NewsPicksと東洋経済オンラインの「選択」から考える、メディア企業生き残りのための選択肢

 ここ数ヶ月、スマホニュース系アプリの台頭もあり、メディアの地殻変動の話題でで事欠かないですが、毎日新聞で興味深いメディアキーパーソンのインタビュー連載が展開されてます。
 特に個人的に興味深かったのは、こちらの東洋経済オンラインの新編集長である山田さんのインタビュー記事。 
キーパーソンインタビュー:「ニュース重視」にシフトした東洋経済オンライン、狙いは 山田俊浩さん
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 東洋経済オンラインというと、NewsPicksに転職した佐々木さんが編集長として就任し、4ヶ月で一気に他社をPVで抜き去ってトップになったことで有名です。
なぜ東洋経済オンラインは4カ月でビジネス誌系サイトNo.1になれた?編集長に聞く
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 ただ、今回の山田編集長のインタビューでは「前編集長時代にリニューアルを行い、週刊東洋経済からの転載記事の力によって2013年3月には5301万になったのですが、そこをピークに長期間、停滞していた。」と、いう指摘がされています。
 正直、個人的にも鳴り物入りで佐々木さんという名物編集長が抜けた東洋経済オンラインは、その後停滞しちゃうのかなと勝手に想像してたんですが、実は全く逆で、山田新編集長になってから方針変更してPVもUUも伸ばしてるんですよね。
 その方針の象徴として山田さんが語っているのが「ブログ的な記事はなるべく少なめにして、ジャーナリスティックな記事に大幅にシフトしています。一時期かなり多くなっていた、取材に基づかないブログ的な記事は、あまり入れないようにしている。」
 要は東洋経済オンラインの強みは、会社四季報の取材のために担当企業に張り付いている記者であるということを再確認し、その取材力で勝負する方向に舵を切り直し、PV重視ではないことを社内に宣言し、結果的にPVもUUも佐々木さん時代のピークの数値を安定して超えられるようになった、ということのようですから立派です。
 以前の東洋経済オンラインのPV重視アプローチについては、以前下記のような記事も話題になってましたが、ある意味山田さんのアプローチは下記の記事に対する返答にもなっている気がします。
PV数10倍増でも「東洋経済オンライン」が失敗する、たった1つの理由
 なかなかメディアの方の取材で「前任」との比較をここまで攻撃的に語るインタビュー記事にはお目にかかったことはありませんが、非常に興味深いです。


 一方で「前任」である佐々木さんが新天地のNewsPicksで取っているアプローチも非常に興味深いものがあります。
 NewsPicksはグノシーやスマートニュースと同様、キュレーションメディアと分類されることが多いですが、グノシーやスマートニュースがアルゴリズムや編集者によってキュレーションされているのに対し、NewsPicksはユーザーのピックの集合体でキュレーションされているのが最大の違いで、あとは経済ニュースに特化するという部分で差別化し、当然キュレーションメディアであることに注力していくものだと思っていました。
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 が、先日の発表会で明確にユーザーベースの梅田さんと佐々木さんはNewsPicksはキュレーションメディアではなく、世界一の経済メディアを目指し、自前の編集部を持ってメディア運営をしていくことを宣言しているんですよね。
NewsPicksはキュレーションメディアではない—-独自コンテンツの配信など新戦略を発表
 
 で、実際に始まった連載企画がこれまた気合い入りまくり。
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 今日なんかKDDIによるnanapi買収のニュースの話題が収まらないうちに、けんすうさんのインタビュー記事上げてますからね。
 早すぎます。
 NewsPicksをキュレーションメディアとして運営するなら、本来は各メディア企業に対して中立である方が良く、スマートニュースにハフィントンポストの初代編集長だった松浦さんが転職したけど、すぐに「オリジナルコンテンツを作ることは考えていない」とまわりの詮索を否定しているように、メディアパートナーの記事の重要性を強調することが大事なはずです。
日本からグローバル挑戦 スマートニュースに移籍した松浦茂樹さん
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 それがNewsPicksは、既存メディアの記事だけでは物足りないから、自分達で作る、と明確に既存メディアに対してある意味宣戦布告をしているわけです。
 上述のけんすうさんのインタビューにしても盛り上がるのが分かっているからこそ、速攻で動いたんでしょうし。
 昨日のバイラルメディアについてのブログにも書きましたが、NewsPicksの方がある意味自称バイラルメディアの人たちよりも、はるかにバイラルメディア的なポイントを抑えて運営しているメディアの一つになりつつあるように感じます。
 やはり自らNewsPicksユーザーというコミュニティの反応を赤裸々に見えるデータを直接持っているのは大きいですよね。
 もちろん、既存メディアからしても、宣戦布告をされたとしても一方でNewsPicksが自分達のサイトに良質なトラフィックをもたらしてくれるキュレーションメディアの一つである事実は変わりませんし、スマートニュースのように記事の全文コピーを利用されているわけでもなく、NewsPicksによる記事のピックを拒否する理由もないでしょうから、なかなか興味深い選択と言えると思います。
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 実際にNewsPicksの1ピックは500imp以上の効果があるなんてデータもあるようですから、これをちょっと一部取材の現場でライバルになったからといって拒否するメディアは少ないですよね。
 ちなみに、このあたりのオリジナルコンテンツへのこだわりの背景は、先日の記者会見でも説明がありましたし、佐々木さんのインタビューにも垣間見えていますが、質の高いメディアの維持、そしてそこからの課金へのこだわりがこの選択につながっているように感じます。
ウェブ時代のジャーナリズムを再定義する 佐々木紀彦さん
・メディアの収入をネットの広告だけに依存すると現状はPV至上主義にならざるを得ない
 ↓
・PV至上主義ではない質の高いメディアを維持するためには、課金モデルが必須
 ↓
・そのためにはキュレーションとコミュニティだけでなくオリジナルコンテンツやイベントなど複合的な取り組みが必須
 という判断なのかな、と想像してます。
 
 当然オリジナルコンテンツを維持するだけの収益が得られなければ、破綻するわけですが、そこはユーザーベースはSPEEDAもありますし、広告モデルもスポンサー形式にチャレンジしたりと複数の模索をされているようですから、相乗効果で収益をあげるというシナリオもあることでしょう。
 前職の東洋経済オンラインではビジネスモデル上難しかった佐々木さんが描く理想のメディア運営が、NewsPicksではできると判断して転職したということだと思いますし、山田さんの「前任」に対する問題提起自体に、佐々木さん自らがNewsPicksで新しいアプローチを通じて模索している印象も受けるのが興味深いです。
 で、前半の話に戻ると、じゃあ東洋経済オンラインがお先真っ暗かというと全くそんなことはなく、自社の強みに集中することで少なくともオンラインメディアとしての存在感を増すことには成功してるんですよね。
 もちろん、山田さんのインタビューを見る限り、では東洋経済の既存の記者を維持するだけの収益を今後東洋経済オンラインで作っていけるのか?という疑問には答えられていませんし、そこはNewsPicksのビジネスモデルについても同様。
 実際、佐々木さんが明らかに成功事例として意識していた日経新聞電子版ですら、日経新聞全体を支えるほどの規模にはまだなれていませんから、この既存のメディアの収益の減少をオンライン側で支えられるのかという問題提起に今すぐ答えられる人はいないんだと思いますが。
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 東洋経済オンラインにしてもNewsPicksにしても、その片鱗の可能性を感じさせる成功は実現しているわけで。
 アメリカでも、ワシントンポストがベゾスの資金のバックアップで復活したなんていうニュースがあるようです。
ベゾス買収から1年、ワシントンポストの華麗な復活
 経済メディアといっても、自社の強みやビジネスモデル次第で、何が正解でどうすれば成功するのかという選択肢は、実は複数あるんだな、という当たり前の話をあらためて両者のインタビューから確認させて頂き、やっぱりメディアの未来の議論の妄想は面白いなぁと痛感している今日この頃です。