ロングテール論とマスメディア存亡論の関係

CNET Japan Blog – 渡辺聡・情報化社会の航海図:Long Tailとインターネットビジネスの基本則を読んで。

 一時期話題になっていたLongTail(ロングテール)論ですが、最近また改めて深い議論が進んでいるようですね。

 LongTail論についての詳細は、上記の渡辺さんの記事や、HPOのひできさんが「ロングテイルの指数 long tail and power low」という記事や、デジモノに埋もれる日々の記事で詳細にまとめておられるので、そこを参考にしていただくとして。
 個人的に最近非常に興味があるのは、このLongTail論とマスメディアやブログの関係です。

 これまでの既存のマスメディアに対して、ブログなどの個人メディアがニッチであるLongTailにあたると考えれば良いでしょうか。
 マスメディアは当然マスに対する情報発信を対象としているので、一般的に興味をひきにくいニッチなテーマまでカバーできませんが、個人メディアは自分の興味のあるテーマを対象にするわけで、それこそ書き手の数だけコンテンツの種類が存在しえます。

 結果、これまで既存メディアでは難しかったニッチな話題も、ネット上を探せば結構深いレベルのものを見つけることができるようになっているわけです。

 ただ、梅田さんが「ロングテール論について」にも書かれているようにLongTail論は、LongTailであるニッチがマスを越えるほど大きな市場になると言う議論ではなく、これまでターゲットにできなかった市場がネットという、限りなく配信コストがゼロに近いインフラを手に入れたことで出現したというのが基本的な考えのはずです。

 HPOにおいてもべき乗法則の観点から、LongTailがいくら伸びてもやはりマスの市場が全体の中心になる事実は変わらないのでは?という趣旨の分析がされています。

 つまり、別にLongTailが出現したからと言って、個人メディアがマスメディアを取って食うと言う議論には直接つながらないはずなのです。
 個人的にはLongTailとメディアの関係は、利用者にとってはより幅広い情報が入手しやすくなったという程度の話で、Googleやアフィリエイト事業者などのニッチの集積をビジネスにできる事業者にとってのビジネスチャンスという程度の話かなぁと理解していました。

 ただ、LongTailの先にある未来に対して、メディア業界でも先端にいる人の危機意識は非常に強いものがあります。
 先日のGlocomのカンファレンスでも、思い切ってマスメディアの優位性は確実にあるのでは?という疑問をぶつけてみましたが、そのときガ島通信さんにきっぱりと答えてもらった返事が、既存のメディアの優位性は紙や電波と言う媒体配布手段とそのリーチにしかないと言う視点。

 R30::マーケティング社会時評では、その点を更にローエンド破壊的イノベーションとひもづけて解説されています。
 
 この辺りを読んで、ようやく自分にもメディアの方々の危機意識の源泉が理解できてきたような気がしています。

 これまで情報発信というのは、既存のメディア事業者の既得権益に近いものがあったため、多くの人が情報は受け取るものと思っていたはずです。
 情報発信自体を行うためには、メディアと言う限られた権限をもった産業に入るか、企業なり大学なりで実績を積んで認められて発言権を与えられるしかありませんでした。
 もちろん、自分で雑誌や新聞を発行する手もありますが、ある程度の資金や流通ルートがが無ければ実現できず、非常に参入障壁が高い事業だったと言えるでしょう。

 それが、ネット上の掲示板やブログという手軽な情報発信の手段に触れた人たちは、その思い込みから徐々に開放されつつあります。
 ネットのツールを使えば自分で簡単に個人メディアを作れてしまうわけで、情報発信がプロだけの仕事ではないことに気づいてしまうわけですね。

 そうなると、情報発信という行為が、工場のラインのような設備や資格が必要な事業ではないだけに、いつのまにか圧倒的に参入障壁が低い事業になってしまっていたということに逆転してしまう可能性があるわけで。

 もし、個人メディアの集積でマスメディアと同程度の内容の情報を手軽に得られるのであれば、イノベーションである個人メディアがマスメディアをのみこんでしまう、というシナリオが、たしかに現実味を帯びてきますね。

 そういう意味では、LongTailというものの存在自体が脅威なんではなく、LongTailが破壊的イノベーションの広い温床になってしまうのが問題だというべきなのでしょうか。

 ただ、そうはいっても素人の私にとっては、本当にそれだけ個人メディアが信頼される時代が来るのか?というのには一抹の疑問が残ります。

 趣味で無料で情報発信ができる個人の集合体の方が結果的に質が高い内容が多いと言う議論もありますが、その辺りを読む側はどう消化するかと言う問題もありますし、現状まとまった広告収入を得ることができているマスメディアの方が質の高い情報発信を維持しやすいはずです。

 たしかに米国では大手メディアのネットメディア買収の流れが出てきていますが、日本ではライブドアのニッポン放送買収が話題になる程度で、実際のネットとメディアの融合の姿が見えてきていないのも事実だと思います。

 鉄道が主流の時代が、自動車の登場によって役割分担になったのと同じように、マスメディアのみの時代から、役割分担の時代になると考えるのが正しいのかなぁと思いますが・・・はたしてどうなるのでしょうか?

“ロングテール論とマスメディア存亡論の関係” への7件のフィードバック

  1. はじめまして。私は某地方新聞社で企画関係の仕事をやっています。今回のロングテールとメディアに関する考察、大変興味深いものでした。遅ればせながら私もエントリーを書いてみたのですが、徳力さんのエントリーから文章を一部引用させていただきました。TBもさせていただきましたのでご報告をかねてコメントを残します。
    これからもエントリー楽しみに読ませていただきます。

  2. そうですねぇ。現状では、メディアの閲覧数という意味ではそういうイメージのような気がしています。

    今後どうなっていくのかは良く分からないところですが・・・

  3. The Long Tail

    今注目している考え方。 「Web2.0」がもたらす世界が、だんだんと見えてきたような気がする。 Gutenbergの発明した活版印刷術とそれがもたらした社会的インパクトと同じことが おきようとしている…

  4. The Long Tail (ロングテイル)

    インターネットビジネスをお考えの方は、
    The Long Tail(ロングテイル)という言葉を聞いたことがあると思います。
    昨年から米国で話題になった概念なのですが、
    インターネットの台頭により
    パレードの法則「2:8の法則」が通じなくなり、
    新しい消費の形態

  5. 長いしっぽと情報発信

    最近、あちこちでLongTailという言葉にお目にかかります。同時に恐竜の長い尻尾のようなグラフを目にします(この辺を参照)。LongTailはネット時代のマーケティングの象徴的事象として、多くのマーケターが注目しているようです。LongTailの登場でニッチ市場の底上げが

  6. ロングテール論とマスメディア存亡論の関係

    ロングテール論とマスメディア存亡論の関係
    スケールフリーの発想からすると、ある系の適応力があるものがどんどんハブ化していくとある。今の大手マスメディアはその時代(のその系)での適応力が強かったということだろう。
    ビット化することにより、伝播するスピー

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