2004/9/8にjapan.internet.comに掲載されたコラムです。
前回までは Kontiki、 BitTorrent と、 P2P 技術を活用してコンテンツを配信する仕組みを紹介しました。
ただ、この2つのサービスは、いわゆる「著作権」の問題を回避できてはいません。
前回のコラムで、 BitTorrent が「著作権のないものをターゲット」としていると書いたため、「著作権のないコンテンツはないのでは?」というご意見をいただきました。
正確には「著作権を元に収益をあげようとしていないコンテンツ」と表現すべきものでした。
そういう意味でも、 P2P 技術がその負荷分散性を生かして動画や大容量コンテンツ配信の分野で活躍するためには、著作権の保護は必須の機能になります。
今回紹介するのは、 P2P ネットワークのような分散環境においても著作権を保護できる技術として注目されている「NetLeader」です。
■NetLeader の概要
NetLeader は Microsoft のWindows DRM をベースに、 NTT コミュニケーションズの先端 IP アーキテクチャセンターによって開発された、著作権保護の仕組みです。 P2P ファイル交換ソフトによる違法コピーが話題になる中で、その P2P ファイル交換ソフトの普及を逆手に取った仕組みとして注目を浴びました。
それまでの動画コンテンツの著作権保護の仕組みの常識は、動画コンテンツの配信を「ストリーミング配信」だけに限るというものでした。ストリーミング配信では、映像をサーバーから利用者のパソコンに向けて少しずつ流すため、ファイル単位で手軽にコピーできないと考えられていたためです。
ただ、現実的には、ストリーミング配信でもキャプチャを行うソフトウェアが普及したことで簡単にコピーができるようになった上、ビデオや DVD 自体をコピーしたコンテンツが P2P ファイル交換ソフトのネットワーク上に出回るようになってしまったため、根本的な対策が必要と考えられています。
そこで NTT コミュニケーションズが考え出したのが、 P2P ファイル交換ソフトの中に著作権を保護した状態でコンテンツを流出させ、「合法な」ファイル交換手段として使ってもらうことで、プロモーションに役立ててしまおうという仕組みです。
その特徴を見てみましょう。
■NetLeader の特徴
NetLeader の細かいセキュリティの仕組みはここでは紹介しませんが、 NetLeader を利用することで、コンテンツ事業者はダウンロード配信するコンテンツに、利用回数や広告表示義務などの利用制限をつけることができるようになります。
通常のストリーミングによる動画コンテンツと異なり、ダウンロード配信と NetLeader を使うことで、コンテンツの配信事業者は3つのメリットを享受することができます。
1.高品質な動画の低コスト配信
ストリーミング配信においては、利用者のアクセスのピーク時を計算した非常にシビアなシステム構築が必要になります。例えば同時に50人しか接続できない設備に100人の利用者がアクセスしてくると、回線の混雑により画像が乱れたりアクセスできなくなったりしてしまうからです。
これがダウンロード配信であれば、高品質な動画であってもダウンロードに時間がかかるだけで、ダウンロードした人は何度でも動画を視聴することができるようになります。
コンテンツの配信事業者は、高品質と低コストの両立を実現することができるようになるわけです。
2.強固な著作権保護が可能
ただ、せっかく高品質な動画を配信しても、配信されたファイルを利用者が不正にコピーできてしまうようでは、結局ビジネスになりません。
そこで、NetLeader はコンテンツを暗号化して配信し、利用する際に利用権限を確認する仕組みを設けています。コンテンツの配信事業者はコンテンツに対して利用回数や期限、広告表示義務などをつけることができ、不正利用を回避できるようになっています。
3.バイラルマーケティングが可能に
もちろん、著作権を保護できる仕組み自体は NetLeader 以外にも存在します。 NetLeader が最も特徴的なのは、 P2P ファイル交換のような、人から人へ経由していくことを前提に作られている点です。
NetLeader のファイルをダウンロードすると、ダウンロードされたコンテンツには IP アドレスなどの情報が自動的に埋め込まれるようになっているのです。
そのため、コンテンツ流通状況の追跡と検出が可能になっており、コンテンツを人から人にウィルスのように広げる「バイラルマーケティング」の実施、効果確認ができるようになっているのです。
(次回に続く)