「ビジネスで一番、大切なこと」は、 ハーバード・ビジネススクールの人気教授であるヤンミ・ムン氏の書籍です。
他の本を読んだ時に引用されていたので、買って読んでいたのですが遅ればせながら書評抜き読書メモを公開させて頂きます。
タイトルだけ見ると経営者向けの一般教養書のように見えてしまうかもしれませんが、この本の原題は「Different」。メインテーマとなっているのは「差別化のジレンマ」とでもいう現象です。
一般的に他社との競争の過程で、他社商品やサービスとの差別化を意識するあまり、他社の研究をしすぎて結果的に製品やサービスが似通っていってしまう、という著者の指摘は最近のスマートフォン市場やデジタルカメラ市場などの状況を振り返っても非常に納得です。
本来は差別化というのは、他社と異なる存在になろうとする行為のはずですが、他社との違いを出そうとするために他社の特徴を学ぶと、結果的に他社の特徴を自社が備えていないことが不安要素となり、スペック表の上ではすべての項目に○がつくような製品・サービス展開を選択することになりがち。
実は差別化においては、何をやらないか、ということを決めることの方が重要だということに気づかされる書籍です。
製品やサービスの差別化に悩んでいるマーケティング担当者には、刺激になる点が多々ある書籍だと思います。
「リ・ポジショニング戦略」や「独自性の発見」あたりも合わせて読むのもお勧めです。
【読書メモ】
■教師としての実感からいえば、暗唱は能力を高める一方、ある種の惰性をもたらす。多くの教育者が批判するように、頭を使わなくなるのだ。一度覚え込むと、それ以上学ぼうとしなくなる。これが今、ビジネスの世界で起きている現象だ
■ポジショニングマップや市場調査に限らず、どんな分析手法にも言えることだが、自社の競争力を測るという前向きな努力が、結果的には均質化を促すムチになってしまう。
■真の差別化は、均整の取れた状態から生じるものではない。むしろ偏りから生まれる。
■製品の拡張の形
・付加型:よりよく、新しく進化させる。足し算の製品拡張
・増殖型:選択肢が掛け算のごとく増えていく。企業は特定のセグメントのニーズを満たす製品をひねり出す
■市場が成熟しすぎると、二つの傾向が現れる
・競争が高じて過剰な活動が繰り広げられると、消費者の目には違いが分からなくなる。
・そのカテゴリーとの関係が、カテゴリー内のあらゆるブランドとの関係を表すようになる。
■カテゴリーから生まれる多すぎる選択肢に人々がどのように対応するか
・知識豊富なカテゴリー通
・めざとい買い物上手
・関心の薄い現実主義者
・いやいや関わる不本意な人々
・理屈抜きの熱心な愛好家
■アイデア・ブランド
いわゆる市場調査からではなく、もっと不確かなもの、物事を極端に異なる方法でやれるという考え方から生まれている。
■リバース・ブランド
アイデア・ブランドの中でも非常に特殊で、顧客が期待している拡張への流れを意図的に断ち切る。他社が競争に欠かせないとみなしている便益の提供を控えようとする。
■IKEAの愛好家は、短所をはっきり認めた上で長所を語る。立地は不便だが、それも冒険のうち。買い物に時間がかかるが、店での時間はディズニーランドのよう。面倒な組み立ても、やりがいがある。
■ブレークアウェー・ブランド
消費者の分類プロセスに意図的に介入し、デフォルトに代わるカテゴリーを提示す
■ブレークアウェー・ブランドは、歩幅をぎりぎりまで広げようとする。差別化のプロセスを連続体の極限で解釈し、カテゴリーから外れない範囲で原型を保とうとする。彼らはカテゴリーにおける造反派であり、境界線の破壊者である。
■ホスタイル・ブランド
消費者に媚びず、その気が無いふりをする。
古典的な意味でのマーケティングを実行することはなく、「アンチ・マーケット」の姿勢を貫いている。たとえば、製品の欠点を素直に語る、製品が容易に顧客の手に入らないようにする。
■ホスタイル・ブランドは分裂を生む一方で、不思議な連帯感を生み出す。
■アイデア・ブランドの三つの類型は、厳密な区分というより、思索を深める枠組みだと考えて欲しい。魅力的なブランドであればあるほど、その本質は、骨格だけではとらえられないほど複雑だ。
■ハーレーとダヴは、どちらも「違い」を生み出したブランドでありながら、方法がまるで異なっている。ハーレーは幻想を生み、ダヴは暴露する。
・違いを見いだす最善の方法は、それを正面切って探すことだ。
・違った存在でいるには無数の方法がある。
・多くの方法があるといっても、それらが生み出す違いは同じものとは限らない。
■「僕が自由でいられるのはね、常に100%完璧でなくてはならないとは思っていないからさ。僕がやろうとしているのは、僕が見つけられる一番面白い2%を探し出すことだ。」
■強い確信のある二点
・偏りには価値がある。
・挑発には価値がある
■競合他社について豊富な情報を得ることによる影響
・近視眼的な競争が生み出される
・競合他社の行動を模倣しようとする傾向が生じる
・同質化競争の群れができる
■アイデア・ブランドの特徴
・彼らは、簡単には手に入らないものを提供してくれるだろう
・彼らは、大きな理想を掲げ、取り組むだろう。つまり、彼らは、ほんの少し違っているのではなく、大きく違った存在なのである。
・彼らは、非常に人間的だろう。人の内面の複雑さにとても敏感な人々に理解されるだろう。
ビジネスで一番、大切なこと 消費者のこころを学ぶ授業 | |
ヤンミ・ムン 北川 知子
ダイヤモンド社 2010-08-27 |