ステルスマーケティングで短期的に儲かったところで、結局長い目で見ると自らの首を絞めているダイナマイト漁みたいなものだという話。

 今朝、日テレさんのZIPで、Facebookについてコメントさせて頂いた興奮冷めやらぬ今日この頃ですが、実は今週テレ東さんのワールドビジネスサテライトでも取材をして頂きました。
 こちらのお題は、うってかわって食べログの「やらせ」や「ステルスマーケティング」の問題。
wbs_tabelog.png
 あくまで主役はやらせ投稿の舞台となった食べログを運営するカカクコムさんなので、今日の放映で私のコメントが実際に使って頂けるかどうか分かりませんが、一部の発言だけで誤解を生むのも怖いので、こちらに私の言いたかった事を書いておきたいと思います。
 「ステルスマーケティング」や「やらせ」に対する私のスタンスは、先日ブログに長々と書いたとおり、深刻な問題だと思うし根絶するべきだけど、実際にはかなり根深い問題で簡単には解決できないだろう、というスタンスです。
「ステルスマーケティング」や「やらせ」行為は、やらせが判明した場合のリスクが実は非常に大きい事が理解されないと変わらないのではないだろうか 
 じゃあ、だからといってステルスマーケティングをやって良いと思っているかというと、当然そんなことは一切ありません。
 そもそも、AMNは2006年頃に大量発生したペイパーポスト型のステルスマーケティング手法のアンチテーゼとして発足した会社。そういう意味では、ステルスは絶対にやらないというのが会社設立における一つの不文律で、この5年間、愚直にそれを続けてきた自負があります。
 AMNのブログマーケティングポリシーをみて頂くと分かると思いますが、WOMマーケティング協議会のガイドラインができる2年前となる会社設立直後の2007年から関係性の明示をポリシーに明記してきました。
 正直なところを言うと、このポリシーのおかげで断る事になった案件は数知れませんし、まだ事業が成り立たず会社の経営が厳しかった初期の頃に、関係性の明示をするポリシーを下ろして、ステルスマーケティングに近い手法に手を出せば楽に受注できるんだろうなと、羨ましく思った事が無いと言ったら嘘になります。
 ただ、AMNパートナーブロガーの方々の厳しい指導もあり、何とか私自身、信念を曲げずに今日までステルスマーケティングのダークサイドに落ちずにやってくることができたと思っています。
 じゃあ、私が金儲けが嫌いな清廉潔白な人間か?と言ったら、もちろん企業の経営者ですから全くそんなことはありません。
 ただ、ステルスマーケティングに手を出すのは、実は自爆行為なんじゃ無いか、というのが私の率直な意見です。
 実は、私の中で忘れられない経験になっているのが、NTTを退職する直前に有休消化でいったOperation Wallaceaというプロジェクトでのインドネシアでの体験です。


operationwallacea.png
 Operation Wallaceaは簡単に言うと、当時インドネシアにある珊瑚礁を守るボランティア団体だったんですが、珊瑚の状態をチェックするボランティアのダイバーを募集していて、ダイビングのトレーニングも兼ねられるというので遊びに行ったというのが正直なところ。
 海外のボランティア団体って、プロジェクトへの参加料金をこちらがしっかり払う代わりに、大学の単位になったり、遊びの要素もあったりするんですよね。
 正直とても楽しい経験でした。
Wallacea
 で、なんでそこの海の珊瑚を調査する必要があるかというと、そこではちょっと前までダイナマイト漁が流行っていたからなんです。
 地道に釣り糸を垂らしたり、網で魚を捕まえる漁に比べ、ダイナマイト漁は海にダイナマイトを放り込むと、爆発の衝撃で魚が大量に浮いてきて一網打尽。
 これは確実で手軽というので、地元の漁師の間で流行ってしまっていたんだそうです。
 ただ、当然ダイナマイトですから壊すのは魚の神経だけで無く、珊瑚も犠牲になります。
 珊瑚というのは本当に気の遠くなるような長い年月をかけて立派な珊瑚礁に育つわけですが、ダイナマイトで壊すのは一瞬。
 当然珊瑚礁が破壊されれば、その海域で魚たちが生きていくための環境も壊れてしまうわけで、それを止めるための活動がOperation Wallaceaというわけです。
 で、私にとってショックだったのは、実はこの破壊に日本が一役買っていたらしいということです。
 当然、当時の私はダイナマイト漁の知識とかも全くなく、観光気分でイギリス人ばかりのこのプロジェクトに参加していたんですが、ある一人のメンバーがどうも私に余所余所しいんです。
 他のメンバーとはとても楽しそうに話しているんだけど、私の方をみるときだけ目がとても冷たくなり、正直怖いぐらいでした。
Wallacea
 で、仲の良かった別のメンバーに聞いて教えてくれたのが。
 実はその地域のインドネシア人がダイナマイト漁にはしったのは、日本人が魚を高値で買っていってくれるから、という背景があるからだ、という話を教えてくれたのです。
 はたしてその話が事実なのかどうなのか、私には確認しようがありませんが、まさか旅行気分で遊びに来たインドネシアの端っこの海域で、日本人が珊瑚礁の環境破壊の元凶だという話を聞かされるとは思わず、ショックでしばらく何も言えなくなってしまったのを良く覚えています。
 その話を聞くつい直前までは、ダイナマイト漁をするなんてインドネシア人ってなんて野蛮なんだと思っていた自分がいたわけですが、実はそのインドネシア人を野蛮な行為に走らせていたのが、日本だとしたらその自分たちこそが問題の元凶かもしれないわけで。
 自分が何も知らずに、うまいうまいと食べていた魚が、実はこうしたサイクルにつながっていたかもしれないわけです。
Wallacea
 もちろん、今冷静に振り返ると、日本人がそんなに珊瑚礁の魚を食べてるのか?とかいろいろ思うところはあるわけですが。
 
 日本というのは、環境を大事にする民族で、焼き畑農業で熱帯雨林をもやしてしまっている東南アジアの人たちとは違う自然と共生する事ができる民族だ、ということに少なからず自負を感じていた自分からすると、自分が思っている日本人像とは真逆のイメージを持たれているという事実は、本当に大きなショックでした。
 この出来事は、私自身の価値観に結構大きな影響を与えています。
 
 
 この長いブログ記事をここまで読んでくれた方からすると、いったい珊瑚礁の話がステルスマーケティングと何が関係あるんだよ、と思われるかもしれませんが。
 私の中では二つは一緒です。
 今回の食べログやらせ騒動にみられるようなやらせ投稿事業者は、明らかにダイナマイト漁をやっている悪徳漁師。
 短期的にはヤラセ投稿を行う事で、自分たちもお客さんを儲けさせているかもしれませんが、実際にはそのヤラセ投稿を行うことで、食べログという珊瑚礁の価値を着実に破壊しています。
 まぁ、確信犯でヤラセ投稿をさせるような会社に、中長期の信頼の蓄積を説いても無駄だとは思いますが。
 実はダイナマイトを食べログに投げ込み続けて、食べログ自体の信頼が壊れてしまったら、自分たちのビジネスも消滅するわけです。
 2006年のペイパーポスト型のブログマーケティングの全盛期にも、ステルス型のペイパーポスト系のブログ記事を大量に目にしていたNTTの同期に「ブログってやらせでしょ」と言われたのが個人的には忘れられない経験ですが。
 そういう意味では、当時のステルス型のペイパーポストサービスは、明らかにブログ界の価値をさげるダイナマイト漁的行為だったと感じています。
 最近の芸能人ブログを巡るやらせ記事騒動も同様です。
 一部の芸能人が、ステルスの記事広告をする事で、すべての芸能人ブログが疑われる事になります。
nikkei_yarasee.png
 あるある大辞典の影響で、テレビ番組の多くがヤラセを疑われるようになってしまったように、実は一部の人のダイナマイト漁によって、すべての漁師が被害を被るわけです。
 そして、今回の食べログやらせ騒動がまさにそうなってしまったように、一部の口コミ情報サイトでのダイナマイト漁が、インターネット全体の口コミの価値を疑わせる結果につながりかねないわけです。
 ダイナマイト漁が蔓延している事は、ダイナマイト漁を行っている一部の漁師だけの問題ではありません。
 今回の騒動で、やらせに関わってしまったとされる企業の行為がすべてステマだと呼ばれるようになってしまったように、ヤラセに関わってない人たちの発言に対しても、ステマ非難が多く出てくるようになってしまったように。
 
 ヤラセやステルスマーケティングというダイナマイト漁の存在は、インターネット全体の信頼を崩しかねない非常に大きな問題だと思うわけです。
 もちろん、私がAMNで推進しているマーケティング手法が完全無欠の正義だとは思いません。
 ダイナマイトは使わないまでも、漁をしている漁師の一人ですから、漁をしない人からすると、ある意味でAMNもダイナマイト漁の漁師と一緒に見えてしまう面もあるかもしれません。
 
 ただ、明確に宣言しておきたいのは、私がAMNで見つけたいのは、ダイナマイト漁で珊瑚礁を壊すマーケティングでは無く、珊瑚礁であるソーシャルメディアの可能性をより育てていくようなマーケティングです。
 
 ソーシャルメディアの登場により、私たちはスピーカーで消費者に対してがなり立てなくても、利用者の方から企業を応援してくれるマーケティングの可能性に改めて気づく事ができていると思います。
(そのあたりの議論は、3月9日に開催する予定のソーシャルメディアサミットで議論したいと思っています。)
 ダイナマイト漁で短期的な利益をあげることができたとしても、インターネットやソーシャルメディアという新しい可能性をもたらしてくれるかもしれない珊瑚礁を破壊してしまう事になったら、やっぱりそんな事業に意味なんか感じられないと思うんです。
 
 と、ここまで熱く書いておいて、今日のワールドビジネスサテライトで、全く私のインタビューが使われなかったら、まぁ実に恥ずかしい一人語りになってしまいますが。
 もしAMNの手法にダイナマイト漁的な部分を感じられる事があったら、遠慮無く私宛に厳しくご指摘頂ければ幸いです。
 年初の抱負を守れるように、頑張りたいと思います。
Wallacea