キーストーン戦略は、ビジネスの産業構造を企業のエコシステムと捉え、実際の生物の生態系と比較することで、「キーストーン」と呼ばれるリーダー企業の重要性や戦略について分析した本です。
翻訳に携わったOutlogicの杉本さんに献本していただいたので、遅ればせながら読書メモを公開しておきます。
ある分野において、非常に影響力の強い企業がいると、その企業が業界の利益を独占しているというように表現されるのは良くある話です。
この本においては、マイクロソフトやイーベイ、最近ではGoogleなんかが典型例でしょうか。
ただ、この本ではこれらの企業は必ずしも一社で業界の利益を独占しているわけでなく、他の企業と共存するエコシステムを構築しているからこそ、強い影響力をもっているという面が明らかにされています。
実際、マイクロソフトやイーベイが多額の利益を上げている横で、それに関連したビジネスで収益を上げている企業は星の数ほどいるわけで、彼らの利益まで独占しようとするかどうかが、単なる支配者なのか、キーストーン企業となれるのかというポイントになるということのようです。
そういう意味でも非常に印象深かったのは、「成功への鍵は、自分たちの組織よりも大きな人々のコミュニティに対して訴えかけるということ」というくだり。
もちろん、その会社の技術とか人材とかビジネスモデルとかも当然重要なわけですが。
コミュニティにおいてキーストーンたり得る企業になれるかというのは、単純にその企業の内部的な能力よりも、他の企業とのつながりの方にあるというのは意外なようですが、実際の事例を考えると確かにそんな気もしてきます。
特にGoogleのケースで考えてみると、とかく日本のメディアではGoogleがインターネットの全ての冨を独占していくような文脈でとりあげられることが多いように思いますが、実際にはその繁栄の裏にはGoogle Adsense経由で収入を得ている多数の企業や個人がいるわけで。
実際にはGoogleがインターネットやそれを利用している企業や個人全体のために様々な活動をしているからこそ、ビジネスもうまくまわっていると考えるべきなのかもしれません。
エコシステムというキーワードはネット業界でもよく使われるようになって来ていますが、ここまで体系的に分析した本は他にないと思いますので、インターネットでビジネスをするのであれば、読んでおいて損のない本だと思います。
【読書メモ】
■エコシステムにおけるキーストーンの役割
自分たちの社内的な能力に重点を置くよりも、ビジネスネットワークの共同資産を重視
■エンロンとイーベイの違い
・エンロンは情報と市場構造におけるどのような穴でも見つけ出し、自社の優位につながるようにその価値の大半を占有した。
・イーベイは生み出された冨を共有し、巨大で健全な取引市場のエコシステムの成長を管理するための努力を惜しまなかった。
・エンロンは、「ハブの領主」戦略を展開したため、繁栄するエコシステムへと成長しようとするネットワークを消耗させてしまった
・イーベイは、エコシステムのメンバーが依存できるようなプラットフォームをつくりだすツール群を提供することによって、個人や企業などの買い手や売り手が多数参加するエコシステムのキーストーンとして機能している。
■リーダー企業に関する3つの誤解
・「みな対等」と呼ばれる誤解
積極的なキーストーンは、安定性と生産性を高めることができる場所においても、むしろ多様性のほうを促進しようとする。
・「支配者」という誤解
キーストーンは支配者と比較すると、より少ない生物量で、エコシステムに対して何倍もの規模の影響力を及ぼす。
・「抑制者」という誤解
重要な経路における情報価値、知的財産の流れを阻害するものは、キーストーン自らの利益にも反する。
■支配者とは違って、キーストーンはエコシステムを「乗っ取る」ことはしない。
産業の一部のみを占めているが、巨大な影響力と価値を生み出す。
■成功への鍵は、自分たちの組織よりも大きな人々のコミュニティに対して訴えかけるということ
ゲイツとオミディアが起業の頃から開発していたものは、ますます増大する人々と組織のネットワークを結びつけ、彼らに実質的な価値を提供するプラットフォームだったのである。
■ネットワーク環境における競争の三つの基盤
・アーキテクチャ:企業がテクノロジー、製品、組織の間の境界線を引く方法を定義
・統合:組織がこれらの境界線をまたがって協業して能力や技術要素を共有する方法を定義
・市場のマネジメント:組織がこれらの境界線をまたがった取引を行い、ビジネスネットワークを支配する複雑な市場のダイナミクスの中で事業を運営する方法を形成するもの
■シスコの買収プロセスと製品開発における統合能力
・小規模なイノベーション・チームへの権限委譲の文化
・プロジェクトの正当化、コミットメント、リソース配分のための明確な意志決定
・技術統合と製品開発のための明瞭で柔軟なプロセス
・複数の製品出荷の実績をもつ高度な経験を積んだアーキテクトとエンジニアの中核グループ
・技術開発を目的としたパートナーリングに対する積極的でオープンなアプローチ
キーストーン戦略 イノベーションを持続させるビジネス・エコシステム (Harvard Business School Press) | |
マルコ・イアンシティ ロイ・レビーン 杉本 幸太郎
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