ブログとジャーナリズム、メディアビジネスの微妙な関係

市民ジャーナリズムの普及で起こるメディア革新–ダン・ギルモア氏 – CNET Japanを読んで。

 先日来日したダン・ギルモア氏のインタビュー記事がCNETにアップされましたね。

 ダン・ギルモア氏は、草の根ジャーナリズムの第一人者で、FPNのような読者投稿型ニュースサイトを運営している立場としては、非常に注目している人物の一人です。

 ただ、個人的にずっと引っかかっているのは、ブログ側の人とメディア側の人の、ブログとジャーナリズム論的なものに対する意識の違いの大きさ。

 個人的な印象としては、メディア業界のブログを中心としたCGMに対する危機意識の高さに比べ、一般的に一人ひとりのブロガーは、ジャーナリズムやメディアビジネス的なものに対して、それほど興味が無いのが普通だと思います。

 実際、自分としてもブログを日々書いている中、「ジャーナリズムたるには、中立性とか不偏不党がうんぬんかんぬん」とやられてしまうと、あまりに恐れ多いし、なんか話がややこしくなって、ブログを書く手も止まってしまうという感じがあります。

 そもそも「ジャーナリズム」ってどういう意味なんだろう?と思って、gooの国語辞典でジャーナリズムをひいてみると、

ジャーナリズム [journalism]
新聞・雑誌・テレビ・ラジオなど時事的な問題の報道・解説を行う組織や人の総体。また、それを通じて行われる活動。

 と書いてあります。うーん、やっぱりどうもこう定義されると、普通のブログがジャーナリズムな感じはありません。

 じゃあ、アメリカのjournalismが違うのか?と思ってwikipediaをひいてみたところ

Journalism is a discipline of collecting, verifying, analyzing and presenting information gathered regarding current events, including trends, issues and people. Those who practice journalism are known as journalists.

 と書いてあります。
 disciplineとか書かれると、やっぱりなんだか難しそうです。

 そんな中、先日のダン・ギルモア氏のイベントで、印象的だったのは、Jun Seita’s Webにも書かれているギルモア氏のジャーナリズムの定義

 ギルモア氏曰く
 「あなたの提供した情報に、誰か(1人以上)が有益だったと感謝したとき、そこにJournalismが成立する。」

 CNETのインタビュー記事でも、ハリケーンカトリーナやロンドンのテロ事件における一般市民の写真などを例に挙げて「撮影した人が実際に何の仕事をしているかわかりませんが、その人はその写真を撮った瞬間、まさにジャーナリストでした。」と市民ジャーナリズムの定義をしています。
 なるほど、確かにこういう定義であれば多くのブログはジャーナリズムに当たるのかもしれません。  
  

 そんなことを考えながら改めて、メディア側の人の危機意識の根の深さが分かってきた気がします。

 メディア側の人とブログを書いている人の意識がずれているのは、ある意味当たり前ですよね。
 結局のところ、ブログを書いたり携帯電話のカメラで写真をアップしたりする一人ひとりは、それほどジャーナリズム的なものを意識して活動しているわけではなく、ジャーナリストとしての収入を欲しているわけでもありません。
 一般的に、ブログを書いている人はあくまで趣味の延長で、ジャーナリズムやメディアビジネスを日々意識する必要は無いわけです。

 ただ、この個人個人の生成した情報を集団として捉えると、メディア側にとっては見える世界が確かに変わります。

 シンプルに、この個人の集団を自分達のビジネスを脅かす新たなライバルとして捉えると、自分達のビジネスの収益のもとを、趣味で無料でやってしまう人たちとの競争という軸の思考回路になりますから、それはやっぱり大変です。
 

 やっぱり、ここは思考回路を切り替えるべきでしょう。

 ギルモア氏が言うように、「ユーザーが作り出すコンテンツがプロの作るジャーナリズムに取って代わるというより、両者は補完関係にある」という思考回路に立てば、逆にメディアビジネスのパラダイムが変わろうとしている今こそ、新しいビジネスチャンスだということが言えると思います。

 結局のところ、ブログを書いている個人個人が集団としてのジャーナリズムを意識しない限り、既存のマスメディアの役割をこの個人の集団が本質的に置き換えることは無いでしょう。
 マスメディア的なものの必要性というのは今後も存在するはずです。
 
 米国ではメディア産業がネット企業を買収したり、先日はAOLがブログ発行会社のWeblogs,Incを2500万ドルで買収なんてニュースもありましたし、多分メディアが挑戦できることって、もっといろいろあるんだろうと改めて感じる今日この頃です。

“ブログとジャーナリズム、メディアビジネスの微妙な関係” への2件のフィードバック

  1. [Phrase]公共性・中立性は参入障壁ではない

    実際、自分としてもブログを日々書いている中、「ジャーナリズムたるには、中立性とか不偏不党がうんぬんかんぬん」とやられてしまうと、あまりに恐れ多いし、なんか話がややこしくなって、ブログを書く手も止まってしまうという感じがあります。 http://blog.tokurik

  2. ブログとジャーナリズム、メディアビジネスの微妙な関係

    市民ジャーナリズムの普及で起こるメディア革新–ダン・ギルモア氏 – CNET Japanを読んで。  先日来日したダン・ギルモア氏のインタビュー記事がCNETにアップされましたね。  ダン・ギルモア氏は、草の根ジャーナリズムの第一人者で、FPNのような読者投稿型ニ..

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