「イノベーションへの解 実践編」は、いわゆる「イノベーションのジレンマ」に対峙するための実践手法が描かれた書籍です。
かなり前に献本を頂いていたのですが、大変遅ればせながら書評抜き読書メモを公開させて頂きます。
「イノベーションのジレンマ」は、ジェフリームーアのキャズムと並んで個人的な人生で読んだ「目から鱗本」の中でも筆頭に挙げられる書籍ですが、一方でイノベーションのジレンマを乗り越えるための考え方がないという批判も多い書籍だと思います。
著者のクレイトン・クリステンセンは、その指摘に対応する意味も込めて、「イノベーションへの解」や「明日は誰のものか」などを出していますが、今回の「イノベーションへの解 実践編」は、あらためて破壊的イノベーションの再定義から始めており、実質的にイノベーションのジレンマに対する手ほどき書という位置づけになっています。
どちらかというと大企業における新規事業向けのアドバイス書になっているという印象もありましたが、新規事業により新しいのべ-ションを起こしたいという方には参考になる点が多々ある本だと思います。
【読書メモ】
■破壊的イノベーションの原則
・過剰満足が破壊的イノベーションの前提条件を作り出す
・破壊的イノベーションはルールを破ることから生まれる
・ビジネスモデルのイノベーションが破壊的イノベーションを推進することが多い
■最も犯しがちな誤りは、性能の大幅な向上が破壊的イノベーションと同義であると考えてしまうことである。
■イノベーションの取り組みのための前提条件
・中核事業の安定化
・成長のための「作戦」
・資源配分プロセスへの習熟
■「10%計画」はマネージャーが安心感を得るためのお守りとしては機能しているが、意味のある結果に結びついていないことが多い。
100人がそれぞれ10%の資源をイノベーションに割り当てるよりも、5人がそれぞれ100%の資源をイノベーションに割り当てた方が望ましい
■独立した資源のプールを用意する場合には、経営陣は経費を資本支出と考えるべきであり、営業経費と見なすべきではない。
■イノベーションへのステップの検討
・上級経営陣と成長とイノベーションについての議論するための半日のセッションを設ける。
・自社の五年間における成長目標は何か
・その目標達成において、自社の能力にどの程度の確信を持っているか
・同業他社と比較してイノベーション能力はどの程度か 等
・今後五年間に自社のビジネスを20%縮小させる条件とはどのようなものか
・似た考えを持つマネージャーたちとディスカッショングループを構成してみる。
・破壊的イノベーションのプロジェクトの作業を夜間及び週末に行うための小規模なチームを構成する
■最初のステップは、斬新な成長事業を創出する機会を見つけること
・現時点における消費者ではなく、何らかの理由で消費を行えない消費者
・需要は小さいが異なる解決策を求めている可能性がある顧客
・顧客に対して単にどのような解決策が欲しいかを訪ねるのではなく、現時点で顧客が適切に解決できていない問題、いわば「片付ける用事」を理解すべき
■非消費
消費が何らかの障害によって妨げられている人あるいは状況を指す(「明日は誰のものか」)
■消費の制約条件を発見する原則
・複雑なものを単純にする
・主流市場における批判に惑わされてはならない
・強制するな、イノベーションを提供せよ
■消費には四つの制約条件が存在する
・スキル関連の制約条件
・資力関連の制約条件
・アクセス関連の制約条件
・時間関連の制約条件
■過剰満足の兆候を明らかにする
・顧客との直接的やりとり
・利益率、価格、市場シェアの分析
・最近の新製品導入時の状況分析
■「今日ローエンドでビジネスを失えば、明日にはハイエンドを失う」(アンディ・グローブ)
■市場を「用事」ベースでみる
・顧客はどのような基本的な問題を解決しようとしているのか
・顧客はどのような目的に基づいてソリューションを評価するか
・そのような障害がソリューションを制限しているか
・顧客はどのソリューションを検討するか
・イノベーションが生み出すソリューションにどのような機会が存在するか
■既存のソリューションでは、問題が解決できないために、顧客が「代償行動」つまり回避策を行っているケースを探すことで、魅力的な用事の領域が明らかになる
■成功する破壊的イノベーションのパターンと原則
・過剰満足あるいは「非消費」の顧客をターゲットとすることから始める
・必要にして十分が大きな価値を持ち得ることを認識する
・既存の競合他社にとって魅力がない、あるいは関心がないと思われるようなことを行う
■成長戦略の評価における三つの重要な教訓
・あらゆる評価はアイデアを具体化するための機会である
・定量的指標を意識的に避けることで可能性を増す
・短期的思考と長期的思考を組み合わせる
■経験の学校
企業は中核事業での任務で成功した「万能型」と思われるマネージャーよりも、新規成長事業を発見し、育成するための適切な「経験の学校」で学んだマネージャーを探すべきである(モーガン・マッコール「ハイ・フライヤー)
■経験の学校で学べる科目
・曖昧さに対応してきた
・パターン認識と判断力に基づいて確信的な意志決定を行ってきた
・製品やサービスの予想されていなかった顧客について実験し、市場機会を発見した
・障害の克服や問題解決のために広範なネットワークを利用してきた
・十分な資源がない環境で業務運営してきた
・実行型であることを実証してきた
■測定における罠
・少なすぎる評価指標
・持続的な行動を奨励してしまう
・アウトプットではなくインプットにフォーカスしてしまう
■イノベーションの評価指標に関する助言
・何よりもフォーカスが重要
・相対評価を重視する
・評価指標の選択を定期的にレビューする
・企業の組織構造における整合性を確保する
・評価指標と人事考課システムの整合性を取る
■イノベーションにおいて陥りがちな罠
・プロジェクト関連の罠
・早期に過大な投資を行ってしまう
・「何をなすべきか」よりも「何ができるか」を優先してしまう
・実現不可能な完全性を追求する
・分析過剰症候群
・従来型の市場予測ツールの使用
・コア・コンピタンスへの固執
・企業関連の罠
・バランスを欠くポートフォリオ
・長期化したプロジェクトが多くなりすぎる
・中核事業によるフォーカスの拡散
・誤った意志決定基準の使用
■イノベーションの教訓
・破壊的イノベーションは意識的な選択でなければならない
・既存のツールを変えるか、別のやり方で利用する必要がある
・チームの組織構造と管理者が破壊的イノベーションの隠れた阻害要因である
・必要以上に大規模なチーム
・チームメンバーの経験の種類が不適切
・チームがやらなくてもよいことを追求し、やるべきことを無視してしまう
・チームにおける専任の人材の欠如
・発想の転換が必要である
■最後の助言
・会議室の壁がさえぎっているのは太陽の光だけではない
・これは良い製品か?という質問に対する答えは常に同じであるべきだ(場合による)
・最悪の仮説とは自分は正しいと思い込んでしまうことだ
・スプレッドシートは仮説を表現するものであって答えを表現するものではない
・資源不足は起業家の強みである
・十の100%は1000の10%にまさる
・時間の使い方が優先順位を反映する
・評論家は多数存在するが、問題解決者は希少である
イノベーションへの解 実践編 (Harvard business school press) スコット・アンソニー マーク・ジョンソン ジョセフ・シンフィールド エリザベス・アルトマン クレイトン・クリステンセン 栗原 潔 翔泳社 2008-09-19 by G-Tools |