インテンション・エコノミー 顧客が支配する経済 (ドク・サールズ)を読むと、顧客の認知獲得自体に価値がある時代の終わりが想像できるかも。

4798130265 「インテンション・エコノミー」は、米国でブロガーやLinux Journalのエディターとしても著名なドク・サールズが書いた書籍です。
 献本を頂いていたのですが、遅ればせながら書評抜き読書メモを公開させて頂きます。
 インテンション・エコノミーのインテンションとは「意思」。
 ネット業界でよく使われた「アテンション・エコノミー」というフレーズのアテンションが「認知」であるのに対して、アテンションを獲得することは本質ではなく、インテンションに価値がある、というのがこの書籍のテーマです。
 TechCrunchでも、この本の出版自体が記事になっていますから、その注目度の高さが分かりますよね。
あのDoc Searlsが「注意の経済」から「意思の経済」への大転換を説く | TechCrunch Japan
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 アテンション・エコノミーというフレーズについては私自身も2006年に「アテンション・エコノミーというキーワードで見る2006年。」という記事を書いており、かなり影響されたのを良く覚えています。
 ただ、アテンション・エコノミーという概念だけで考えると、とにかく大勢の人に大量のメッセージを表示して何とか振り向いてもらおうというプッシュ型のコミュニケーションになりがちなんですが、実は「認知」してもらったところで顧客の「意思」自体が変化しなければ何の価値も無いのではないか、
 これからは「認知」させようとする企業では無く、「意思」を持つ顧客の側が主導権を握っていくのだというのが、著者であるドク・サールズの主張です。
 アウトバウンド・マーケティングに対するインバウンド・マーケティングや、パーミッションマーケティングなどの考え方と、論点は近いかもしれませんね。
 
 ちなみに、ドク・サールズは先日ご紹介したブライアン・ソリスの書籍「エフェクト」の逸話で紹介した「クルートレインマニフェスト」邦題「これまでのビジネスのやり方は終わりだ」という本の共著者としても有名なオピニオン・リーダー。
 そういう意味では、この本で語られていることは現在進行形と言うよりは、将来の話でありある意味過激派の意見であると考えておいた方が良いと思いますが、クルートレインマニフェストの予言がかなり大筋であたっていたことを考えると、今回の予言も一読の価値はあると思います。
※高広さんに教えてもらいましたが、インテンションエコノミーというコンセプトは、アテンションエコノミーが話題になっていた2006年の時にもう提示してますから凄いです。
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 実際には日本で短期間に、この本で描かれているような未来がすぐにやってくるとは全く思いませんが、少なくとも認知獲得の価値がどのように下がっていくかという未来は想像できるようになるのでは無いかと思います。
 個人的には、AMNで企業のマーケティングに携わる過程で、どうしてもアテンション・エコノミー側のプレイヤーとして期待されてしまうのに何とも言えない複雑な違和感を感じていたのですが、この本を読んで自分が注力したい世界感がこの「インテンション・エコノミー」側のプレイヤーであることが明確に腹に落ちました。
 ソーシャルメディアによって変化した企業と顧客の関係の、その先について一歩引いた視点で考えてみたい方には参考になる点が多々ある本だと思います。
 
 なお、「エフェクト」や「インバウンドマーケティング」を合わせて読むのもお勧めです。
【読書メモ】
■インテンション・エコノミーは売り手ではなく買い手を中心に発展する。
 買い手こそが価値の源泉であり、その価値はすぐに利用できるという単純な事実に基づいている。顧客に何かをさせるために宣伝する必要はない。
■買い手が市場に対して買う意思を伝え、売り手が買い手の購買を求めて争うことになる。単純なことだ。
 インテンション・エコノミーの本質は買い手が売り手を探すことにあり、売り手が買い手を探す(そして、囲い込む)ことにはない。
■フォースパーティー(第四者)
 顧客の代理人として機能する点で、第三者とは異なる。
 フォースパーティーのビジネスの目的は、顧客の多くのリレーションを管理し、その意思を市場で実行することだ。
 MyDex、Agigo、Personal.com、Connect.me、Singly


■二種類の相容れない立場(ランドール・ローゼンバーグ)
・マーケティングの未来は人間のやり取りや興味をすべて分析・取引可能な定量的データの集合へと集約することだけにあるという考え方
・マーケティングの成功はコンテンツ、背景情報、環境、そして、人間の感情に基づいた対話次第とする考え方
■「もし、広告が人に話すようにあなたが他人に話しかけたら、顔面パンチを食らうことになる」(ヒュー・マクラウド)
■高品質の商品を持つ強力な企業には示す余裕があり、弱い企業にはその余力がない
 (「広告は無駄こそが大切」広告を雄のクジャクの羽にたとえて)
■なぜ、インターネット広告はうまくいかないのか(エリック・クレモンス)
・別のやり方があるはずだ
・我々は広告を信頼していない
・我々は広告を見たくない
・我々は広告を必要としていない
■Kマートはいったいどうなってしまったんですか? 「クーポン」
 Kマートは割引クーポンに頼りすぎて、クーポン関連の費用が経費の大部分を占めるようになると共に、クーポン好きの顧客だけを優遇する結果になってしまったのだ。
(これに対して、ウォルマートはクーポンの使用を最小化しエブリデーロープライスで勝負した。このポリシーに必要な経費はほとんどゼロだ。)
■「何でも」(any)と「唯一の」(only)の戦い
・「何でも」:ネットヘットが、プロトコル、その利点という視点からネットをとらえている。
・「唯一の」:ベルヘットが、配線インフラや課金システムの観点からネットをとらえている
■「私からアイデアを得た人は私のアイデアを減らすことなく知識を得られる。これは私のろうそくから自分のろうそくに火を点けた人が私を暗くすることなく、光を得られるようなものだ。」(トーマス・ジェファーソン)
■「我々にはつぶすべき暇が多すぎる。暇つぶしの魅力的選択肢が少ないことから先進国の国民はあたかも義務であるかのようにテレビを見ている。テレビドラマが我々のジンだった。社会の変革の危機への対応を無限に遅らせていた。」(クレイ・シャーキー「Cogntive Surplus」)
■「メディアを単に視聴するだけの行為は不可欠な習慣というわけではない。単なる偶然の積み重ねであり、旧来のメディアでできないことをできるツールが採用され始めればそのような習慣はなくなってしまう」
■付合契約主義
 優位な立場の者が決めた契約条件に文句も言わずに従わざるを得ない状態
■「ワンツーワンの未来には、カスタム化された生産、個別対応メディア、そして、ワンツーワンマーケティングという特性があり、ビジネスの競合と成長のルールを根本的に変えていく。ほとんどのビジネス競合の目標は市場シェアの獲得ではなく、顧客シェアの獲得、つまり、顧客を一人ずつ獲得していくことになる」(One to One Future ドン・ペパーズ)
■「全体的に、マーケティング担当者は顧客から聞くよりも話す方を重視する。そうではなく、人間、個々の人間を考えるべきだ。ターゲット視聴者にリーチするのではなく、個人との対話を考えるべきだ。」
■VRM(Vender Relationship Management)
・個人が組織とのリレーションを管理するためのツールを提供する
・個人を自身のデータ収集の中心にする
・個人にデータを選択的にシェアできる権限を与える
・個人に自分のデータを、他人がどのようにいつまで使うかをコントロールできる権限を与える。
・個人にサービス条件を自分のやり方で決定できる能力を与える
・個人にオープンな市場で需要を主張する手段を提供する
・リレーション管理のツールをオープンな標準、オープンなAPI,オープンなコードに基づいたものにする
・リレーションを双方向で機能させる
■イマンシターム
・このサイトの外部では私の活動を追跡しないこと
・私のブラウザでは、ユーザーIDと訪問場所の記録以外にはクッキーを使用しないこと
・私に関して収集したデータを標準的でオープンな形式でチェック可能にすること
・私のフォースパーティ・エージェントにコンタクトすること
■ユーザー中心型(セントリック)とユーザー主導型(ドリブン)
 中心型は個人の外に位置しており、主導型は個人の内部に位置している。私は自分の意思でやっているか、それとも他人の意思でやらされているのか、ということだ。
■顧客はもはや乗客ではなく、運転手であるということだ。
 顧客自身の運転手でもあり、需要側と供給側の関係において需要側を支援する者の運転手でもある。
■イマンシペイ
 支払いシステムと言うよりは選択システムである
・どれだけ支払うか
・売り手はいつ支払いを受け取るか
・寄付金なのか支払いなのか
・支払いと共にどのようなデータを提供するか
・個人データの使用条件
■市場では三つのことがおきる。
 トランザクション(取引)、対話、リレーションだ。
 工業化社会ではトランザクションが最大の要素だ。
 自然な市場がまだ模範として成長している新世界ではこの比率は逆転している。
■アスクリビネーション(貢献度指定)
 ソースに対して貢献度を評価し、対価を支払える能力
■値引きというドラッグから抜け出すためには、企業はグルーポンがなくても、そして、クーポンなどのギミックがまったくなくても生き残り、成長していけることを理解すべきだ。
 教訓は、企業と顧客が値引きにとらわれている限り、顧客やサービスの真の価値はわからず、その本質的価値を向上する方法もわからないということだ。
■ザッポスは顧客を愛し、顧客にリードさせることで勝利した。
 当初から、同社はリレーションを経費ではなく、投資と見てきたのだ。また、顧客との対話を時間の無駄ではなく、優位性であると見てきた。つまり、顧客との対話が多ければ多いほど望ましいということだ。
■カスタマー・コモンズ
・私たちは顧客のコミュニティです。
・私たちは顧客により資金提供されています
・私たちは顧客の関心と期待に合わせて奉仕します

4798130265 インテンション・エコノミー 顧客が支配する経済 (Harvard business school press)
ドク・サールズ 栗原 潔
翔泳社 2013-03-15

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