20歳のときに知っておきたかったこと(ティナ・シーリグ)を読むと、日本の教育方針自体を根本的に見直した方が良いのでは無いかという気がしてきます。

4484101017 「20歳のときに知っておきたかったこと」は、スタンフォードの人気教授であるティナ・シーリグ氏の書籍です。
 NHKの白熱教室を見て面白かったので、本も買って読んでいたのですが、遅ればせながら書評抜き読書メモを公開させて頂きます。
 実は以前本屋に山積みになっているのを横目で見つつ、タイトルからてっきり若者向けの自己啓発書のたぐいかと勘違いしてしまっていたのですが、実はこの本はいかに「起業家精神」や「イノベーション」を生み出す力を養うべきかという根本的な問いに向き合っている本です。
 個人的にこの本を読んで実に悲しい気持ちになったのは「リスクを取ろうとする意欲と、失敗に対する反応は、国によって大きなばらつきがあります。失敗したときの悪い面が多すぎて、個人がリスクに対して過敏になり、どんなリスクも取ろうとしない文化があります。こうした文化では、失敗が「恥」と結びついていて、若い頃から、成功の確率が高い決まった道を歩くよう教育されています。」というくだり。
 まぁ、明らかにこれって現在の日本のことですよね。
 学生の公務員志向とかが想像以上に強かったりする話とかを聞いていると、本当に現在の日本が構造的に、リスク回避の若者を生み出して、社会がどんどん硬直していく未来を想像してしまい正直ぞっとします。
 ただ、日本も戦後はソニーやホンダの経営者に象徴されるように、リスクを積極的に取ることが実践されていましたし、日本の文化自体が、リスクを取ることを回避する文化だったとは思えません。
 現在のリスク回避の姿勢は、実際には高度成長期に生み出されたものではないかと個人的には思っていますし、逆に言うと現在の教育方針自体を根本的に方針転換することができれば、実はイノベーションにチャレンジする若い世代をもっと増やすことができるはずだという気もしてきます。
 もちろん、だからといって昨今のスタートアップブームに乗って誰も彼もが起業すれば良いという話ではありませんが、イノベーションにチャレンジする人が増えなければ、成功するイノベーションも増えないわけで。
 そういう意味では、この本は企業を目指す若い世代だけでなく、若い世代を教育する立場にある方々、教育制度や社内教育プランを考える立場にある方々にもぜひ読んで欲しい一冊だと思います。
【読書メモ】
■「これから五日間、封筒を開けてから四時間のあいだに、このクリップを使って、できるだけ多くの「価値」を生み出して下さい」
・チャンスは無限にあります
・問題の大きさに関係なく、いまある資源を使って、それを解決する独創的な方法はつねに存在する
・わたしたちは、往々にして問題を狭く捉えすぎています
■じつは、学校で適用されるルールは、往々にして外の世界のそれとはかけ離れています。このギャップがあるために、いざ社会に出て自分の道を見つけようとすると、とてつもない重圧にさらされることになります。
■学校では、要するに、誰かが勝てば、誰かが負ける仕組みになっています。これではストレスが溜まりますが、組織はふつう、そのようにできていません。自分が勝てば周りも勝ちます。


■常識を疑うスキルを磨く授業
・1939年「マルクス兄弟 珍サーカス」を見せ、伝統的なサーカスの特徴をすべて挙げてもらいます
・つぎに、いま挙げた特徴を逆にしてもらいます
・つぎに、伝統的なサーカスのなかで残しておきたいもの、変えたいものを選びます
・実際のシルク・ドゥ・ソレイユの最近の講演のビデオを見ます
■IDEOのブレインストーミングのルール
 他の人のアイデアを発展させること
■「許可を求めるな、許しを請え」
 ルールは破られるためにある
■成功を阻む最大の壁は、自己規制
 「並はずれた業績を達成した人々の最大の味方は、ほかの人たちの怠慢である」(デビッド・ロスコフ)
■リスクを取ろうとする意欲と、失敗に対する反応は、国によって大きなばらつきがあります。失敗したときの悪い面が多すぎて、個人がリスクに対して過敏になり、どんなリスクも取ろうとしない文化があります。
 こうした文化では、失敗が「恥」と結びついていて、若い頃から、成功の確率が高い決まった道を歩くよう教育されています。
■こうした文化の対極にあるのがシリコンバレーです。
 失敗はイノベーションのプロセスの一部として、当然のことと受け止められています。
■成功だけに報いると、リスクを取ろうとしなくなるので、イノベーションが阻害される。成功とともに失敗も評価し、何も行動しないことを罰する方法を検討してはどうか。(ロバート・サットン「なぜ、この人は次々といいアイデアが出せるのか」)
■リスクを取ってうまくいかなかったとしても、あなた自身が失敗者なのではない、ということも覚えておいて下さい。失敗は外的なものです。こうした見方ができれば、失敗しても立ち上がり、何でも挑戦できます。
■身近な人たちは、キャリア・パスを決めたら、そこから外れないよう期待するものです。照準を定めたら、あくまでそれを追い求める「打ちっ放し」のミサイルであるよう求めるのです。でも、物事はそんな風にはいきません.
■BATNA(不調時対策案)
 交渉の席を立つべきかどうかを決めるには、ほかの選択肢を知ることです。
 交渉を始めるときには、BATNAを持っているべきです。
■シミュレーション演習
・グループを6チームに分ける
・完成した100ピースのジグソーパズルを5組見せる
・バラバラにして、ピースをかき回し、2,3個を手元に置いて、残りのピースをチームに配る
・1時間で完成するよう指示
・通貨として20のポーカーのチップも渡す
・大きな島は1ピースが1ポイント、小さな島は1ピースが0.5ポイント
・制限時間内に完成できたチームはボーナスとして25ポイント
・10分ごとに何かがおこる
・手元のピースのオークションをしたり、完成したパズルの写真を売ったり。
・各チームから一人、ピースを数個持ってほかのチームに移ってもらうことも
■資源が限られた環境では、自分だけではなくほかの人たちもうまくいくことを目指した方が、自分だけが勝つことを目指して争うよりもはるかに生産的である
■「あなた自身に許可を与える」
 私が伝えたかったのは、常識を疑う許可、世の中を新鮮な目で見る許可、実験する許可、失敗する許可、自分自身で進路を描く許可、そして自分自身の限界を試す許可をあなた自身に与えて下さい、ということなのですから。

4484101017 20歳のときに知っておきたかったこと スタンフォード大学集中講義
ティナ・シーリグ Tina Seelig
阪急コミュニケーションズ 2010-03-10

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