明日は誰のものか (クレイトン・クリステンセン)

明日は誰のものか イノベーションの最終解 イノベーションのジレンマで有名なクレイトン・クリステンセン氏の最新刊です。(とはいえ、もう発売されてからかなり経っているのですが)
 会社の人に借りた時の読書メモを投稿するのを忘れてましたので、今更ながら投稿です。
 今回の「明日は誰のものか」は、イノベーションのジレンマやイノベーションへの解に比べると、比較的引いた視点のように感じます。
 最初にイノベーションのジレンマを読んだときのような衝撃は当然望むべくも無いのですが、何となく1冊目2冊目を読んでもしっくり来なかった方に逆にお勧めかもしれません。
 いろんな産業の事例が並んでいて、どれかはきっとヒットするはずです。
 個人的には通信産業の事例がたくさんあったので、あらためて分かりやすく理解することが出来ました。
 最近、インターネットの普及を背景に、超低価格なイノベーションが次々に出てきている感覚がありますが、はたしてこれらは、破壊的なイノベーションとなって既存産業の市場をひっくり返していくのかどうか、そのときの産業のあり方とは、国はどうするべきなのか、と改めていろいろ考えさせられる一冊です。


【読書メモ】
■将来を見通す最上の方法は、理論のレンズを通して観察を続けること
「大量の無意味な雑音の中から、本物の信号を取り出すという作業はまさに骨の折れる難題だ。理論こそが、こうした雑音を遮断し信号を増幅するための力になってくれる」
・投資銀行アナリスト
「過去は未来のよき予言者だ」
 過去の歴史的なデータをかき集め、トレンドを判断し、予測をする。
・経営コンサルタント
「優等生の企業がとった行動をそのまま踏襲すれば成功が約束される」
 ベストプラクティスを特定し、成功のカギになっているかという理由を証明する。
■産業の変化を予見するためのプロセス
1.変化のシグナル
 誰かが変化を起こせるチャンスにつけ込もうとしている、という兆候が存在するか?
2.競争のための戦い
 業界の競合企業同士の熾烈な戦いはどんな結末になる可能性が高いのか?
3.戦略的な判断
 企業は成功の可能性を究極にまで拡大するような意思決定をし続けているのか?
■変化のシグナルの柱となる3つの顧客グループ
1.非消費者
 製品を一切消費していない顧客、あるいは不便な環境の中で何とか消費している顧客
 「ある製品を、自分の持てる技量や財政事情のままでは、購入あるいは利用できない人たち」
 →新たなマーケットの破壊的なイノベーション
2.満足度不足の顧客
 満足度不足の状態で消費している顧客
 「ある製品を消費しているものの、その性能の限界に満足していない消費。自分にとって重要な側面での性能向上に喜んで金を払う」
 →生き残りの、金持ちマーケットのイノベーション
3.満足度過剰の顧客
 満足度過剰の状態で消費している顧客
 「かつてプレミア価格の立派な理由になっていた性能面での進歩に対して金を支払わなくなった消費者」
 →ローエンドの破壊のイノベーション
 →新しいイノベーション
 →必要な技量の下方への移行
■進歩発展を明らかにするのに役立つ重要な設問
・業界が抱えている顧客はどんなことを成し遂げようとして苦労しているのか。
 顧客は、製品の恩恵を受けていないのか、満足度不足なのか、満足度過剰なのか。
 企業はどのような側面を重視して競争をしているのか
・過去、どんな進歩のおかげでプレミアム価格がつけられたのか
・統合的なあるいは専門的なビジネスモデルが今でも幅を利かせているのか。
 インターフェースは具体的か、検証可能か、予測可能か。
 どこでモジュール化が進行しているのか。
・新たなビジネスモデルが出現しているのはどこか。
 周辺のマーケットでは成長が認められるのか。
・政府あるいはその規制当局は、イノベーションを奨励したり、あるいは抑制したりするために、どんな役割を演じるのか。
■競争の実体の把握方法
・経営資源  :企業が自由に使えるもの (有形資産、無形資産)
・業務プロセス:事業経営の方法(技量) (企業が解決してきた問題、一般的なプロセス)
・価値感   :優先順位の決定(意欲) (ビジネスモデル、投資に対する決断の履歴)
■破壊的な参入企業のプロセス
第一ステップ
 参入企業は不均等な意欲の盾に隠れて参入する。初期の既存企業の反応は結局、無理な押し込みになってしまう。
第二ステップ
 参入企業は成長し発展する。既存企業は逃避を選択する。
第三ステップ
 参入企業は不均等のスキルの矛を利用する。
■競争のための戦いを分析するときに重要な質問
・業界各社のビジネスモデル、意欲、スキルはどんなものか
・業界各社はお互いにどんな比較をしているのか。均等、不均等が認められるところはどこか。
・不均等が有利に傾くのは攻めての側か、既存企業の側か
・イノベーションは狙ったマーケットに上手く当てはまるのか。
・既存企業がローエンドのマーケットを明け渡し、上のマーケットに移行しようとしている兆候が見られるか
■破壊的な企業の経営者が経験しておくべきこと
・不確実性の程度が高い環境で経営をした。
・一見手に入りそうにもない知識を発掘した。
・全く思いがけない顧客を見つけ出した。
・細かなデータの執着せず、理論と直感に頼って賭けに出た。
・たいした金を賭けることなく、さまざまな問題を臨機応変に解決した。
・何もないところから経営チームをつくりあげた。
・するべき仕事をすばやく仕上げるために、他のプロセスを強化したり操作してきた経験を示した。
■戦略的な意思決定をするとき提起すべき重要な質問
・企業は適切な戦略の構築が必要な状況におかれているか。企業は力を内部で養成できるのか。経営者は正面から取り組んできたのか。学習する能力を発揮してきたか。
・投資家の価値感は企業が求めていることと整合性が取れているか。
・バリューネットワークが重なり合っていないか。
・スピンアウトに適した状況か。必要なことを実行する自由を与えられているか。
■破壊の歯車を活性化している6つの要因
1.才能人間を求めるマーケット
2.資本のマーケット
3.規制のない製品のマーケット
4.整備されたインフラストラクチャ
5.活気に満ちた業界の力学
6.研究開発環境
■破壊のイノベーションに関する教訓
1.破壊はあるプロセスであって、結果ではない
2.破壊は相対的な現象。ある企業にとっては破壊的なことが、他の企業にとっては生き残りに役立つこともある。
3.今までとは違っているテクノロジーが、そのまま破壊的だということはない。
4.破壊のイノベーションがハイテクのマーケットに限定されているわけではない。破壊はどんな製品やサービスのマーケットでも起こりえるし、国家経済間の競争を説明するのにも役立つ。
【目次】
変化を予測する
第1部 分析のために理論をどのように用いるか(変化のシグナル―ビジネスチャンスはどこにあるのか
競争のための戦い―競争相手の実力を見きわめる方法
戦略的な判断―どれが重要な判断なのかを見きわめる ほか)
第2部 理論に基づいた分析の実目(破壊的な卒業証書―教育の未来
破壊がその翼を広げる―航空の未来
ムーアの法則はいずこに―半導体の未来 ほか)
結論 次は、何か
主な概念のまとめ

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