「ステルスマーケティング」や「やらせ」行為は、やらせが判明した場合のリスクが実は非常に大きい事が理解されないと変わらないのではないだろうか

 年明けの食べログのやらせ騒動から、すっかりステマややらせが話題ですね。
 口コミ情報サイトへのやらせ書き込み事業者の存在については、WOMマーケティング協議会のガイドラインセミナーで一昨年の10月に取り上げられていたぐらいで、業界では古い話題だと思っていたので、なんだかえらく盛り上がっているなぁと横目でウォッチしている程度だったのですが。
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 先週のWOMJのクチコミガイドライン説明会でも、もっぱらその話題が中心でしたし、ここ1週間ぐらい、立て続けにメディアの方々の取材依頼が入ってきており、一部発言だけ使って頂くケースも増えそうなので、私の基本的なスタンスを簡単にブログでも公開しておこうと思います。
 個人的にもやらせや、ステルスマーケティングの問題については、2006年頃からブロガーとして興味をもってウォッチしてきた人間で、私はWOMマーケティング協議会立ち上げの発起人の一人でもあり、現在の議論についてはこの6年間繰り返してきましたから、簡単に総括できる問題でないのは良く理解しているつもりですし、私の仕事自体がネットやソーシャルメディアを活用した企業のマーケティング支援ですので、根本的にポジショントークである事はご容赦下さい。
※なお、私が過去に書いた、やらせやステルスマーケティング関連のブログ記事はこちらをどうぞ
ヤラセプロモーションって炎上覚悟でやるほど魅力的なのだろうか
製品がダメなら、ステルスマーケティングなんてやるだけ無駄では?
ペイパーポストかどうかが問題ではなく、読者にどう受け止められるかが問題だと思う
 今回のやらせ騒動やステマを巡る議論の難しいのは、そもそものやらせ投稿推進事業者への批判とは別に、口コミ情報サイト全体への問題提起や、ネット上の口コミやPR、広告手法全体の信用問題など、さまざまなアングルでの議論が同時多発的に発生している点でしょう。
 食べログ騒動と前後して、2ちゃんねるまとめサイトのステマ騒動があったり、それに関連して過去のやらせ行為探しが過熱し、大企業の食べログやらせ投稿の事実が分かったり、Yahoo知恵袋のやらせ投稿や、アメブロの芸能人ブログのやらせ記事疑惑など、複数のやらせ事例が出てきている事も混乱に拍車をかけている印象です。
 本来、基本的な、やらせやステマの話題において出てくるステークホルダーには、企業とメディアとユーザーという三者です。
■企業:やらせやステマ行為によりメリットを期待される存在
  ↓
■メディア:やらせやステマ行為が実施される場
  ↓
■ユーザー:やらせやステマ行為によってだまされかねない存在
 インターネットやソーシャルメディア以前は、メディアの選択肢がテレビや新聞、雑誌など限られていたため、やらせ行為が実施されたとしても、企業とメディアが結託しているケースが中心で、それによってだまされる利用者という構図が非常にシンプルだったので、極端な話、あるある大辞典みたいなやらせが発覚すれば、番組が責任を取って終了するというのが分かりやすい結果でした。(あるある大辞典のケースは、メディアが企業から直接利益を得ていたケースではないと記憶してますが)
 今回の食べログ騒動みたいなのでややこしいのは、ここに食べログへのやらせ投稿事業者のようなメディア側がコントロールできない存在が出てきている事です。
 もう一度関係者を書くとこんな感じでしょうか。


■企業:やらせやステマ行為によりメリットを期待される存在
  ↓
■事業者:企業にやらせやステマ行為を提案して利益を得る存在
  ↓
■メディア:やらせやステマ行為が実施される場
  ↓
■ユーザー:やらせやステマ行為によってだまされかねない存在
 テレビのワイドショーなどのマスメディア側の論調は、食べログのようなネットの口コミ情報サイトにはやらせが存在するので、サイト全体の信憑性に問題があるという論調が目立つ気がしますが、本来は食べログはやらせ投稿事業者に場を荒らされてしまった被害者であり、悪いのはやらせ投稿事業者です。
 ただ、マスメディアの視点からすると、やらせ投稿が平然と存在する形態になっている口コミ情報サイトのやり方が理解できないという構図になっている印象があります。
 一方で、ネットユーザーに多い根本的な広告嫌いの人たちからすると、どうせ企業も事業者もメディアも全部一蓮托生でグルだから、ネット上の書き込みなんか全部ステマでしょ。というのが最近のステマ発言ブームに現れているようにも感じます。
 ただ、実際問題としてこのやらせやステマのような問題は、食べログやらせ騒動や、グルーポンおせち騒動、アメブロ芸能人やらせ記事など複数のケースが存在するように、ケース毎に問題の所在が異なっているのが現実で、一元的なモノではありませんし、どこか一つだけ改善すれば済むというものでもありません。
 結論から言うと、現在の構造から根本的に脱却するには上記の4カ所の問題をすべて改善していく必要があると感じています
 具体的に個別の対策を書くとすると下記のような感じでしょうか。
■利用者がリテラシーを上げるべき
 そもそも米国に比べると日本人はメディアを信用する傾向が強いというデータもあったと記憶してますが、ITリテラシーやメディアリテラシーの高い人からすると、なんでそんな分かりやすいやらせに引っかかるの?という議論は常にあります。
 ただ、ネットユーザーの裾野が広がっている現状を考えると、全員のリテラシーや意識をいきなり変えるのは難しいでしょう。
■メディア上でやらせやステルス行為を駆逐するべき
 食べログがもっとやらせ投稿の排除行為を頑張るべき、とかステログのように技術的にやらせ投稿を判別する仕組みを強化すべき、という議論の当然あります。実際、アットコスメやOK Waveなんかはかなりこのあたりを厳しく行っている印象がありますし、改善の余地はあるでしょう。
 ただ、これもスパムSEO事業者とGoogleの検索エンジンロジック変更がイタチごっこになっているように、最終的にはスパム事業者もついてくるはずです。
■やらせ投稿事業者を法律で規制して排除するべき
 個人的にも、食べログSEO事業者が大手を振って営業して回れる現状の法律というのはどうなんだろうと思う事はありますし、米国のFTCのような厳しいガイドラインが日本にも必要なんではないかと感じる事もありますし、WOMマーケティング協議会で作成したガイドラインは、そのひとつの手段だと思っています。
 ただ、これも結局WOMマーケティング協議会に入らない事業者対象になりませんし、やらせと自発的な投稿の境界線の判定が非常に難しいのを考えると、決定打になる印象は薄いのが現状です。
■企業がやらせやステルス行為をしないように規制するべき
 本来は広告主である企業が、やらせやステルス行為をしないと決めていれば、こうした手法は減少するはずですし、実際WOMマーケティング協議会設立以前に比べると、大企業が明確にガイドラインを制定し、やらせに見えるリスクがある行為は行わないと宣言しつつあるのも事実です。
 ただ一方で、今回の食べログのように中小企業や個人店舗が多い分野になると、大企業ほどの体制やガイドラインを把握するための体制がない企業の方が多いでしょうから、結局やらせ投稿事業者にだまされて知らずにやらせ手法を利用してしまうというケースはなくならない印象があります。
 まぁ、上記の4項目はかなり悲観的に書いていますが、実感値として、まだまだ全体のやらせやステルスのリスクへの感覚は低い印象が強く、一カ所だけを対策したところで根本的な問題解決にはつながらないと感じています。
 
 AMNのブログマーケティングポリシーを決めるときや、WOMマーケティング協議会のガイドラインを決めるときの議論でも感じましたが、やらせやステマにならないようにするための最も重要な選択肢は、とにかく「関係性の明示」につきると思います。
 
ペイパーポスト騒動のときに私が作成した関係性明示についてのイメージ図
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 やらせやステマ行為自体は、実はネット以前から存在する行為だと思いますが、今回のやらせ騒動や九州電力のやらせメール騒動のように、ソーシャルメディア時代になってやらせ行為がネット上で糾弾されて企業が追い詰められるケースが増えてくるのは間違いありません。
 要は利用者の力が強くなっているので、やらせやステマ行為を隠し続けるのが難しくなり、ばれてしまったときのリスクが上がっているわけです。
 実際には、今回の食べログやらせ騒動や、アメブロ芸能人やらせ記事騒動で奇しくも明らかになったように、やらせ行為の存在自体は企業やサービスの信頼を失墜させるだけでなく、株価に影響が出たり、業界自体のイメージが悪化し、最悪の場合産業自体が消えてしまうリスクがあると、強い危機感を感じています。
ネット株軒並み急落 「ステマ疑惑」でイメージダウン
 ネットを使ったマーケティング自体が全部ステルスマーケティングだ、となってしまえば誰もネットを信じなくなるでしょうし、そこで行われる広告行為の価値も減少するでしょう。 
 そうなったらAMNのような小規模な会社なんて一環の終わりですから、今回のやらせ騒動が我々ネットを活用したマーケティング業界に突きつけているのは非常に深刻で重要な問題提起だと思っています。
 そうならないためには、利用者がステマだと感じないように、最初から広告は広告である事を明示し、「広告だけど面白いでしょ」と胸を張って広告するべきで、実はその方が利用者も楽しんで参加できるんじゃないかと感じています。
 ただ、一方で「ブロガーに広告費を払うから記事を書いてもらいたいんだけど、広告である事は明示したくない」と堂々と依頼してくる企業がまだまだ存在するのも事実です。
 AMNでは関係性の明示のポリシーを明確にしている関係上、当然そういう場合は「広告である事を明示しないと受けられませんし、ばれたときのリスクを考えると危ないですよ」とお断りする事になるわけですが、そういう広告明示を嫌がる人は大抵の場合、ビックリするほどそれがバレてしまったときのリスクを考えていないというケースがほとんど。
 当然、そういう施策を提案するやらせ事業者は、実は広告主を大きなリスクにさらしているわけですが、事業者側も広告主も驚くほどそのリスクに無頓着だったりするわけです。
 そういう意味では、今回のやらせ騒動をめぐるマスメディアの騒ぎ方は大げさだなと思うのは正直なところではありますが、今回の騒動をきっかけに、業界全体でやらせやステマのリスクについて冷静に考え直すチャンスだと思いますし、ここでしっかり議論しておかないと、業界として手遅れになるんではないかと恐怖感すら感じてしまう今日この頃です。
 皆さんは、今回のやらせ騒動や周辺の議論についてはどう思っていますか?