2月に「Facebookが、なんでトヨタやドコモと匹敵するような7兆円もの時価総額の評価を受けるのか意味不明という方に。」という記事を書いたんですが、上場日が18日にいよいよ見えてきたと言うことで、同じような取材や質問をされる機会が増えてきたので、再度書いておきます。
まぁ、上場のニュースで盛り上がるのと同時に、さすがにアメリカでもこの価格はバブルだろ、という雰囲気も出てきているらしく、やれ「Facebookのブームは一時的」というアンケート結果が発表されたり、「Facebookユーザーの中にウェブのかわりにモバイルをアクセスする人が増えれば増えるほど、ビジネス状況は悪化する」という発表がされたりと、ネガティブな情報もいろいろ出てきてます。
とはいえ、締め切り直前のこの期に及んでIPO株価範囲を引き上げてきてますから、IPO自体が大人気なのは想像に難くなく。
間違いなく、上場後しばらくはFacebookの株関連の話題が増えることでしょう。
ただ、日本においてはFacebookのアクティブユーザーがようやく1000万人を超えたところ、Web広告研究会のセミナーでもFacebookユーザーの伸びが意外に遅いという議論がされてましたし、意外にLINEが凄い勢いで伸びていて女性のスマホユーザーを持って行ってしまうのでは無いかなんていう議論もあるような状況ですから、日本にいる非Facebookユーザーにとって、2004年に設立されたばかりの会社が、時価総額でいきなりドコモやソニーなどのIT企業はもちろん、ディズニーやマクドナルドのような世界的な一流ブランドを時価総額で抜いてしまう、という背景をイメージするのはかなり難しいですよね。
実際、私のNTT時代の同期が「Facebookみたいな、ランチの写真を共有しなきゃいけないサービス、俺は一生使わない」とか、完全にFacebookの用途を勘違いして全否定のコメントをしていたぐらいですから、Facebookを使ったことの無いメディアの方が混乱されるのも当然と言えば当然でしょう。
まぁ、実際の現在の株価が正当かどうかは誰にも分からないわけですが、論理的に理由をつけようと思った場合のポイントについては、前回の記事を見てもらえればと思いますが。
今回、特に改めて強調しておきたいのは、GoogleやYahooに比べて3倍以上というFacebookの圧倒的なサイト滞在時間。
通過されることが当然の「検索」がメインであるGoogleはまだしも、メディアであるYahoo!にも大差をつけている、というところにFacebookの強さが垣間見えます。
Facebookは、単なるSNSではなく様々な既存サービスを置き換えたり、飲み込もうとしている、という視点で考えてみましょう。
■電子メール
Facebookメッセージが、電子メールを完全に置き換えるか?というとそれは現時点では嘘になりますが、すでにFacebookヘビーユーザーの間では、わざわざメールアドレスの文字列を探してメールを打つよりも、Facebookから名前で検索してメッセージを送った方が楽、という層が一定数現れてきています。
実際問題、私も仕事の依頼や、知り合いからの連絡がFacebookから来るケースが増えていますが、ある意味これは固定電話から携帯電話への移行と似てると言えます。
携帯電話の普及とともに親しい人との連絡は携帯電話に移行し、固定電話はセールスの電話がかかってくる程度になっている人も多いはずです。
電子メールはスパムも大量に届きますが、Facebookは知り合いからだけのメッセージに閉じることができますから、親しい仲間とのコミュニケーションはFacebookに移行してしまってもおかしくないわけです。
■携帯メール
さらにFacebookメッセージが置き換えるのは、PCの電子メールだけではありません。スマートフォンの普及により、Facebookの利用は急速にモバイルに移りつつあります。携帯のSMSやiモードメールのような相手の電話番号やメールアドレスを知って初めてコミュニケーションが開始できるツールを、スマートフォンから相手の名前で検索してメッセージを送ることができるようになるFacebookメッセージやチャット機能が置き換える可能性は低くありません。
実際、インドネシアではBlackberryを通じたFacebookメッセージがコミュニケーションの中心を締めているそうです。(この辺は日本のLINEや韓国のカカオトークのようなスマホ専用チャットサービスとの激しい戦いも予想されるので必ずしもFacebookの独壇場とはいかないかもしれませんが。)
■メーリングリスト
個人的に考えるFacebookのキラーアプリは、実はFacebookグループです。
ウォールに投稿するかどうかは、ツイッター的な情報発信が好きな人かどうかで、180度好き嫌いが分かれますし、Facebookページを目的にFacebookを利用しているという人は実は非常に少ないはず。
ただ、Facebookグループはいわゆるメーリングリストと同様で、仲間や友達とのコミュニケーションがそこで行われるため、そのメンバーと連絡を取りたかったらFacebookグループを見ざるを得ないという非常に強い拘束力を持っています。
Facebookグループは非公開のものが多いため、その投稿数を表から見ることができないので、あまり話題になることがありませんが、実際にはFacebookグループは既存のメーリングリストを置き換えるのに非常に重要な機能を次々に実装しています。
中小企業においてはグループウェアの領域すらFacebookグループで十分というケースは多々出てくるようになるでしょう。
と、ここまで書いた部分だけでも、Facebookの可能性の片鱗としては十分です。
何しろ、インターネットの利用時間に占めるメールの利用時間というのは30%とも40%とも言われます。
従来のメールにおいては、利用者は様々なメールソフトやメールサービスを利用していて、HotmailやYahooメール、Gmailですらたいしたシェアを持っていないと言われていますが、Facebookメッセージを提供しているのはFacebookだけ。
つまりインターネットの利用時間の30~40%を締めるメールのコミュニケーションの一部を、Facebookは根こそぎ持って行ってしまう可能性を持っているわけです。
従来のメール産業は、それ自体はたいして収益を生んでいないのでたいしたことはないと思われるかもしれませんが、郵便、電話、メールなどのコミュニケーション産業の変遷を考えるとそのビジネス的な価値は高く見積もろうと思えば十分見積もれます。
もちろん、Facebookが置き換えはじめているサービスや、これから置き換えることができそうな市場というのは、メールだけではありません。
■ホームページ市場
米国の大企業においてはFacebookページに大量のファンを獲得した結果、自社のホームページのアクセスが4割減などという極端なケースも見られるようです。
Facebookページをホームページを100%置き換えることは無いと思いますが、飲食店や中小企業であれば何もホームページを開設せずともFacebookページだけで十分という判断は十分ありえます。
当然、これまでホームページ制作に投下されていた予算のうちの一部がFacebookページに流れていくわけです。
■インターネット広告市場
当然ホームページの役割の一部がFacebookページに移れば、従来のホームページへの誘導の役割を担っていたバナー広告などのネット広告市場の一部が、Facebook内の広告に役割を奪われていく可能性は十分あります。
というか、すでにFacebook広告からFacebook外への誘導広告も増えているように、Facebookはターゲットを絞って広告を出せるため単純なバナー広告よりも価値を上げる要素は十分に有しています。
サイトの滞在時間の圧倒的な長さを考えれば、滞在時間のシェアの分だけ、インターネット広告市場のシェアを取っていく可能性は当然高いでしょう。
さらに、いいねボタンなど外部サイトへの露出も考えれば、ネット広告市場でGoogleのようにFacebookが君臨する可能性は低くありません。
そもそも、Facebookページに大量にファンを獲得することで、広告による誘導コストを低減することができるという意味での広告の置き換えも始まっています。
■クーポン市場
Facebookチェックインやクーポンが分かりやすい例ですが、Facebookがスマホ中心の利用に推移していると言うことは、スマホを利用したクーポンやポイントカード的な仕組みを、今後ますますFacebookが巻き取っていくという可能性は十分あります。
チラシ的な市場とか、タイムセール的なものだったりとか、位置情報を軸にした広告市場の妄想は広げようと思ったらきりがありません。
■カジュアルゲーム市場
いわゆるソーシャルゲームの領域ですね。
日本ではGREEやモバゲーのようなソーシャルゲーム専用プラットフォームが幅をきかせていますが、米国におけるソーシャルゲームの代表プレイヤーはFacebook上でゲームを展開しているのが主流。
Facebookはそれらのソーシャルゲーム事業者にFacebookポイントを使った課金プラットフォームを提供することで、手数料を得ることができており、GREEやモバゲーの立ち位置も保有しているということはできます。(GREEやモバゲーのような異様な高収益率は達成してませんが)
■スマホのアプリマーケット
現在のFacebookアプリはPCでの利用が前提としたものが中心ですが、今後Facebookアプリもスマホでの利用が前提としたものが増えていくでしょう。
その過程で、Facebookは、iTunes StoreやGoogle Playのようなスマホアプリマーケットとの競争に入っていく可能性は十分あります。
当然、その競争で勝利を収めるのは厳しい戦いでしょうが、アプリケーションによっては、スマホの画面から呼び出すよりもFacebookから利用した方が便利というものは結構ありえます。当然それにより、iTunes Store経由でお金を払うのでは無く、Facebook経由でお金を払って契約するというサービスも増やせる可能性があります。
■ネット課金市場
前のアプリマーケットの延長になりますが、課金プラットフォームも十分ありえるシナリオです。
今でこそ、FacebookアプリはiPhone的な課金での利用を前提としていませんが、ソーシャルゲームで実施しているようなFacebookポイントの課金の仕組みが拡大していくと、Facebookが昔のimodeのような月額課金タイプのサービスのプラットフォームを取ってしまうと言うのは、ありえないシナリオではありません。
さらには、パートナーがアプリで提供するサービスによって、他にも様々な細かい市場をFacebookが拾っていく可能性がありますよね。
まぁ、当然それぞれの市場に専業のプレイヤーがいるわけで、それぞれで勝利を収めるのは簡単ではありませんが、何と言ってもFacebookには長時間滞在してくれる膨大な数のユーザーがいます。
展開によっては、既存のインターネットはオープンな「古い」インターネットで、Facebookはクローズドな「新しい」インターネットという、昔のパソコン通信からインターネットへの転換の逆転現象を起こす可能性すら持っているように見えるわけです。
とはいえ、実際にはそう思えるような状況になると、逆の力を持ったプレイヤーが登場してくるのが世の常で。
私も6年前には「Googleが次に破壊する市場はどこか」という記事を書いていましたが、誰も止めることができないと思っていたGoogleが、Facebookを前に苦労しているのを見たりすると、Facebookも5年後には同じような状況になっている可能性も十分あります。
すでにアメリカ人の一部の間にはFacebookはカッコワルイとか古いとかっていうことをいう人も生まれているみたいですし、マイクロソフト→グーグル→Facebook、という時代の変遷の一部でしかないという達観もできるとは思います。
まぁ、そうは言っても私たちが歴史に残る出来事を目の当たりにしているのは間違いありませんから、Facebook上場という歴史的出来事と、その後に始まるであろう様々な展開を妄想しながら、上場の日を楽しみにしたいと思います。
皆さんは、Facebookはどんな市場を置き換えていくと思いますか?