民主化するイノベーションの時代 (エリック・フォン・ヒッペル)

4903241076 昨年末に読んだのですが、なかなか興味深い本です。
 クリステンセンのイノベーションのジレンマでは、「顧客の要求に細心の注意を払う会社ほど、急進的で破壊的なイノベーションを見逃しやすい」というテーマが上げられていましたが、それではどういったところからイノベーションを見つければいいのか?というのが疑問としてあげられます。
 それをこの書籍では「リードユーザー」という先端顧客を定義することで、ユーザーが自ら起こすイノベーションに注目するように促しています。
 確かにソフトウェア業界なんかの最近の動向を見ていると、こういった先端ユーザーのアイデアやパワーをいかに活かしていくかというのは非常に重要なポイントですね。
 メーカーと顧客という分類だけでは収まりきらなくなってきているという指摘は確かに痛感します。
 では、真に「破壊的なイノベーション」も本当にリードユーザーから生まれてくるのかと言われると、個人的にはちょっと腹におちきっていない感じもするのですが。 
 一つの視点として、重要な点を指摘してくれる書籍だと思います。


【読書メモ】
■リードユーザー理論
・リード・ユーザーは重要な市場の最先端に位置している。したがって現在リード・ユーザーが経験しているニーズは、後になってから市場にいる多くのユーザーが経験することになる。
・自分のニーズに対する解決策を獲得することにより比較的高い効用を得ることが期待できるため、その多くがイノベーションを起こす。
■イノベーションに対するユーザーとメーカーのとらえ方の違い
・望ましい解決策とはそもそも何なのかに関して、ユーザーとメーカー間に存在する見解の相違
・ユーザー側のイノベーターとメーカー側のイノベーターとの間に発生するイノベーションの品質表示に関する要求度の違い
・ユーザー側、メーカー側それぞれのイノベーターに課せられる法的要件の差
■イノベーションによって提供される改良のタイプ
・新しい機能的性能向上 ユーザー82% メーカー18%
・感度・解像度・あるいは精度の改良 ユーザー48% メーカー52%
・使い勝手や信頼性の向上 ユーザー13% メーカー87%
■「プライベート/コレクティブ」イノベーション・モデル
・個人的な資金で開発されたイノベーションを無料公開することは、イノベーターにとっては個人的な利益の喪失を意味するものであるため、それが自発的になされるはずはない、というプライベート・インベストメント・モデルで置いた前提を排除すること。
 ある共通条件のもとであれば、イノベーターの個人的利益を減らさず、むしろ増やす可能性がある。
・「フリーライダー」は、貢献者が得る完成した公共財と同等のものを獲得するだろう、というコレクティブ・アクション・モデルで置いた前提を排除すること。
 公共財への貢献者の方がフリーライダーよりも本質的に大きな個人的利益を得られると考える。
■ソフトウェアの開発について(Raymond 1999)
「ソフトウェアに関する優れた仕事は、おしなべて開発者が自らかゆいと感じる部分をかき始めることから始まる」
「ソフトウェア開発者は、お金のために、あまりにも多くの日々を自分が必要でもなければ好きでもないプログラムの開発に費やしている。しかし、オープンソース・ソフトウェアの世界ではそうではない」
■オープンソース・コミュニティについて(クリス・ハンソン Debianメンテナー)
「プログラミングには理解できるものでなければ楽しむことができない性格があるため、創造的なプログラマーは互いに群れたがるようになる。つまり、仲間だけが仕事の本当の部分を理解できるからだ。その背景にあるのは、他人に自分の才能を示して尊敬を得ようと思う気持ちであることは間違いないが、さらに、人は自分が見つけた美しいものを皆で分かち合いたいと考える点も重要だ。この共有がコミュニティを形成し、友情を育むもう一つの大切な行為なのである。」
■ピラミッディング
 イノベーターからより先進的なイノベーターへのネットワーク。
 ある特定の話題や分野に強い関心を抱く人々は、その分野について調査している研究者を、自分よりも専門性の高い人々へ導くことができるはずと想定する。
■イノベーションのジレンマとの整合性
 「顧客の要求に細心の注意を払う会社ほど、急進的で破壊的なイノベーションを見逃しやすい」という説との整合性は?
 →「リードユーザーによる」イノベーションと「顧客による」イノベーションは違う
 「リード・ユーザーの独立性の高さこそが、メーカーが顧客リストのほかにリード・ユーザー・イノベーションを探さなければならない理由である」
■コモンズに立脚した情報コミュニティの発生要件
 ・一般には知られていない情報を持った人々がいる
 ・自分が知っていることを無料公開しても良いと考える人々がいる
 ・情報公開者の手から離れて、公開された情報を利用する人々がいる。
■効果的な知識管理のための政策と実践は、知識共有の方向に向かうべき
「産業革命以降の経済では、生産者と消費者、供給と需要という用語を明確に分けて使うのが通例であった。しかし、オープンソースのプロセスでは、こうしたカテゴリーをごちゃまぜにしてしまう。オープンソース・ソフトウェアのユーザーは、従来の意味での消費者ではない・・・ユーザーは深い意味で製造プロセスそのものに融合されている」
(Weber2004)
【目次】
日本語版によせて
 神戸大学大学院経営学研究科 教授 小川進
第1章 本書の出発点と概要
第2章 リード・ユーザーによる製品開発
多くのユーザーはイノベーションを起こしている
リード・ユーザー理論
リード・ユーザーによるイノベーションの証拠
第3章 多くのユーザーがカスタム製品を望む理由
ユーザー・ニーズの多様性
第4章 自分で作るか購入するか
イノベーションに対するユーザーとメーカーの捉え方の違い
ソリューションに関する選り好み
ユーザーの期待
法や規制に関する差異
最終的な落とし所
ケーススタディ
ユーザーによる「自分で作るか購入するか」の意思決定のモデル化
イノベーション・プロセスから得られるもの
第5章 ユーザーによる低コスト・イノベーションのニッチ市場
問題解決プロセス
粘着性の高い情報
情報の非対称性はユーザー・イノベーションと
 メーカー・イノベーションの関係にどのような影響を与えるか
低コストのイノベーション・ニッチ
第6章 ユーザーは、なぜイノベーションを「無料公開」するのか
イノベーションの無料公開
 無料公開の実践的事例
 無料公開と再利用
 理論への意味合い
第7章 イノベーション・コミュニティ
 幅広く分散化するユーザー・イノベーション
 イノベーション・コミュニティ
 イノベーション・コミュニティによる有形製品の開発
 ユーザー同士の支援
第8章 ユーザー・イノベーションへの適合政策
 ユーザー・イノベーションの社会福祉への影響
 公共政策の選択
第9章 民主化するイノベーション
 民主化への道
 ユーザー中心のイノベーションへの否応なき適合
 ユーザー主体のイノベーションでメーカーが果たす役割
第10章 適用例:リード・ユーザー・イノベーションを追え!
 リード・ユーザーの探索
 3Mでの実験
第11章 適用例:ユーザー・イノベーションと
         カスタム設計のためのツールキット
 ツールキットのもたらす恩恵
 開発作業の再分割
 ツールキットの機能性
第12章 ユーザー・イノベーションと他の現象や分野との関連性
 情報コミュニティ
 知識の経済性
 国家の競争優位性
 技術コミュニティの社会学
 製品開発のマネジメント
 最後に

4903241076 民主化するイノベーションの時代
エリック・フォン・ヒッペル サイコム・インターナショナル
ファーストプレス 2005-12-09

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“民主化するイノベーションの時代 (エリック・フォン・ヒッペル)” への1件のフィードバック

  1. 民主化するイノベーション

    民主化するイノベーションの時代
    徳力さんのブログなどでも書かれていますが、やっと読みました。
    先日読んだものづくり革命〜パーソナル・ファブリケ…

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