っている
・世界を変え、変革を起こそうという気概がある
イノベーションのDNA 破壊的イノベータの5つのスキル (Harvard Business School Press) クレイトン・クリステンセン ジェフリー・ダイアー ハル・グレガーセン 櫻井 祐子 翔泳社 2012-01-18 by G-Tools |