P2P ソリューション:インスタントメッセージングソフト「3°」――その2

(前回のコラムの続き)


■音楽ファイルを合法的に共有できる手段

一般的な P2P 型の不正ファイル交換ソフトは、音楽ファイル自体を他人の PC にコピーしているため、著作権保護の考え方に明らかに反しています。

しかし、 ThreeDegrees においては、グループメンバー間で共同鑑賞をする間だけ音楽ファイルを共有するという方法で、著作権問題を回避しています。接続が切断されれば共有していた音楽ファイルが自動的に消えるなど、開発メンバーが著作権問題に苦心した様子が伺えます。

そういう意味で、このサービスが発表された当初は、音楽ファイルを合法的に共有する仕組みとして注目をあびました。

ただ、実際に利用者の立場から考えてみると、たしかに共同鑑賞をしている間はその音楽を聴くことができますが、その音楽を実際に入手することはできませんから、合法的な音楽配信サービスとしては制限が強すぎる感じがします。

聴いている最中は、グループメンバーが仲良くその音楽に聴き入らないといけません。誰かが早送りすると全員の PC でも早送りされるため、グループメンバーにわがままな人がいると大変なようです。

もちろん、気に入っている音楽をメンバーに紹介する手段としては優れています。チャットで会話をしながら「この曲どう思う?」とか手軽に紹介できるうえ、聴いた側のメンバーはその曲をそのまま購入することもできます。そういう意味では、ビジネスモデルとしても音楽業界に優しい作りになっているのが伺えます。

■新たな利用者層を獲得できるのか

現在のところ ThreeDegrees の利用者数はそれほど伸びていないと言われています。この手のメッセンジャーソフトの最大の問題点は、使っているソフトが同じでないとコミュニケーションできないところにあります。

さらに、製品ラインアップの位置付けで、すでに世界でかなりのシェアを占めている MSN メッセンジャーとの違いがよく分からない点を考えれば、現状はある意味当然とも言えるでしょう。

実際、ThreeDegrees は2003年2月にβ版が公開されましたが、 1年以上が経過した現在でも、公開されいているバージョンはまだβ版という扱いです。

利用環境も Service Pack 1 にアップグレード済みの Windows XP で、さらに Windows 版 MSNcMessenger バージョン5.0以上と Advanced Networking Pack for Windows XP(KB817778)が必要条件となっていますから、まだまだ利用者に優しい環境とは言えません。

MSN メッセンジャーにも類似のコンシューマ向け付加機能が次々と増えてきていますから、 ThreeDegrees は、最新サービスの実験場としての位置付けと考えたほうがいいかもしれません。実際、ThreeDegrees は MSN メッセンジャーとの併用を前提として設計されています。

ただ、 ThreeDegrees は Microsoft の PtoP コンポーネントのサンプル的商品となっているため、今後の Microsoft の P2P 技術への取り組みの一端を見るという意味では、試す価値のあるソフトウェアだと言えます。

マイクロソフトの想定どおりの未来がやってくるかどうかは分かりませんが、使ったことがない方は一度試してみてはいかがでしょうか。

●ThreeDegrees のサイト:http://www.threedegrees.com/