昨年末に、初めてニコニコ学会に参加させて頂いていたのですが、すっかり感想を書きそびれていたところ、次回の第4回ニコニコ学会のお知らせが届いていまったので、今更ながら思い出してメモを書いておこうと思います。
第3回ニコニコ学会に参加したのは、ニコファーレを実際に体験してみたかったからというのもあったわけですが、非常に印象に残ったのがこちらのセッションでした。
福島第一原発観光地化計画って凄いタイトルをつけたもんですよね。
一瞬、何かのネタなのかと思われがちかもしれませんが、実は大真面目に福島の未来について考えている施策です。
当然、福島第一原発の事故というのは現在進行形のトラブルで、今から「観光地化」などというのんびりした言葉を使うと、相当な批判が襲ってくるのは間違いありません。
福島原発の周辺に住んでいた方々がみまわれた状況は、私たちの想像を超える辛いものであるのは間違いなく、部外者である我々が福島の未来を語る権利があるのかどうか、というのは個人的にも非常に戸惑うところです。
それでもあえて観光地という言葉を使っているところに、東さん達の覚悟を感じます。
好むと好まざるとに関わらず、福島の原発事故はチェルノブイリと同程度と評価されてしまい、「フクシマ」の名前は「チェルノブイリ」同様、世界中に原発事故の都市として響き渡ることになってしまいました。
これは本当に残念なことであり、福島県の方々や福島県出身の方々の苦労や悲しみは、私には想像しようもありません。
ただ、そこで思考停止せずに、今から10年後20年後の福島のことを考えて、活動を始めていかなければいけないのではないか、というのがこの福島第一原発観光地化計画に込められたメッセージのようです。
福島第一原発観光地化計画のサイトにも、東さんの思いがつづられていますが、「福島は、日本は、「フクシマ」を、あの過ちを引き受けることなしに前に進むことはできません。福島第一原発観光地化計画は、その「責任」を引き受けるためのひとつの提案であるはずです。」という言葉に全ての問題提起が凝縮されているように思います。
ここでキーワードとなるのが、当日の議論でも提示されていた「ダークツーリズム」という言葉ではないかと感じます。
私もこのニコニコ学会で初めて知ったのですが、ダークツーリズムというのは戦跡など死、悲劇、暴虐にまつわる史跡を訪問するツーリズムのこと。
つまり、人類の暗い歴史を忘れないための観光ということ。
確かにそう言われると、ナチスドイツの捕虜収容所のように、戦争に関連する施設が観光の基本ルートに入ることは良くありますし、日本の原爆ドームなどはダークツーリズムの象徴のような施設でしょう。
実際、チェルノブイリ原発も既に観光地化し始めているんだとか。
私自身も、原爆ドームを訪問したことにより強烈な原子力爆弾への嫌悪感を感じるようになったり、ベトナムのホーチミンに旅行したときに、ベトナムの戦争博物館でハリウッド映画で見るイメージと全く逆の米国軍による虐殺の展示などがあり、いろんなことを考えさせられた経験がありますが、歴史を記録することにより、後生の人々が同じ過ちを繰り返さないようにする重要性は常にあるわけです。
そういう意味で、安全性への過信によって引き起こされてしまった福島第一原発の事故を、我々がどのように後世に伝え、記録していくのか、というのは実に重大な問題であるというのは痛感します。
当日は江渡さんから、原爆の父として知られるロバート・オッペンハイマーの弟のフランク・オッペンハイマーがエクスプロラトリアムという科学博物館を推進した逸話が紹介されていましたが、フクシマにも類似の役割が好むと好まざるとに関わらず、求められてくるわけです。
ただ、やはり問題となるのは日本語の「観光地化」というイメージでしょうか。
現在も福島第一原発のトラブルが完全にコントロールし切れていない現状を見ると、「福島第一原発観光地化計画」という字面だけパッと見ると、多くの人が脊髄反射で「何を不謹慎な」とリアクションするのは容易に想像できます。
私も、正直このブログ記事を書くべきかどうか悩んでしまって、4ヶ月も放置してしまう結果になりました。
当日も江渡さんから、「観光」という言葉に光が入っていて明るいのんびりしたイメージがあるから、被災地の観光地化というと不謹慎だと言われるので、「観闇地化」という言葉で表現したらどうかという問題提起がありましたが、ダークツーリズム的な認識をしてもらうための表現というのも必要なのかもしれません。
ちなみに、「福島第一原発観光地化計画」ではまずはチェルノブイリを実際に視察しに行こうというプロジェクトをキャンプファイヤで募集して、既に目標を大幅に上回る募金が集まっているようです。
非常に難しいテーマであり、様々な議論を呼んでしまう活動なのは間違いありませんが、震災から丸二年以上が経過して、つい多くの日本人が目を背けてしまいがちな現実に、正面から向き合って取り組もうとする姿勢は、素直に応援したいと思います。