邦題の「みんなの意見は案外正しい」というタイトルだとぴんと来ない人も多いかもしれませんが。
原題はThe Wisdom of Crowds(ウィズダム オブ クラウド)。ウェブ進化論でも話題になった群衆の英知というキーワードのもととなった書籍です。
(実は2004年に出版されていて、直後にHYamaguchiさんがレビューして話題になっていたりするんですが、翻訳されるのに2年近くかかっているんですね。)
本書でも書かれているように、これまでの一般的な常識というのは「群衆」「大衆」というのは比較的あまり良いイメージでは使われません。極端に言うと、烏合の衆とか愚民とかいったキーワードにみられるように、大衆は能力のある個人には劣ると考えられがちです。
ところがこの本では、多様な集団や群集が到達する結論は、「一人の個人よりつねに知的に優る」という一見これまでの常識に逆行する説を提示しています。
ウェブ進化論においても、最後に梅田さんがあちら側とこちら側という考え方と組み合わせるもう一つの軸として提示していたのが不特定多数無限大を信じるかどうかというポイント。
この部分をどちらとして物事を考えるかというのは、結構大きな違いを生んでくるような感じがします。
本書では、群衆が個人よりも賢くなるケース、賢くならないケースについて具体的な事例を並べて解説してくれており、Wisdom of Crowdsがいまいち分からないという人にお勧めです。
ちなみに、個人的に気になったのは中盤に出てくる「マタイ効果」の話。
「有名な科学者の研究はさほど有名でない科学者の研究に比べて、膨大な数の引用がなされる。」という科学者の論文における「名声のパワー」の事例を紹介しているのですが、最近のブログ界も同じことが起こっている気がして、この認知と質のアンバランスの問題を技術によって解消することができるのかどうかが気になるところです。
【読書メモ】
■「一般的な利益に関わる意思決定を下す」ように要請すると、集団や群集が到達する結論は、「一人の個人よりつねに知的に優る」
「群衆は高度な知性を必要とする行為を成し遂げられないし、一人の個人よりつねに知的に劣る。(ル・ボン)」という一般的な考え方とは逆?
■集団が賢くあるための3要件
・多様性
・独立性
・分散性
■いちばん優秀な人が集まった組織が必ずしもいちばん優秀な組織ではない
・優秀な人ほど似通ってしまう
・それほどよく物事を知らなくても、違うスキルを持った人が数人加わることで、集団全体のパフォーマンスは向上する。
・現実の世界では専門性が過大評価されがちである
■ウォートンのアームストロング教授による「専門家」の調査
「専門家は先々の変化を予想するのに十分な情報と、その情報を有効に活用する能力を持っていると誰もが期待する。ところが、最低限の専門知識以上の専門性は変化の予想にはほとんど役に立たない」
■学びを通して個人が賢くなる一方で、集団として愚かになる可能性
集団のメンバーがお互いに大きな影響を与え、お互いの個人的関わりが強くなると、集団の判断は賢明でなくなる。お互いの影響力が強くなると、同じ事を信じ、同じ間違いを犯しやすくなる。
■「情報カスケード」
皆が持っている私的情報を集約するのではなく、情報不足の状態で次から次へと判断が積み重なること
情報カスケードが抱える根本的な問題は、ある時点を過ぎると自分が持っている私的情報に関心を払う代わりに、周りの人の行動を真似することが合理的に思える点にある。
■分散性のメリットとデメリット
メリット:独立性と専門性を奨励する一方で、人々が自らの課題を調整し、難しい課題を解決する余地も与えてくれる。
デメリット:システムの一部が発見した貴重な情報が、必ずしもシステム全体に伝わらない。
→個人が専門性を通してローカルな知識を手に入れて、システム全体として得られる情報の総量を増やしながら、個人が持つローカルな知識と私的情報を集約して集団全体に組み込めるようになっている状態が望ましい。
■信頼というコンセプトでいちばん重要なのは、それがある意味では、機械的で人間味の無いものだという点だ。
・かつて、信頼は人と人のつながりや集団内の人間関係に基づいていた
・近代資本主義は、個人的な関わりが一切ない人を信頼しても大丈夫だと保証した
公正な取引から生じる長期的な利益のほうが目先の取引から生じる短期的利益よりも大きい、と人々が思えるとき資本主義は健全だと言える
■「マタイ効果」(名声のパワー)
「おおよそ、持っている人は与えられて、いよいよ豊かになるが、持っていない人は、持っているものまでも取り上げられるであろう」(マタイによる福音書)
調査という調査が、ほとんどの科学論文は誰にも読まれず、ごくごく少数の論文だけが多くの人に読まれるという事実を示している。有名な科学者の研究はさほど有名でない科学者の研究に比べて、膨大な数の引用がなされる。
■「集団極性化」
天邪鬼がいないところでは、話し合いが行われた結果、集団の判断が前よりもひどい内容になることがある。
私たちは議論をとおして合理性と中庸が生まれると考えているので、意見を交わせば交わすほど人々は極論に走りにくくなると思い込みがちだ。ところが、三十年に及びさまざまな実験や陪審の経験から得られた知見は、多くの場合、全く逆の自体が生じることを示す。
■発言量は小さな集団が達する結論にとても大きな影響を及ぼす。
集団の中で発言量が多い人は、ほとんど無条件にほかのメンバーから影響力が大きいと見做される。グループダイナミクスの研究は、誰かがたくさんしゃべればしゃべるほど、集団内でその人が話題にされる機会も増えることを示す。
■市場が調整機能を十分に果たせれば、世界中のヒトやモノの動きを調整する大きな企業の存在意義はなくなる。企業は何のために存在しているのだろうか?
→コスト計算と、スピードとコントロールのバランス。
■ギャング映画に学ぶビジネス理論
・「ゴッドファーザー」物事はトップダウンで進められる。
→トップは必要な情報を手に入れるのに苦労する。トップの視点以外の視点は活かされない。
・「ヒート」強い結びつきのある、小さなプロの強盗集団、
→組織の可能性を否定する。たった一人の間違いがグループ全体の破滅につながりかねない。
・「レザボア・ドッグス」一つの仕事をするためにバラバラの個人が集まってチームを作る。
→取引コストが問題。チームを作るのに手間隙がかかる。
完全無欠の理想的な組織モデルなど、この世に存在しない。
・企業は昔ながらの構造と組織的な統一性を残したい。
・日常的な業務をこなせる小さな緊密なグループも必要。
・専門性の高い外部の働き手や戦略かも欲しい。
■見た目だけの権限委譲や分散的アプローチには意味が無い
「従業員の参画という形式だけでは不充分で、意思決定の実質的権限と企業の所有権の取得に伴う目に見える報酬が何らかの形で必要なのである。」(経済学者のジョセフ・ブレイジとダグラス・クルーズ)
GEのCEOとしてジャック・ウェルチが行ったいちばん重要な改革は、部門の壁を超えたアプローチが多様性を生み出すという発想の下、GEを「境界を越えた」会社にすることだった。
【目次】
集団の知恵
違いから生まれる違い―8の字ダンス、ビッグス湾事件、多様性
ひと真似は近道―模倣、情報の流れ、独立性
ばらばらのカケラを一つに集める―CIA、リナックス、分散性
シャル・ウィ・ダンス?―複雑な世の中でコーディネーションをする
社会は確かに存在している―税金、チップ、テレビ、信頼
渋滞―調整が失敗したとき
科学―協力、競争、名声
委員会、陪審、チーム―コロンビア号の参事と小さなチームの動かし方
企業―新しいボスって、どうよ?
市場―美人投票、ボウリング場、株価
民主主義―公益という夢
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あーなるほどなー、こりゃ便利だわ。と思ったのでご紹介。
分からないことがあれば、とりあえずネットで調べる、と…