P2P で何が変わるのか?

前回のコラムでは、P2P の定義について簡単に説明しました。

今回は、「では一体 P2P でこれまでの IT 社会と何が変わるのか?」ということを考えてみましょう。


前回も説明したように、パソコンとパソコンが直接通信をすること自体は、ある意味当たり前のことです。

ただ現在では、常時接続のブロードバンド回線の普及やパソコンの高性能化により、一昔前とは全く違う次元で P2P が実現されるようになってきています。

具体的に P2P ならではの特徴を生かして、実際にビジネスとしての検討が進んでいる P2P アプリケーションには、下記のような分野があげられます。

◇インスタントメッセージング
 利用者間でのリアルタイムなメッセージのやり取りを可能にします。

◇ファイル共有・ファイル交換
 複数の利用者の間でファイルを共有・交換することを可能にします。

◇分散検索エンジン
 企業やインターネット内に分散している情報の効率的な検索を可能にします。

◇グリッドコンピューティング
 複数のコンピュータの処理能力を共有し、強力なコンピュータ処理を可能にします。

◇コラボレーション
 複数の利用者の共同作業を支援し、効率的な共同作業を可能にします。

各アプリケーションの詳細は次回以降に説明しますが、単純にまとめると、これらのアプリケーションの P2P ならではのメリットは、大きく分けて3つあげられます。

■コストを大幅に削減できる

まず、最も簡単な話としてコストの話があります。

P2P においては、仲介となるサーバーが不要になるわけですから、当然クライアントサーバーのシステムで存在していたサーバーの分のコストが大幅に低減できます。

例えば、音楽ファイル共有で有名になったナップスターのシステムの例があげられます。

ナップスターは1年足らずで5000万人ものユーザーを集めました。

5000万人の利用者がいる音楽ファイル共有システムを、クライアントサーバー型のシステムで構築するには膨大な費用がかかりますが、このナップスターを立ち上げたのは大学生です。

P2P の仕組みを活用することで、これまでのシステムとは比較にならない低いコストでシステムが構築できてしまったわけです。

■サーバーボトルネックが解消される

サーバーボトルネックもシステムの世界では大きな課題です。

クライアントサーバー型のモデルでは、常にパソコンはサーバーに対して接続し、クライアント同士の作業でもサーバーを経由することになります。

つまり、パソコンがどれだけ高性能になろうとサーバーがそれに対応しなければ状況は何も変わらないのです。

単純な例でいうと、Web サイトがあります。

Web サイトを見るという動作は、あなたのパソコンだけで行えるのではありません。見ているサイトの Web サーバーに接続しているわけです。

つまり、同時に Web サイトにアクセスする人が多いと、 Web サーバーの回線速度や処理が追いつかず表示が遅いという事態になります。

例えば100人の人が同時に1メガの速度でアクセスしたければ、サーバー側には100メガの回線が必要になり、それに対応する巨大なサーバーが必要になります。

NTT ドコモの i-mode が大ブレイクした時、頻繁に i-mode のサーバーが落ちていたのは有名な話ですね。

このような問題もP2P型のシステムであれば、大きく解消することができます。

■よりリアルタイムな情報伝達ができる

サーバーという仲介者がいなくなることによって、パソコン同士が直接やりとりができるようになります。

前回のコラムで書いたように、電子メールは現実の世界で言う郵便です。

電子メールは相手のパソコンから直接届いているように見えますが、実はサーバーに届いているのを、定期的にあなたのパソコンが見に行っているだけです。

そのため、電話をしながら電子メールを送ったりすると、話している最中にはなかなか届かないという現象が起こったりします。

これはサーバーという仲介者がいる以上、ある程度は仕方がないことですが、 P2P 型の処理であれば、パソコン同士が通信をしているわけですから、メッセージを瞬時に相手のパソコンに届けるということが可能になるわけです。

一般的な特徴だけでは分かりづらいと思いますので、次回以降のコラムでは各アプリケーションの具体的な事例をもとに、 P2P アプリケーションの特徴を紹介したいと思います。