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ネットの進化の速度は速い方が良いか、遅い方が良いか

Tech Mom from Silicon Valley - Web2.0と対立する2つの世界(その1) Web2.0の世界は広がりうるのか?を読んで。

 先日の梅田さんの出版記念イベント以来、「進化の速度」というキーワードが、ずっと引っ掛かっているのですが、関連して興味深い連載が海部さんのブログで綴られていました。

 梅田さんのイベントで印象に残っているのが、メディア産業の進化の速度が遅いだろうという予測の例として上げていた音楽産業との比較。
 「レコードからCDへの推移が比較的短期間にスムーズに進んだのは、音楽産業に携わっていたミュージシャン、レコード会社など、全員にインセンティブがあったから」で、「今のメディア産業の中心がお金が儲からないネットに移ることは、メディア産業関係者は誰も望んでいない」という指摘は、個人的にも非常に良く分かります。

 冒頭で紹介した、海部さんのブログでもパート2の「Web2.0と対立する2つの世界(2)なぜネット企業がいつまでたっても異端視されるのか?」でも、ネット企業がてひどい扱いを受けやすいのは雇用への波及効果が低いために味方が少ないという分かりやすい指摘がされており、考えさせられる部分です。


 これまでは、新物好きな自分としても、進化の速度は何でも速い方が良いと思っていた節があるのですが、実は、昨年ぐらいからちょっと違うことを感じていました。

 ネット周りの出来事について改めて考えてみると、ブログを中心としたCGM的な話にしても、スカイプやGoogle Talkによる電話サービスの話にしても、Web2.0周りのソフトウェアのサービス化の話にしても、P2Pファイル交換ソフトによる音楽ファイル共有的な話にしても、たいがいのネット上のサービスというのは既存産業と類似のサービスを、格安とか無料とかで提供してしまうような代物なので、既存産業の視点で見ると良いことなんてほとんど無いわけで。
 
 仮に技術的には可能な話であっても、既存企業がこれ以上自ら進化の速度を速めようとしようとするとは思えないのが正直なところです。
 もし、進化の速度が非常に早ければ、単純には多くの人が雇用を失うことになってしまいますから。


 実際、自らもソフトウェア産業の片隅に身をおいているわけですが、この産業がこれからネットの無料サービスの洗礼を本格的に受けることになることを考えると、メディア産業や音楽産業が抱えている問題と本質は変わらないわけで、R30さんが書いているような右脳的、感情的な側面が少ない分、むしろ悪い可能性がある気もしたり。
 そう考えると、進化の速度はちょっと遅い方が良いなぁと思ってしまう自分がいたりします。


 もちろん、現在の既存産業のトップであったり、あと5年10年で引退する人たちは、この進化の大波が来るのを見ない振りをしてやり過ごせる可能性は十分あるでしょう。
 そういう意味では進化の速度は遅いに限るという話かもしれません。

 ただ、残念ながら、私たちの世代はほぼ間違いなく逃げ切れないのが難しいところ。
 今後、遅かれ早かれ変化の波はやってくるわけですから、この変化が何なのかウェブの進化が何をひきおこすのかを真剣に見極めるしかないわけです。


 そう思って、再度既存産業を見つめなおすと、改めて気になるのが既存産業の市場規模の意味。
 これまでの産業は、流通なり設備なりに膨大なコストが発生したために、そこがボトルネックとなってある程度の組織化が必要になり、それが結果的に巨大企業を生み巨大企業に大きな売上高や利益をもたらしていたわけです。

 それがインターネットやチープ革命によって、同様のことが超低コストで実現できるようになった今、果たして現在の市場規模というのはどれほどの意味を持つのでしょうか。
 音楽がCDという物理媒体でしか入手できなかった時代は、CDは流通コストを考えれば1枚3000円というのはある意味妥当だったでしょう。
 それが1曲100円でiTunesMusicStoreで入手できる時代になったら、音楽産業のサイズはどうなるのでしょうか。私たちはこれまでのCDにかけていたのと同じだけのお金を払い、より多くの音楽を入手するようになるのでしょうか?
 
 日々のニュースが新聞という紙媒体経由でしか入手できなかった時代は、新聞の流通コストを考えれば月3000円という価格はある意味妥当。
 それがネット経由で無料で入手できる時代になったら、ニュース産業のサイズはどうなるのでしょうか?

 ソフトウェアがパッケージ経由でしか入手できなかった時代は、一つのソフトウェアが9800円しようが妥当。
 それがネット経由で無料で入手できる時代になったら、ソフトウェア産業のサイズはどうなるのでしょうか?

 そもそも、今の産業規模なんてたいした意味はないんじゃないか?
 デジタル化できるすべての産業に関して、同じような疑問が頭をもたげます。
 

 当然、消費者側の視点で見れば、同じようなものの価格がどんどん下がっていくわけで喜ばしい話。
 ただ、供給者側、しかもその産業に雇用されている人間の視点から考えると、単純にその産業における総雇用人員が減る可能性があるわけで、正直恐ろしくなる所もあります。

 梅田さんも、イベントで「Googleの次は企業ではなくただのソフトウェアかもしれない」という話をしていましたが、案外笑い話ではないかもしれないと思ったりします。
 プログラムの利用者がお互いにお互いに便利になるツールを作成して、お互いに無料で公開して便利になるのであれば、それはそれで便利な世界かもしれないわけで。

 梅田さんが言うところのオープンソースやP2P、渡辺さんがいうところのリードユーザーイノベーションの集合みたいなものが、最終的にネットの中心になっている未来も考えられなくはありません。

 もちろん、今の資本主義の常識や価値観からしたら相当ありえない世界ですが。

 そんなことを考えると、進化の速度が速い方が良いのか遅い方が良いのか自分でも良く分からなくなってきます。


 ただ、イベントの2次会で山口さんとそんな話をしていたら、山口さんはまじめな顔で年収300万時代の可能性を指摘して、「でも、どっちが幸せかは分かりませんよね」と一言。

 そう、改めて考えれば確かにそうです。
 別に給料が少なくなっても、無料に近いコストで必要なものがほとんど手に入る世の中であれば、それはそれで幸せなわけで。
 産業規模が大きいほうが良いとか、会社の従業員数が多いほうが良いとか、そんなもの一つの価値観でしかないんですよね。

 結局、自分がやたらと未来とか変化の速度が心配で仕方がないのは、自分の中で自分の価値観がしっかりできていないからではないか、そんな風に痛感した言葉でした。


 相変わらず、考えがまとまらない日々ですが。

 海部さんが連載の最後で書いているように、時代の先端は常に変化を続けていくわけで、それと自分個人の立ち位置はまた別問題。

 時代の進化の速度が速いとか遅いとかを心配するよりも、ウェブの進化と共に変化を続ける二つの価値観の世界の間で、自分の価値観やポジションをどうするのか、それを自分でしっかりと考え続けないといけないということなのでしょうか。



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