アテンションエコノミー (Attention Economy) (トーマス・H・ダベンポート)

アテンション! アテンション!という邦題になっていますが、現代は「Attention Economy(アテンションエコノミー」昨年あたりからブログでも話題になっているキーワードです。
(書籍自体を出版したときは、こんなキーワードが流行ると思わずにアテンション!というタイトルにしたんでしょう。今だとドラマの本と勘違いされてしまいそうですが。)
 個人的にも、今年はアテンション・エコノミーというキーワードに注目したいと思っていたのですが、何だか分かったような分かって無いような感じになってしまっているので、改めて本を買って読んでみました。
 
 何でもkwmrさんによると、このコンセプト自体は97年頃から話題になっていたものだそうで、この書籍を読んでも、考え方自体は別にそれほど目新しいものではないことに気づかされます。
 書籍でも「アテンションはビジネスや個人にとって、真の意味での通貨となった」というくだりがありますが、実際、これまでも、テレビ広告の視聴率やバナー広告のPVなんかが、このアテンション通貨にあたる評価指標だったわけで、そういう意味では既にわれわれはとっくにアテンション・エコノミーに生きていたということかもしれません。
 で、その重要性はインターネットの登場により間違いなく増しているわけですが、個人的には書籍に書かれていた「視聴者のアテンションには限りがあり、ゼロサムの戦いになる」というくだりが気になっています。
 情報量が爆発的に増えているのに対しアテンションは有限であるために、企業側はこれまでのような物量投下で無理矢理アテンション獲得を増やすというよりは、ターゲットに対するきめ細かいフォローが必要になってきている気がします。
 そういったシーンではロングテール的な細かいニーズに対応したコンテンツの価値が上がってくるはずで、最近、Google Adsenseによってウェブサイトを持っている個人が、ある程度手軽にアテンションを換金できるようになっているのも当然の流れという感じもしてきます。
 (なんだか上手くまとめることができませんが)
 書籍の中では、広い意味でのアテンション・エコノミーについてだけではなく、その中で生きるわれわれ個人や、組織にとってアテンションがいかに重要かというのを事例と共に説明してますので、アテンションエコノミーというキーワードが、分かったような、分かってないようなという感じになっている方にはお勧めです。


【読書メモ】
■われわれは皆「アテンション・エコノミー」に生きている。
 この新しい経済では資本、労働、情報そして知識は十分に供給されている。
 供給不足に直面しているのは人間のアテンションなのだ。
■今日、アテンションはビジネスや個人にとって、真の意味での通貨となった
 持っていない者は欲しがり、持っている者はいっそう多くを求める。
 交換することも買うこともできる。人はすでに持っているものを維持し、かつ拡大しようと働く。アテンションは他の種類の通貨に変換も可能だ。
■アテンションの不足を頻繁かつ長期間経験するようであれば、心理的にも組織的にも深刻な結果をもたらすだろう。
・毎日200本のメッセージをやりとりする環境では、受ける情報量にホワイトカラー層の71%がストレスを感じ、60%が圧迫感を感じると報告した(未来研究所の調査)
■組織的アテンション欠乏障害の徴候
・決定するときに大事な情報を欠落させやすくなる。
・電子メールやボイスメールなど、単純な情報のやり取り以上のことを考える時間が少なくなる。
・他人のアテンションを引きつけておくことが難しい。
・必要なときに集中力が鈍る。
■「アテンション市場」と呼べるものが組織の内外に存在する。
・他の市場と同じく、このアテンション市場でも人によって取引の上手下手がある
・アテンションには明らかに限界がある。
 1ヶ所で使用されているアテンションを、同時に別の場所に振り向けるわけにはいかない。
■アテンションとは、特定の情報項目に対して知的に注がれる関わりである。
 ・知覚→「周囲からの感覚のインプットの多くをふるいにかける段階」→アテンション
 ・アテンション→「アテンションを注いだ情報に関連した行動を起こすかどうかを決定する段階」→行動
 
■アテンションの6つのタイプ
 ・受動的と能動的 (映画の広告と印刷物の広告)
 ・嫌悪的と魅力的 (死と出生)
 ・顕在的と潜在的 (車の購入とミルクの購入)
■アテンションの最も大事な機能は情報を集めることではなく、情報をふるい落とすことだ。
 人間の脳は驚くほどの受容能力がある。
 問題は1度に1つか2つの行動しかできないことだ。
■マズローの(アテンション)階層
 肉体的生存の必要性が優先順位の上に来る。
 これが満たされたときにのみ、脳は下位の必要事項にアテンションを向ける。
・心理的必要性
・安全の必要性
・「帰属性」と愛の必要性
・尊重される必要性
・知り理解する必要性
・美的な必要性
・自己実現
・卓越すること
■もし自分がアテンションを集めたいなら、人にアテンションを与える必要がある
 自己愛は、個人のアテンションに焦点を合わせるのに、きわめて役立つ要素。
 インターネット・マーケティングで個人化が強い流れになっているのは、そうしたナルシズムと大きくかかわっている。
■押してダメなら引いてみる!
 プッシュ技術:情報がわれわれの前に押し出されると、かつて求めていたものでも急激に興味が冷めていく。
 情報を引き出す行為:望んだ情報を探しクリックしていくことを通じて、人間のアテンションを刺激する。
■掘り出し物
 時間の経過の中で誰かのアテンションを捉え続けたければ、任意性と掘り出し物の要素を盛り込むことが非常に有益。
■情報の集中砲火とアテンションの枯渇状態を考えれば、おそらく将来最も人気を博するであろうテクノロジーは、あなたのアテンションを保存・保護し防衛するものになるだろう。
(それらが実用的に機能するにはあなたのアテンションが必要である。自分が本当に求めている情報は何か、いかにそれが必要かを吟味する時期が来ているかもしれない。)
■ゼロサムの観衆
 視聴者のアテンションには限りがあり、ゼロサムの戦いになる。
■集客力の高さを誇る4つの手法
 ・妥当性 (コンテンツの広さ、深さ、速さ、新鮮さ等)
 ・関与  (双方向性、競争、娯楽性、語り)
 ・コミュニティ(帰属意識だけでなく所有意識を持たせる)
 ・使い勝手(
■アテンション・リーダーシップの4つの要因
・自らのアテンションを絞り込む
・自らに対して妥当な種類のアテンションを引きつける
・自らに従ってくる人々のアテンションを方向づける
・自らの顧客や依頼人のアテンションを管理する
■企業内のアテンションを、見せかけ仕事や日常のエネルギーを消耗する政治的駆け引きから、リアルワークに戻さなければならない
(勤務評定の基準を時間ではなくアテンションに。)
■慢性情報疲労症候群
・経営者の43%が多すぎる情報のおかげで重要な決定が先送りされ、決定能力そのものも影響を受けていると考えている。
・55%の人が、自由に閲覧できるあらゆる情報を持っていても不手際な決断を下すのではないかとの懸念を捨てきれないでいる(1996年のロイターの調査) 
■アテンションを獲得できるメッセージの特性
・メッセージの発信者(信頼・尊敬・影響力・実力・魅力)
・メッセージの背景(個人的、グループに関する、関心を持つテーマ)
・メッセージの内容(簡潔、物語、感覚を揺さぶる、新鮮、珍しい)
・メッセージの受信者の反応(感情が動かされる、影響を考慮できる、大事なものだと確信)
■情報収集技能は正式な訓練によるものではない(アウトセル社調査)
・情報源を検索・収集・評価する訓練を8時間以上受けたことがあるのは、回答者のわずか18%
・回答者の半数以上が、いっさいの正式訓練を受けたことがなかった。
・情報収集に主としてウェブを活用する人の中で、65%がいっさいの訓練を受けたことがない。
→スタッフに検索方法を教えるだけでなく、どういった情報・知識が本当に必要かを判断できるような教育が必要
→電子メール・インターネット・イントラネット上の大切な情報や、紙面上の情報をファイルするシステムや保管技術など、効率的な情報環境を作る方法を提供
■企業におけるアテンションマネジメントの方策例
・企業は従業員について、情報発信の権限を持つ者とそうでない者とを厳格に区別する。
・企業は従業員にとって最もアテンションに値する情報の種類を階層化する。
・企業の管理職は、従業員が就業時間外のアテンションを、どの程度まで仕事関連に振り向けるべきか示唆する。
・就業時間中の従業員が仕事関連以外のことに、どれだけアテンションを振り向けることが認められるか、経営者が指示する。
・企業は従業員に対して、特定の業務内容や情報に振り向けるべきアテンションについて示唆するだろう。
・企業は従業員が仕事に集中できる「情報フリーゾーン・時間」を設ける。
【目次】
ビジネスのあたらしい視点
アテンション、これまでの経緯
アテンションの実験
アメーバから類人猿へ
技術革新抵抗勢力に告ぐ
隠れた説得者
インターネットとアテンション
コマンド・パフォーマンス
絞り込まれた選択肢と世界に広がるリソース
組織図を離れて
たくさんのメールを受信しています
近視眼からユートピアへ

アテンション! アテンション!
トーマス・H・ダベンポート ジョン・C・ベック 高梨 智弘


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