2004/08/18にjapan.internet.comに掲載されたコラムです。
(前回のコラムの続き)
■P2P 技術による大容量コンテンツ配信の可能性
前回の Kontiki と同様、 BitTorrent においてもすでにビジネス目的での利用事例が複数出てきています。
企業の視点からすると、大容量のファイルの配信というのは実は大きなコストであり、単純にそのコストを削減する手段として P2P 配信が魅力的だから、というのが非常に分かりやすい理由でしょう。
例えば米国の Lindows のようなケースが特徴的です。
Lindows が配付したいコンテンツである LindowsOS は 500MB のサイズがあります。それまでの自社のサーバー型の設備では、同時に120人程度の同時アクセスしか許容できなかったそうです。
それが BitTorrent を配信インフラとして利用することで、同時に1000人に配布できるようになりました。これは単純に配信コストの低減になるため、 Lindows では通常50ドル弱の LindowsOS を、 BitTorrent 利用者なら25ドルの半額で購入できるようにしています。
その他にも同様の視点から、米国のゲーム会社である Blizzard が Blizzard Downloader という名前で、 BitTorrent の配信インフラを使ったソフト配信システムをテストしています。
人気ゲームソフトは、公開と同時にアクセスが集中するという特徴を持っており、最近のファイルサイズの巨大化も影響して、ファイル配信の負荷には各社頭を悩ませているようで、 BitTorrent に期待するところも大きいようです。
■BitTorrent は表舞台で成功することができるか
前半にも書いたように、BitTorrent は匿名機能を備えていません。開発者の Bram Cohen も、 BitTorrent は著作権のあるファイルを身分を明かさずに交換するには適さない、と発言しています。
ただ、結果的に現在のところは、上記の企業目的での利用以外にも、著作権のあるコンテンツを不正に配付する手段としても利用されてしまっている、という現実もあるようです。
Lindows や Blizzard などの企業利用での成功事例にも関わらず、 BitTorrent がアンダーグラウンドというイメージを払拭できずにいるのは、このような不正利用の問題や、開発があくまで個人ベースということも影響しているのかもしれません。
そういう意味では、 P2P ベースの大容量コンテンツ配信の仕組み自体がビジネスとして展開できるようになるには、まだ 課題が山積しているともいえます。(BitTorrent の Web サイトに行くと、開発者が PayPal で寄付をつのったり、 BitTorrent のロゴが入ったTシャツを販売して開発費を得ようとしているのを伺うことができます)。
ただ、著作権のない大容量コンテンツを低コストで配信できる手法として、今後このような P2P 型配信の利用が増えるのは間違いないと考えられます。