AMN5周年を迎え、あらためて創業時の原点に立ち返って皆さんに宣言をしておきたい5つのこと。

 本日、2012年2月13日は、アジャイルメディア・ネットワーク(以下、AMN)が創立されてちょうど5周年になります。
 2007年2月13日に会社が設立されてからのこの5年間は、文字通り試行錯誤の日々であり、現在もその試行錯誤の途上というのがAMNの現状です。
 そういう意味では、5周年というのはAMNにとっても、私自身にとっても、あくまで一つの通過点でしかないのですが、重要な節目の年であるのも間違いありませんので、過去の振り返りと今後のAMNの方針について、ここにまとめておきたいと思います。
■ネットをやらせだらけの世界にしないために。
 AMNはもともと、ブロガーを中心としたメンバーにより立ち上がったプロジェクトです。
 AMNの設立が検討された2006年当時、100円程度の謝礼で数千人のブロガーに一気に記事広告を書かせるペイパーポスト手法が大流行していました。多くのペイパーポスト事業者がブロガーに広告であることを明示する義務を課していなかったため、結果的に多くのペイパーポストへの参加ブログがステルスマーケティング化してしまっていたのです。
 
 実際、私自身が当時久しぶりに会ったNTTの同期に「ブログってほとんど「やらせ」でしょ」といわれてしまった記憶がありますが、彼自身が何かのサービスを検索した際に大量のペイパーポストの参加ブログ記事に遭遇した結果、そういう印象を持ってしまったそうです。
 
 私自身が、ブログで人生救われた人間だと自負していたこともあり、当時のペイパーポストの普及による「ブログはやらせ」や「ブロガーは100円払えばやらせ記事を書く」というイメージの増加にひどく傷ついたことを良く覚えています。
 当時のペイパーポスト手法は、企業から支払われるお金という謝礼に、結果的にブロガーが魂を売ってしまい、読者であるユーザーを騙す結果になるという、一方通行のマスマーケティング時代には当たり前だった手法がソーシャルメディア上では悪い方向に出てしまう象徴のようなサービスでした。
 
 そこで、一方通行のマスメディアではない、双方向のブログやソーシャルメディアならではの広告手法を考える会社が必要だろう、という議論から始まったのがAMNです。
 そのため、AMNは設立当時から「読者、企業、ブロガー、全員に意味のあるサービスを目指す」というのがミッションになっていたわけです。
※2007年のAMN設立時の記者発表会で利用したスライド
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 ただ、ミッション先行で始まったAMNのスタートは決して楽なものではありませんでした。
 当初は日本の個人ブログがメディア化するのを支援するために、ブログの広告枠の販売代理店というビジネスモデルを中心としていましたが、ネット広告の単価下落の影響も受け苦戦を強いられることになります。
 
 その後、ブロガーイベントやブログモニターなどのブロガーリレーションを中心としたサービスが立ち上がることで、なんとか会社としての体をなすことができましたが、ここに至るまでの道のりは試行錯誤の連続でした。
 その後、事業の領域をブログだけではなくツイッターやFacebook、mixiなども含めたソーシャルメディアと再定義し直し、自らをソーシャルメディア上の会話を最適化するカンバセーショナルマーケティング企業と位置づけたことにより、企業が求めるマーケティングのニーズに対応できる体制を整えることができました。
 その後、リーマンショックなどの影響を受けながらも、おりからのソーシャルメディアブームの追い風もあり、何とか今日の5周年を迎えることができた、というのが正直な現状です。
■企業、メディア、ユーザーの三者ともに価値ある仕組みを目指す
 ただ5周年を迎えることができたとは言え、実は、現時点では創業当時の理想は、ほとんど達成できていません。


 自分で書くと変な感じですが、おかげさまでスタッフも30名を超え、ソーシャルメディアを中心としたマーケティング支援会社としては、小さいながらもある程度意味のある規模になることはできていると思っています。
 また、カンバセーショナルマーケティングというフレーズで、企業のソーシャルメディア活用は会話に近いことを訴え続けてきたことで、企業担当者の方々の中にも我々のコンセプトを応援してくれる方が増えてきているという実感もあります。
 そういう意味で、企業向けの活動については、ある程度の達成感が無いと言えば嘘になりますし、日本の大企業のソーシャルメディア活用の健全化に少しは貢献している自負はあります。
 ただ、本来AMNが目指さなければいけないのは、企業のマーケティング支援だけを行う会社になることではなく、「企業」と、ブロガーやソーシャルメディアユーザーなどの新しい「メディア」、そして読者である「ユーザー」がフラットにつながることで生まれるであろう、新しいコミュニケーションやマーケティングの可能性を追求することです。
※現時点でのAMNのミッション
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 言葉で書くとつい恥ずかしくなるようなきれい事ではありますが、ブログやソーシャルメディアを通じて個人がつながっていくことで、世の中の広告やマーケティングのあり方が根本的に変わる可能性があるというのは、他ならぬ私自身が、NTTという大企業を飛び出して、ネット業界で壁にぶち当たり、ブログやSNSのおかげで人生を救われるような価値観の変化を感じる過程で体験してきた事実です。
 ただ、現時点でのAMNは、創業当時に宣言していたような、パートナーブログの運営面、収入面での支援というのは、ほとんど達成できていませんし、日本のブログやソーシャルメディアを面白くしていくことで、もっと多くのユーザにブログやソーシャルメディアの魅力を知ってもらったり、楽しんでもらうということにもあまり貢献できていません。
 そういう意味で、今後のAMNはあらためて「企業、メディア、ユーザーの三者ともに価値ある仕組みを目指す」という原点に立ち返った再チャレンジを行うことに注力したいと考えています。
■AMNは、企業とファンを楽しくつなぐ新しいメディアをデザインする会社を目指します。
 そのために、AMNでは昨年末から今年の頭にかけて全スタッフで企業ミッションを議論し直し、再定義を行いました。
 今回再定義した企業ミッションは下記の通りです。
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 ミッションの中で定義した5つのポイントは下記の通りです。
■ファンやユーザーをターゲットではなくパートナーとして考え、
 ユーザーが楽しめる新しい広告やマーケティングを実現します。

 インターネットやソーシャルメディアの普及により、マーケティングや広告を巡る現実は、旧来のマスマーケティングにおける常識のパラダイムを180度転換しようとしています。
 もちろん、それは単純にマスメディアの重要性がなくなるという意味ではありませんし、ソーシャルメディアだけで企業のマーケティングが成し遂げられるという意味ではありません。
 ただ、極端な言い方をすると、マーケティングのあり方は、マスマーケティングから180度転換し、マスマーケティング以前の時代の価値観に戻る可能性が高いと思っています。
 従来のマスマーケティングにおいて、利用者は「ターゲット」と定義され続けてきました。「ターゲット」とは戦争における「標的」を連想させる言葉であり、誤解を避けずに簡単に言うと「敵」のことです。
 顔の見えない「ターゲット」に上空から大量の広告を投下すれば、自然に利用者が製品を買うよう誘導できる、このようなマーケティングに対する「慣れ」が、昨今のソーシャルメディア活用における混乱や炎上事例につながっているように感じます。
 ソーシャルメディアを企業のマーケティングに活用してもらうにあたり、AMNでは利用者をまず企業の「パートナー」と定義することから始めます。
 対象顧客を顔の見えないターゲットとしてではなく、自分の友達や家族のようなパートナーとして考えることで、どうすればそのパートナーに楽しんでもらう広告やマーケティングを実現することができるか、真剣に考えることができると思います。
 顧客やファンが大事なのは、今も昔も変わりませんし、口コミや会話の大事さも変わりません。
 ソーシャルメディアによって力をつけた新しいファンやユーザーと一緒にマーケティングを楽しむことは、昔から顧客を大事にしてきた企業にとっては難しいことではないと思っていいます。
■独自の技術や効果測定手法、ソーシャルメディアの知見を活かし、
 企業の中長期での売上向上に貢献します。

 ただ、一人一人のファンやユーザーをパートナーと考え、できる限り丁寧に対応を行うマーケティングというのは、企業にとっては理想であっても実際に実現するためには大きなハードルがあるのも事実です。
 大量の見込顧客に効率的に認知させることができるマスマーケティングに比較すると、個別の対応が大量に発生するソーシャルメディア上のコミュニケーションは、どうしても担当者の作業量が増え、手間がかかるのも事実です。
 そこで、AMNの役割として必須になるのは、ソーシャルメディアを活用したマーケティング活動が、企業の売上向上に貢献しているのかどうかを証明することだと考えています。
 既にいくつかの企業では、ソーシャルメディアを活用したマーケティング活用が中長期的に売上の向上や、従来の広告活動のコスト削減につながっていることを証明し始めており、そのロジックやコンセプトを共有していくことで、多くの孤軍奮闘している企業の担当者を支援することができると考えています。
 従来のマスマーケティングのロジックにおいては、少数のファンの価値は、どうしても大勢の見込顧客への認知の価値を比較される中で、軽視されがちでした。
 しかし、ソーシャルメディア上の会話の流れを傾聴し、注視することで、企業自身によるユーザーへの「宣伝」行為よりも、ファンによる真の「口コミ」の方が影響力も強く、効率も高いケースが増えてきていることが徐々に明らかになりつつあります。
 ソーシャルメディアの活用や、ファンを大事にする地道なマーケティング活動が、企業の中長期の売上向上に貢献することが証明できれば、顧客を大事にすることを当然と考える企業が多い日本企業にとって、ソーシャルメディアは利用して当然のコミュニケーションツールの一つになると確信しています。
■ユーザーの誤解を招いたり、企業やメディアにリスクのある
 やらせやステルス行為には荷担しません。

 ユーザーに楽しんでもらうマーケティングと、企業の中長期の売上向上を両立する上で、決して踏み越えてはいけないのが、やらせやステルス行為の境界線です。
 AMNはもともと、やらせになってしまいがちなペイパーポスト手法に対するアンチテーゼとして立ち上がった会社ですので、やらせやステルス行為に荷担しないというのは、AMNならではの倫理的なポリシーでもあります。
 ただ、それ以前の話として、やらせやステルス行為の実施というのは、ユーザーに楽しんでもらうマーケティングという大原則をそもそも破っており、やらせが発覚した際にユーザーに与える悪印象や炎上のリスクを考えると、企業にとっては、手を出すに値するメリットが経済的にも全くない手法だと考えています。
 さらに、冒頭にも書いたように、ネットやソーシャルメディアが「やらせ」ばかりの場所であると言うような状態に陥ってしまったら、ソーシャルメディア自体の価値にも影響を与えることにもなりかねません
 
 当然、マーケティングという行為には、企業が利用者に何らかの影響を与えようとしているという意味で、全く何も行わない場合に加えると、作為的な行為であるのは事実です。
 ただ、だからこそAMNでは、やらせやステルスマーケティングのような短絡的な手法に頼るのではなく、ユーザーが楽しんでもらえるマーケティングを追求することが重要であると考えています。
■スタッフやパートナーがチームとして楽しく成長・活躍できる環境を提供し、
 新しいイノベーションへのチャレンジを続けていきます。

 ここまでに書いたようなミッションは、正直30名程度の規模の会社であるAMNが実現するには、到底大きすぎるミッションに聞こえるかもしれません。
 
 ただ、ソーシャルメディアの普及により、たとえ妄想に近いビジョンでも、同意してくれる同士や仲間が集まることで、一歩ずつ実績を重ねていき、一歩ずつ理想に近づいていくような、そんなボトムアップのアプローチが容易になってきていると信じています。
 
 そのためにも、私自身はAMNのスタッフ一人一人が自分たちの現在の能力以上のアウトプットを出してくれるような環境を作れるように、最大限努力することを誓います。現在のメンバーが100%力を出し切って協力してくれれば、私の妄想が妄想ではなくなる可能性は少なくないと感じています。
 また、その環境作りの対象をいわゆる従業員というクローズドな世界だけではなく、オープンに広げていくことも目指します。
 AMNは、もともとパートナーブロガーの方々と一緒に、議論し作り上げてきた会社です。従来のメディアは、編集者や記者を雇用することで初めて自社のメディアを構築できましたが、AMNではパートナーブロガーの方々と連携することで緩いメディアの構築にチャレンジしてきました。
 ソーシャルメディアの普及によって、こうした緩いパートナーシップの形の可能性はますます広がってきていると感じており、AMN自体をよりオープンなネットワークとして変化させていくことで、様々なパートナーの方々と、より緩くより深いパートナーシップの形というものも模索していけると考えています。
 まだまだ、現在の形で十分パートナーの方々に貢献できているとは思いませんが、あとで振り返ってAMNのネットワークに参加して良かったと感じて頂けるように、より多くの方にパートナーとして力を貸して頂くことで、より大きなイノベーションにチャレンジできるような新しいオープンな組織を目指していきます。
■結果として自社も成長することで、日本のインターネットに良い影響を
 もたらす企業になることを目指します。

 現在のAMNの主力事業はいわゆるマーケティングであり、広告代理店やPR代理店に近い事業形態であると言えます。
 ただ、AMNの起源はブログであり、ソーシャルメディアであり、インターネットです。
 そういう意味では、AMNが目指すのは新しい広告代理店やPR代理店ではありませんし、ソーシャルメディアのコンサルタント会社でもありません。
 AMNが目指すのは、あくまで新しいウェブやネットというメデイアをデザインする会社です。
 Googleは自らの事業収入の中心をネット広告事業に依存していますが、Googleはもちろん新しい広告代理店を目指しているのではなく、検索や各種のウェブサービスにより、世界中の情報を整理することを目指しています。
 Facebookも自らの事業収入の中心をネット広告事業に依存していますが、Facebookはもちろん新しい広告代理店を目指しているのではなく、自らのソーシャルネットワークによって世界中の人や情報をつなげることを目指しています。
 AMNも自らの事業収入の中心は、今も今後もネット広告やネットPRになると思いますが、AMNが目指すのは新しい広告代理店やPR代理店になることではなく、企業とファンが直接つながれることができる仕組みを提供することです。
 企業とファンが直接つながることで、企業はファンの力を借りやすくなりますし、結果的にマーケティングの効率が良くなったり、不要な炎上を回避することができるようになるかもしれません。リスクの高いやらせやステルスマーケティングに頼る必要もなくなるでしょう。
 開始したばかりのサービスが、早期に強力なファンを見つけることができれば、企業とファンが力を合わせることで、企業はよりよい製品やサービスを開発することにもっと注力することができるかもしれません。
 AMNのようなマーケティング会社が、ウェブサービスのプレゼン大会であるWISHを主催しているのは、そんなミッションを体現するための一つのシンボルだと思って頂ければ幸いです。
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■終わりに
 繰り返しになりますが、AMNは企業とファンやユーザーをつなぐことで、インターネットやソーシャルメディアをもっと楽しく価値のある場所にするために始まった会社であり、今後もそのためにチャレンジするための組織です。
 単に企業の宣伝費をソーシャルメディアにもってきて売上をあげることが目的の会社ではありません。
 現在は、まだまだ大げさなことを胸を張って言えるようなステージではありませんが、AMNに携わってくれているすべてのスタッフやパートナーの方々が、そんな可能性を少しでも信じて日々の活動に参加してくれれば、少しずつ理想に近づいていくことができると信じています。
 あいかわらずのポイントの分かりづらい長文のブログ記事になりましたが、ここまで読んで頂いた方々に深く御礼を申し上げます。
 
 ソーシャルメディアが登場し、企業とユーザーの関係、そしてメディアのあり方が180度変わるというこのタイミングで、皆さんと一緒に新しいソーシャルメディアやインターネットの可能性にチャレンジができるというこの幸運に、AMNが5周年を迎えた今日、改めて心から感謝したいと思います。
 今後ともなにとぞAMNとその活動に様々な形で参加、応援、ご指導頂ければ幸いです。
※朝バージョン
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※夜バージョン
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 アジャイルメディア・ネットワーク株式会社
 代表取締役社長 徳力基彦