シェア 共有からビジネスを生み出す新戦略(レイチェル・ボッツマン)には、震災を経験した日本人だからこそ、チャレンジすべき世界だと改めて感じます

4140814543 「シェア 共有からビジネスを生み出す新戦略」は、「フリー〈無料〉からお金を生みだす新戦略」を監修された小林さんが監修されたことでも話題になった書籍です。
 こちらも発売時に献本を頂いていたのですが、書評抜き読書メモを公開するのをすっかり忘れていたので、今更ながら公開させて頂きます。
 シェア、というコンセプトは、古くて新しいコンセプトというのが、この本を読んで改めて感じた印象です。
 部屋をシェアするサービスの下りで「1950年代以前には、友人や友人を頼って旅行する事はめずらしくなかった。」というくだりが出てきますが、確かに近代化以前は、そもそも近所でものを貸し借りしたりするのは当たり前の現象で、恥ずかしい行為ではなかったはず。
 それがマス消費の浸透もあり、年に一回しか使わないようなものでも、他人に借りるのは面倒だし恥ずかしいから、すべて自分の家にそろえてしまうようになったわけで。
 震災後の価値観の変化の影響もあり、さまざまな無駄が見えてくるようになった気がします。
 昨年末に、ネスレさんの「ネスレゆずりば」という、ソーシャルシェアサービスのグループインタビューをお手伝いさせて頂きましたが、このサービスもネスレの揖斐さんが震災を通じて感じた価値観の変化が大きく影響しているとのことでした。
 それもあって、改めてこの本を読み返してみたのですが。
 冷静に考えてみると、日本人ってそういう近所のものの貸し借りや、古いものを「もったいない」と簡単に捨てない文化をもっている国だったはず。
 そういう意味では、アメリカで「シェア」がはやっているから日本でも、とシェアを意識したサービスを始めるよりも、日本ならではの「共有」のサービスを生み出して、世界に日本の共有の文化を広めていくという心意気のサービスがもっと出てきても良いのではないかな、と感じたりします。
 既存の「消費」を当たり前としたビジネスモデルに対して疑問を感じている方には、ヒントになる点が多々ある本だと思います。
 以前ご紹介した「メッシュ」と合わせて読むのもオススメです。
【読書メモ】
■世界中で起きつつある何千というコラボ消費の事例を、三種類のモデルに分類
・プロダクト=サービス・システム
・再分配市場
・コラボ的ライフスタイル
■成功事例に共通する四つの原則
・クリティカル・マス
・余剰キャパシティ
・共有資源の尊重
・他社への信頼
■「エアビーアンドビーは近代的な発想じゃないんだ。」(チェスキー)
 1950年代以前には、友人や友人を頼って旅行する事はめずらしくなかった。
 エアビーアンドビーは昔の発送を借りてきて、P2Pネットワークと新しいテクノロジーを使って現代的にアレンジしたものだ。


■エアビーアンドビーは、ホストから一律3%のサービス料金を徴収すると同時に、ゲストからは宿泊料金に応じてその6%から12%を受け取る
■消費主義の環境への影響も、水面下に隠されている。
 ラップトップ・コンピュータ台分の製造過程で出る廃棄物の量は、そのコンピュータの重さの4000倍近くに上る。そのPCに搭載される極小マイクロチップの製造には1.7キロもの材料が使われ、チップそのものの10万倍もの重さの廃棄物をその過程で生み出している。
■ハイパー消費主義
 これまでにない規模で次から次に際限なくたくさんのものを手に入れること
■ディドロ効果
 他のすべての持ち物をガウンの高級感に釣り合うようにさせる
 「私は古いナイトガウンの絶対的支配者だった。それなのに、新しいナイトガウンの奴隷になってしまった」(ドニ・ディドロ)
■子供は生まれもって社交的で協力的なのだ。
 それなのに、三歳頃になると、文化によってつくられた「社会規範」に従うようになる。協調性や人助けは、子供の頃と違い、利己心に左右されるようになる
■共有資源の自由は全員を滅ぼす(ガレット・ハーディン)
 たとえそれが集団のだれにとっても得にならず、または将来の利益につながらないと知っていても、人間はとりすぎてしまうのだ。
■「今から25年後には、多くの企業や消費者にとって、所有というコンセプトは、限られた、古臭いものになるだろう」(ジェレミー・リフキン「エイジ・オブ・アクセス」)
■プロダクト=サービス・システムの二分類
・活用型:企業や個人が所有するものを多数のユーザーがシェアする(Netflix)
・寿命延長型:アフターサービスがそもそも製品需要サイクルに組み込まれているもの(アンダーソン)
■サービス・エンヴィー
 モノよりサービスをほしがらせること。
 持っているものではなくて利用しているサービスをとおして自分がどんな人間かを相手に表現できるようなサービスをつくることが必要だ
■フリーサイクルのメンバーは、古いものを始末するのは新しいものを買うのと同じくらい気分がいいと言う
■贈与経済(間接的互報酬の文化)
 今すぐに、あるいは先になって見返りがあると言うはっきりした取り決めがたとえなくても、モノやサービスを与える事
■フリーサイクルでは、いらないものやダンボール箱を上げるときに、書面で取り決めを交わす事はないが、譲り手の方も、いつか欲しいモノがあれば掲示板にリクエストを出すだろうという暗黙の了解がある
■「正直さを大切にする価値観をベースにした組織をつくれば、人間の善良さを引き出す事ができる」(デロン・ビール)
■スワップ・ドットコム
 スワップが新品のショッピングに負けない体験になるような、二つの大切な要素を提供した。それは、チョイスが豊富な事と、すぐにその場で満足を得られる事
■「イーベイはコミュニティだった、今もそうだ。共通の趣味を通じて人と人とのつながりが有機的にからまり、進化し、自然と組織化されていくものだ」
■コ・ワーキングは第三の場所をつくりだしている
 「会社の机でも、自宅でもない場所。好きなときに参加できるパブリックな場所で、そこへ行くと必ずだれかに会えて、何か役に立つ事をお互いに交換できるかもしれないスペース」
■「サイトに来てくれる一人一人に、全部ご挨拶してお迎えしたの。そのユーザーたちに他のユーザーを紹介して、その人たちとチャットしたわ。これはソーシャルなプロダクトなのよ。」(フリッカー、カトリナ・フェイク)
■便利さや気楽さを無理矢理犠牲にして、消費者に「正しい事」をさせるのではなく、ザレスは「正しい事」をより魅力的にした(ブレインウォッシュ)
■評判の口座
 「10年後には、もっとも高い評判と信頼のネットワークを持つ人たちが、金持ちや権力者に代わって、力や影響力を持つ事になるだろう」(クレイグ・ニューマーク)
■あとになってこの時代を振り返れば、人間の基本的な欲求(特に昔の市場原理や協調行動が自然と満たしていたコミュニティへの欲求、アイデンティティへの欲求、承認の欲求そして意味のある活動への欲求)を満たすようなサステイナブルなシステムを、一足飛びに再構築した時代だったと思うに違いない
■産業資本主義から自然資本主義へ
 資源を枯渇させることなく、雇用を増やし、消費者に我慢を強いることなく需要を増やせる。そして企業にも利益をもたらすことになるであろう。
・サービス経済が価値のフローを高めることに重きを置いている
・産業資本主義が生産性を第一義としてきたことで、労働力を疲弊させている
・自然資本(資源、生命システム、生態系)を正しい形で利用すべき

4140814543 シェア <共有>からビジネスを生みだす新戦略
レイチェル・ボッツマン ルー・ロジャース 小林 弘人
日本放送出版協会 2010-12-16

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