本日発売の書籍「エンパワード (ジョシュ・バーノフ)」は、企業の中でソーシャルメディアを担当しながらも悩んでいる方々に、是非読んでほしい一冊です。

4798122815 「エンパワード」は、ソーシャルメディア活用のバイブルともいわれる「グランズウェル」の共著者であるフォレスター・リサーチのジョシュ・バーノフ氏が、新たに書かれた書籍です。
 私のプレゼンテーション資料のほとんどで「グランズウェル」を紹介している関係で、発売前に翔泳社さんから献本を頂いたので、書評抜き読書メモを公開させて頂きます。
 「グランズウェル」では、ソーシャルメディアにより企業と顧客の関係がどう変わるか、という点に焦点が当てられていましたが、今回の「エンパワード」では副題に「ソーシャルメディアを最大活用する組織体制」と入っているように、ではグランズウェル時代に企業の担当者はどのように行動し、どのような組織体制が必要なのか、という点にフォーカスしています。
 グランズウェルの続編と言うことで、フォレスター・リサーチとしてもかなり力が入っているようで、エンパワードをタイトルにした立派なウェブサイトも作られているようです。
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 「グランズウェル」に書かれている理論やコンセプトは、今でもほとんど陳腐化していないと個人的には感じていますが、そうは言ってもグランズウェルが書かれたのは2008年4月。この3年間の間に業界も大きく変化していますし、本書で言及されている事例も、より全社的な活動のケースが増えてきているように感じます。
 特に注目すべきは本書の内容が、どちらかというと一般的なマーケティングの話だけではなく、「グランズウェルの顧客サービス」というアクティブサポート的な新しい顧客サービスから、社内の体制や社内のコラボレーションシステムの構築まで、幅広くカバーしている点でしょう。
 米国においては、ソーシャルメディア利用者の影響力が上がっている関係で、下記の「United Breaks Guitars」(ユナイテッド航空にギターを壊され、対応してもらえなかった歌手が怒りを歌にした動画をアップしたところ、現時点で1000万回再生を超すほどの話題になった)のケースのように、企業に大きな影響を与えた事例が多数存在するため、かなりいわゆる傾聴に対して重きを置いている印象が強くあります。

 当然、今後日本でもソーシャルメディア利用者が増えてくるとしたら、類似の事例が増えてくることは間違いありませんから、このエンパワードで提示されている新しい顧客サービスの視点というのは非常に重要になってくると感じます。
 大企業におけるソーシャルメディア活用の黎明期というのは、一般的にごく少数のソーシャルメディア担当者が、日々のソーシャルメディアの運営や顧客の対応に孤軍奮闘するケースというのが多々見られます。
 「エンパワード」ではそんな担当者を「HERO(Highly Empowered and Resourceful Operatives)」と名付け、このHEROをいかにIT部門やマネジメントが支えていくべきかという点について俯瞰的にまとめています。
 日本においても、企業によるソーシャルメディア活用が一時的なブームになるのか、中長期的に取り組むべきトレンドになるのか、今年が大きな分岐点になると感じていますが、この「エンパワード」は、そんな分岐点で日々悩んでいる企業のソーシャルメディア担当者の方々にとって、非常に重要な視点を与えてくれる必読書と言えると思います。
 久しぶりに大量に付箋がついてしまい、読書メモも長大になってます。
 (引用が多くて翔泳社さんすいません。)
 ただ、この読書メモに出てくる各種のフレーズに興味を持たれた方は、読書メモを見て読んだ気にならずに、是非ちゃんと買って読まれることをお勧めします。
 もちろん、まだ「グランズウェル」を読んでない方は、二冊まとめて是非どうぞ。
※なお、個人的にも、AMNとしても、この本を使って何かしらソーシャルメディアの勉強会を考えたいと思いますので興味がある方は、こちらのSocial Media Club JapanのFacebookページに登録してください
【読書メモ】
■力を持った顧客を相手にして、成功するためには、従業員に力を与えて、顧客の問題の解決にあたらせる必要がある
■HERO(Highly Empowered and Resourceful Operatives)
 大きな力を与えられ、臨機応変に行動できる従業員
■ユナイテッドはギターの壊し屋(United Breaks Guitars)
 (ブログにおける)肯定的な意見は34%から28%に減り、否定的な意見は22%から25%に。
 (メディアにおける)肯定的な報道は39%から27%に減少し、否定的な報道が18%から23%に。


■ブログやネット掲示板などのソーシャル環境では、顧客による投稿が16億4千件。
 少なくとも2500億インプレッションが生まれていると考えられる。
 広告業者は、ネット上で1兆9740億回、広告を表示したという。
 さて、消費者はどちらのインプレッションに注意を向けるだろうか?
■IDEA 力を持った顧客とつながるための4ステップ
・マスに影響を及ぼせる人物(マスインフルエンサー)を見つける(Identify)
・グランズウェルの顧客サービスを提供する(Deliver)
・顧客に情報を提供し、力を与える(Empower)
・ファンの声を増幅させる(Amplify)
■マスインフルエンサー
・マスコネクターは瞬間を生き、友人たちとつながっている
・マスメイヴンはもっと長く続く影響を生み出す
■メディアではブロガーが注目されているが、わたしたちの調査でわかったのは、商品やサービスに関する投稿の60%以上は、掲示板やレビューサイトで行われているということだ。またマスメイヴンはブログの記事を書くより、他社のブログにコメントを寄せる方が多い。
■フィエスタ・ムーヴメント
 2009年の4月から11月までの間に、フィエスタ・ムーヴメントに投稿されたユーチューブの動画は7000万人の視聴者を得た。フリッカーに投稿された写真は70万人にみられ、ツイートは400万人に読まれた。
 アクセスした人のうち10万人が、もっと詳しい情報を得るためにサイトに登録をした。
 12月にサイトで予約の受付を始めると、1ヶ月で4000人から購入の申し込みがあった。
■見る→認知→検討→選考→購入
 サポートされる→力を与えられる→喜ぶ→ファンになる→発信する
■ソーシャル・インフルエンスマーケティング
 「顧客に顧客を増やしてもらう」マーケティング
 (レイザーフィッシュ シヴ・シン)
■「多くの人は家に帰って顧客サポートに電話をかける前に、まずはツイートします。わたしたちはその時点で接触を図ります。そうすれば、怒りが増す時間を減らせるからです。」(コムキャスト フランク・エリアソン)
■グランズウェルの顧客サービスのポイント
・消費者の声を聞く
・人員を配置する
・エクスペリエンスに注目する
・進化に備える
■ツイッター専用のページを設け、そこでザッポスに言及したツイートをすべて紹介してもいる。
 http://twitter.zappos.com/
■グランズウェルの顧客サービスを効果的に実行する方法
・戦略を立てる前に調査する
・規模を考慮に入れる
・危機時の対応計画を立てておく
・サービスとマーケティングを結びつける
・ほかの部署にも頼れる人物を見つけておく
・スピーディーに対応できるシステムを築く
・グランズウェルの顧客サービスにふさわしい評価の基準を設ける
■マスコネクターとマスメイヴンにはモバイル端末でネットを閲覧する者が多い。
 一般の消費者に比べ、その割合は倍以上にのぼる。
 つまり、モバイル端末ユーザーには影響力のあるものが多いということだ。
■モバイルアプリ戦略
・人:顧客がモバイルで何をしているかを調べる
・目的:自社と顧客の両方にどういう利益をもたらしたいのかを明確にする
 ・売上を伸ばす
 ・コストを減らす
 ・顧客ロイヤルティを高める
・戦略:モバイルアプリの長期的な計画を立てる
・テクノロジー:どういう種類のモバイルアプリを作るか?
■あらゆるソーシャルサイトからウィンドウズ7に関するコメントを集め、それをwww.windows.com/socialにアップしていった。
 このサイトは活況を呈し、アップされたコメントの数は、最初の五ヶ月で30万件を超えた。
■パーティー開催の登録者にマイクロソフトからパーティーグッズが送られた。
 マイクロソフトの推定では、ホストとゲストを合わせたパーティーの参加者数は、80万人にのぼるという。
■クチコミを増やすための5ステップ
・外部の意見を聞く:聞く力を鍛える
・反応する:顧客に接触する
・可能にする:評判が広まりやすくする
・増幅させる:顧客と顧客をつなぐ
・変える:マーケティングと商品を見直す
■ノートンサポーター
 ウェブサイトへの訪問者に対して一問だけのアンケート調査を実施した。そしてそのアンケートで、ノートンをほかの人にも推薦すると回答したユーザーに、「ノートンサポーター」という企画への参加を呼びかけた。
 すると、短期間のうちに、レビューサイトでのノートンの評価は、平均2点から平均4.5点へと急上昇した。
■ジェンザイム
 10万人の情報の一部にメールを送って、アンケート調査への協力を依頼した。
 その回答をもとに、もっとも熱心なファンと思われる450人を選び出し、試験的なプロジェクトに参加してもらった。
 この試みは2009年末のわずか3ヶ月だけど1500件もの紹介をもたらした。
■HERO協定
・HERO
 ・顧客のニーズを知る
 ・テクノロジーを使って顧客に対応する
 ・安全原則に従う
・IT部門
 ・テクノロジー面でHEROを助ける
 ・ソリューションの規模を拡大する
 ・リスク管理のツールを提供する
・マネジメント
 ・イノベーションを優先させる
 ・HEROを助ける
 ・IT部門と協力してリスクを管理する
■HEROインデックス
・臨機応変に行動する度合い、と、力があると感じている度合い
・HERO従業員(臨機応変○+力がある○)
・手段を制限された従業員(臨機応変×+力がある○)
・暴走しがちな従業員(臨機応変○+力がある×)
・力を奪われた従業員(臨機応変×+力がある×)
■企業文化を改め、環境を整える二つの方法
・従業員がもっと力を持っていると感じられるようにするためには、リーダーシップとマネジメントを見直す。
・従業員がもっと臨機応変に行動できるようにするためには、テクノロジーを活用できるよう支援する。
■HERO駆動のビジネスを築くためには、次の三つが求められる。
1.社内の全員に理解された戦略の一環として、リーダー主導でHEROにイノベーションを促す
2.HEROがイノベーションをすぐに試せるようにする。
3。HEROたちが部門の壁を越えて協力し合えるよう、社を挙げて支援する。
■ベストバイCMOバリー・ジャッジ
 バリーは自身のブログでテレビ放映前のコマーシャルを公開するだけでなく、ブログに寄せられたコメントに基づいて、コマーシャルを変えたり控えたりしている。
■ソーシャルメディア及びネットコミュニティ管理委員会(デル マニシュ・メータ)
 委員会のメンバーは各ビジネスユニットの代表と主な地区の代表、それにIT、法務、社内コミュニケーション、人事、マーケティングの各部門の代表を加えた12人。
 各代表は全員、それぞれの部門やユニットでは部長やリーダーに直属している。
 会合は毎週1回、90分、マニシュの司会で開かれる。
・ソーシャルテクノロジーへの投資とその方針を決める
・従業員のグランズウェルを利用して、社内の優れた成功事例を見つけ、それをみんなに伝えている。
■HEROのプロジェクトは初めは小規模なものだ。やがてそれが大きくなる。そして社内に広まり、戦略に取り入れられる。
■委員会の五原則
・CEOや重役陣の支援を得る
・関係するすべてのグループの代表者をメンバーに加える
・力のある従業員をメンバーに入れる
・定例の会合を持つ
・社内、社外両方のプロジェクトを対象にする
■従業員のピラミッド (IBM ジナ・プール)
・まず、フルタイムでブルーIQに協力してもらうメンバー6人を集めることから始めた
(社内で広く名の知られたブロガーやウィキの執筆者たち、つまり新しいソーシャルツールの支持者で、なおかつほかの従業員に対して影響力のある者たちだった)
・6人を集める過程で、ジナは熱心に応援してくれる人を100人見つけていた。
・100人の応援者の助けを得て、世界各地のあらゆる部門から、ブルーIQの志願者を1200人集め、自分のアンバサダー役を担わせた。
・40万人の従業員
■コラボレーションシステムの導入を成功させるための五原則
・既存のツールを拡張して、コラボレーションシステムを築く
・すぐに役立つものにする
・導入の過程に従業員を参加させる
・八割まで解決したら、そこで立ち止まり、従業員の声を聞く
・バイラルに導入が進むようにする
■「われわれは従業員を信用している。従業員を守りたいと考えている。」
 コダックのブルース・ジョーンズは従業員に身の守り方を教えた。それは次のようなメッセージを送るよりもはるかに建設的だった。
 「我々は従業員のへまを心配している。だから、従業員の行動を制限する。」
■グランズウェルを安全に使うための三つの基本原則
・することにはすべて、自分の名前を添える。
・自分が従業員であることを忘れない。
・誤りを認めて、修正する。
■グランズウェルテクノロジー委員会
 委員会の目的は、HEROが使うことができ、会社が支援することのできるグランズウェルテクノロジーを見つけ、紹介することにある
■なぜ従業員がHEROになるのだろうか?
 それは、困っている顧客や同僚を見たら「助けられることはないか?」と思わずにはいられないからだ。

4798122815 エンパワード ソーシャルメディアを最大活用する組織体制 (Harvard Business School Press)
ジョシュ・バーノフ、テッド・シャドラー 黒輪 篤嗣
翔泳社 2011-05-19

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