Winnyに関する議論が噛み合わない5つの理由

情報非公開があだ?–トレンドマイクロもWinnyの餌食に – CNET Japanを読んで。
 安部官房長官の「Winny使わないで」宣言以降、Winny問題は収束するどころかますます盛り上がりを見せていますね。
 セキュリティソフト会社にWinny特需がみたいな話があるかと思ったら、アンチウィルスソフトのトレンドマイクロ自体がWinnyウィルスで情報漏えいしていたという話がでてきたり、JASDAQもだったという話がでてきたり、ぷららのWinny全規制に続いてNiftyもWinnyの規制を発表したりと、ここ数ヶ月Winny関連の記事は増える一方です。
 もちろん、今発表されている情報漏えいは過去のものなので問題は収束しているという説もあるんですが、なぜ、これだけ大勢の人が問題だと思っているのに、開発者逮捕から2年も経過して一向にWinnyをめぐる議論は収束の気配を見せないのでしょうか。
 個人的には、Winny問題が実に複数の議論軸を抱えてしまっている点が、大きな原因になっていると思っています。
 Winnyが日本に投げかけている問題は、整理してみると下記のように5つもあります。
1.著作権問題
 インターネットの普及と、コンテンツのデジタル化によって、無料での大量コピーが容易になってしまったというのが本質的な問題。
 Winnyは、ファイルの自動キャッシュや匿名性の担保により、利用者が非常に手軽にコピーを入手する手段を提供しており、著作権をコアにしたビジネスを行っている人にとっては大問題。
2.インターネットただ乗り問題
 インターネットの利用において、現在は利用者があまり利用しないということが前提の定額料金制が基本になっており、実質どれだけ利用しても最低料金のままで、使ったもの勝ちの状態というのが本質的な問題。
 Winnyによって、利用者はブロードバンド回線さえあれば、無料で好きなだけ動画ファイルを入手することができてしまう。そのためにISPはバックボーンを圧迫されてビジネス的にも大問題。
3.ウィルス問題
 人気のあるプラットフォームにおいては、そのプラットフォームを利用する悪質なウィルスが登場するというのが、本質的な問題。
 Winnyが人気を集めたことで、Winnyはウィルス開発者のターゲットとなりやすくなり、しかも、ファイルが自動的にコピーされていくという性質とあいまって、ウィルスの効果が増幅されやすい。しかも話題になれば模倣犯も増えて、Winny利用者にとっては問題。
4.情報漏えい問題
 情報のデジタル化によって、情報が紙時代よりも手軽にコピー、流出しやすくなっているというのが、本質的な問題。
 ファイルをコピーするというソフトウェアであるWinnyにウィルスが流行してしまったことで、従業員が意識していなくても情報が漏洩しやすくなってしまったということで、システム管理者にとっては大問題。
5.ソフトウェア開発の責任問題 
 インターネットにより、個人でも大勢の人に利用される影響力の高いソフトウェアを手軽に提供することが可能になっているというのが、本質的な問題。
 Winnyも、P2P技術を活用することで、ほとんど開発者がコストをかけずに利用者がファイル交換をできる仕組みを構築できてしまった。もちろんソフトウェアを開発したこと自体が問題なわけではないと思いますが、それで罪を問われてしまう可能性があるのであれば、開発者としては大問題。
 まぁ、これだけ議論の軸があるんですから、Winny関連のメディアの報道や議論のポイントが拡散するのも良く分かりますね。
 ある人が情報漏えいは自己責任だといえば、ある人は会社のパソコンを使うのが馬鹿だといい、ある人はコピー目的に使う人が悪いという話になれば、ある人はウィルス作者が悪いといい、ある人はメディアの報道が悪いといえば、ある人はソフトウェアとしては価値があるという感じで、議論が噛み合うわけがありません。
 そもそも世界中のファイル交換ソフトが巻き起こした議論は、1の著作権問題ですが、ただこれだけの問題だったら、NapsterやGroksterのように事業者に対して訴訟をして事業を停止させれば良い話。
 実際、日本でもファイルローグは訴訟によりサービス停止に追い込まれています。
 また2のトラフィックの問題は、そもそもはISP側のビジネスモデルの問題です。
 結局、Gyaoが人気が出て「ただ乗り問題」が話題になってしまったように、現在のバックボーン側のISPのビジネスモデルは、結局動画のような大容量コンテンツが頻繁に利用されると破綻するというのが現状。
 まぁ、今回のぷららやNiftyのように制限をするというのが無難な対応に思われます。
 3のウィルスの問題は、4の情報漏えい問題とセットになっている点が、問題を複雑にしていますが、普通に考えれば利用者の自己責任の問題です。
 本来は、ウィルスの対象になっているソフトウェア自体を改善するとか、利用者が勉強してウィルスらしいファイルは開かないとか、利用者が仕事と私用のPCは分けるとか、そういう防衛策をしくのが当然の流れでしょう。
 
 そうやって、一つ一つの問題を個別に見ると、それぞれに対する対応策は明確になるはずなのですが、Winnyの場合には全てが同時に発生しているのが最大の問題です。
 そもそも、最初は1の著作権問題が最大の問題だったはずです。
 Winny開発者が企業であれば、コンテンツ企業からの訴訟という形でGroksterと同じような民事の法廷闘争になったはずです。
 ところが、Winnyが匿名の開発者によるソフトウェアだったため、民事の法廷闘争の道が閉ざされます。
 そこで、警察が登場することになり、著作権法違反幇助という罪で開発者の金子氏が逮捕される形になり、5の開発者の責任問題が急浮上するわけですが、結果的にはここで問題は終わりませんでした。 
 当然、開発者の金子氏が逮捕される形になって、問題が一段落することを期待する人は多かったはずです。
 なにしろコンテンツ事業者も、ISPも、システム管理者も、警察も、Winny利用者以外の誰もがWinnyの利用者が減ることを望んでいたはずで。
 ただ、結局、開発者の逮捕にもかかわらず、Winnyの利用者が思ったよりも減らないという結果になります。
 本来であれば、開発者が逮捕されたソフトウェアを、利用者が使い続けるのは実に不思議な話です。
 海外の事例では、大抵訴訟に負けた事業者のファイル交換サービスは、サービスを停止されるなり、人気を失うなりして失速しています。
 ところが、Winnyはピュア型のP2Pのサービスのため、サービスが止められないという要素も影響し、開発者の逮捕後も利用者は思ったより減りませんでした。
(一部のデータでは、その後増えたというデータもあったようです)
 利用者が減らなかった理由がなぜなのか、本当のところは良く分かりませんが、Winnyによる情報漏えい事件があいつぎメディアで報道されたために、野次馬的にWinnyを利用する人が増えたという説もあります。
 日本の法律では、ファイルを不特定多数へのコピー目的でアップロードするのは違法だけどダウンロードは合法というグレーな線引きが、利用者の違法コピーに対する問題意識をあいまいにしてしまったのではないかという説もあります。
(ちなみにフランスでは、アップロードもダウンロードも違法で罰金がかかるようです)
 ソフトウェアの開発が停止しているのに、利用者が減らないなんて、改善を止めたらお客さんがすぐに離れてしまう世界で生きている人間からするとウラヤマシイ話ですが、結局、その利用者が減らなかった事実がWinny問題にややこしさを増すことになります。
 
 利用者が減らないために、あいもかわらずISPはWinnyによるトラフィックに苦しみ、ウィルス開発者はWinnyをターゲットにしたウィルスを開発し、それによって情報漏えい事件が引き起こされ、それがメディアで報道され、野次馬がまたWinnyの利用者になる。
 そんな余計な問題を誘発したスパイラルが続くことになってしまったわけですから、実に皮肉なことです。
 ちなみに個人的には、Winnyの利用者が減らなかったのは、他に類似のサービスがあまり生まれなかったのも、結構要因として大きいのではないかと思っています。
 もちろん、海外のサービスを含めWinny以外のファイル交換サービスというのは多々あるんですが、やはり日本では日本語のサービスでないと流行りません。
 ところが、Winnyの際に「開発者自身が逮捕される」という開発者のリスクに注目が集まったために、日本ではその後ファイル交換サービス系の開発は一気に影を潜めるようになった印象が強くあります。
 海外には山のように類似サービスがあり、人気の流行り廃りがあるのに、未だに日本では2年前に開発が止まったWinnyが注目されてるわけです。
 あえて誤解を恐れずに、穿った見方をすると。
 Winnyによる著作権問題を何とか沈静化させようと、開発者の逮捕に踏み切ったことが、結果的に類似日本語サービスの登場を阻み、それによってWinny自体を生き延びさせることになり、改善の止まったWinnyをインフラとしたWinnyウィルスによる情報漏えい事件が社会問題化するようになってしまった可能性があるわけです。
 
 どうも最初の開発者逮捕という打ち手が、結果的にみると大きく裏目に出てしまったように感じてしまうのは、私だけでしょうか・・・
 (もちろん、今になってそんなことを言っていても意味は無いんですが)
 まぁ、安部官房長官の記者会見以降、一説によるとWinnyのトラフィックが3割とかいうレベルで減ったという噂もあるようですし、セキュリティソフト各社はいろんな対策は打ち出してきてますし、金子さん自身もオズテックという新しいファイル交換ソフトの開発に携わっていることを発表したりといろいろあるようですから、これで少しは問題解消に進展があるのかもしれませんが。
 ダラダラ書いていたら、ちょっとあまりに長くなってしまったので、続きはまたの機会にしたいと思います。

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