LINEにユーザーを奪われるのを今心配すべきなのは、FacebookやTwitterのようなSNSではなく、携帯メールを提供する携帯電話事業者ではないか。

 すっかりご紹介が遅くなりましたが、先日日経ビジネスさんが発売されたLINEのムックで、今後のLINEの展望についての私のコメントを掲載していただきました。
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 アンケートが取られたのが結構前だったので、アンケート中で聞かれた2013年の夏のLINEの日本の利用者数3000万人以上という数値を、実はすでにLINEはあっさりと抜き去っていたりするわけですが。
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 ちょっとこれだけだと短すぎて意図が伝わってないかもしれないのと、丁度昨日から、ラインの企業向けアカウントの中小企業向け公開の記事が話題になっていますので、こちらのブログで自分の考えを補足しておきたいと思います。
LINE新戦略で「タウンページ目指す」、低価格の企業アカウントを全国へ
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 以前、下記のようなブログを書いたこともありますが、個人的には、LINEの魅力は何と言っても手軽なクローズドコミュニケーションができる点だと考えています。
mixiのプライベートグラフ戦略が正しかったということが、LINEによって証明されたという仮説
 最近になって、カカオトークのヤフーとの提携や、DeNAのcommのリリースなどにより、にわかに激戦区の感を帯びてきた感じもあるLINE周辺。
 LINEのカテゴリは、「無料通話アプリ」や「スマホ通話アプリ」と呼ばれることも多いため、使ってない人からすると一件無料音声通話が人気の秘密と思われるケースも多いようですが、個人的に感じているLINEのコア機能は何と言ってもチャット的なメッセージ機能です。
 メッセージを送りたい人を選んでメッセージを送る。
 この当たり前のことが手軽にでき、さらにそこにスタンプというテキスト入力不要のコミュニケーション手段を追加したことで、これまでのガラケーのメールやデコメの置き換えになった。というのがシンプルなLINEの魅力でしょう。
 実際には目線を一歩引いてみると、2億人のユーザーを誇る中国のWeChat、6600万人の韓国のカカオトーク、そして先日7500万人を突破したNHN JapanのLINEと、「スマホメッセンジャー」と言われるカテゴリのアプリの躍進はアジア全体で始まっています。


日本・中国・韓国・アジア「メッセージ」戦争ーー覇者はどのサービスだ
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 その背景にあるのは何と言ってもスマートフォンの普及。
 つまり、従来のフィーチャーフォンにおける携帯メールやショートメッセージサービスの代わりとして、キャリア横断のスマホメッセンジャーが流行しているというのが、アジア全体の現象です。
 実際問題、一歩引いてみると、2011年にサービス開始されたLINEは、実は2010年に開始されたカカオトークなどの先行サービスのクローンの一つとも言えます。
 
 最近、「LINE凄いですよね、TwitterやFacebookやばいですよね」みたいな発言をされるケースが結構増えてきているのですが、実はTwitterやFacebookのような発言をみんなに見せるサービスと、LINEのように指定した人に直接送りつけるサービスは本質的に目的が違うと考えています。
 TwitterのタイムラインやFacebookのニュースフィードはプル型のコミュニケーション
 LINEのメッセージは、プッシュ型のコミュニケーションです。
 Twitterが象徴ですが、プル型のコミュニケーションは、誰にも返事を強制しません。独り言のようにつぶやいたら、誰か反応してくれると良いな、というコミュニケーションです。
 一方でLINEのようなプッシュ型のコミュニケーションは、電話やメールが象徴ですが、特定の誰かに返事を要求しているコミュニケーションです。
 先日「mixiが死ぬどころか、LINEのタイムラインが全然使われていない件「毎日閲覧する」はわずか10%」という記事を読みましたが、ここにあるように現時点ではLINEのタイムライン機能はかなりの苦戦を強いられている模様。
 まぁ、それはある意味当たり前で。
 LINEを立ち上げるときというのは、多くの人は「特定の誰かに何かを伝えたい」。もしくは誰かからメッセージが届いたからそれを見たい、もしくは返事をしたいとき、というコミュニケーションの目的が明確なとき
 一方でTwitterを立ち上げるときと言うのは、とりあえず暇だから他の人が何話してるか見たいとき、もしくは誰かに反応して欲しいけど特定の人にメッセージを送りつけるほどでは無いから不特定多数の友達に対してつぶやきたいとき、というコミュニケーションの明確があまり明確では無いとき、です。
 
 目的が全く違うコミュニケーションのためのツールなので、必ずしも一緒に並べれば上手くいくというものでもないんですよね。
 GoogleがGmailの大量のユーザーを持っているのにGoogle+が今ひとつだったり、Yahoo!がヤフーメールの大量のユーザがいるのにYahoo360やYahoo Daysで失敗した背景もここにあると考えています。
 もちろんFacebookにおいても、メールの代わりとなるFacebookメールや、メーリングリストの代わりとなるFacebookグループがあり、これらはLINEのメッセージ機能やグループチャット機能と間違いなくバッティングしているので、今後実際問題、これらのサービスの力関係がどうなるかは難しいところではあります。
 そういう意味でLINEのタイムラインを機能させる方法もきっと見つかるはずですが、当面のLINEを恐れなければいけないのは、TwitterやFacebookのようなプル型のコミュニケーションのサービスではありません。
 当面、LINEにコミュニケーションのシェアを奪われる可能性が高いのは、プッシュ型のコミュニケーションのサービスなのです。
 スマートフォンユーザー同士のメッセージングサービスのポジションを、中国においてはWeChat、韓国においてはカカオトークが制覇し、そこを日本ではLINEが取ろうとしているという点が重要です。
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 そういう意味で、このLINEの急成長によって最も脅威を感じなければならないのは、既存のガラケーにおけるメール事業をいわば独占している携帯電話事業者のはずです
 これまで日本における携帯電話のメッセージング機能ではiモードメールのような携帯メールが中心でした。
 昔は携帯電話の電話番号が大事だったのに、徐々に携帯メールのアドレスをお互いに知っているかどうかこそが、コミュニケーションの肝となり、携帯メールのアドレスを変更したくないから携帯電話事業者を変更しないというユーザーが多くいました。
 それが今回のスマホへのシフトと同時に携帯電話事業者は、携帯メールからLINEのようなスマホメッセンジャーへのシフトの波に乗り遅れつつあります。
 当然、携帯電話事業者には、自社の契約者にしかサービスを提供しづらいというイノベーションのジレンマがあるわけですが。
 携帯メールアドレスのポジションをLINEのようなスマホメッセンジャーのIDに取られてしまったら、今まで携帯電話回線と共に担ってきた電話番号やメールアドレスというコミュニケーションのためのID提供機能をLINEに奪われてしまうことになります。
 NHNの「タウンページを目指す」という発言を、重く受け止めなければいけないのは、既存のソーシャルメディア事業者ではなく、当然ながら既存の通信事業者なわけです
 コミュニケーションのID機能を重要視するのであれば、他の携帯電話事業者が自社開発のアプリの利用を許してくれるかという問題はありますが、自社開発のスマホメッセンジャーをiPhone含めて全機種にプリインストールするとか、既存のスマホメッセンジャー会社を買収してしまうとか、メールと同様にスマホメッセンジャーのオープンなプロトコルを定めて相互に自社開発のスマホメッセンジャー同士がやり取りできるような連携を組むとか、という防衛的な手段を早急に取るべきだったのではないかと思います。グルーポンに対して焦土作戦を挑んで勢いを封じ込めたリクルートのポンパレのような戦術もあるでしょう。
 まぁ、そうは言っても携帯電話事業者がコミュニケーションのID保有者のポジションを失っていくというのは、ある意味世界的なトレンドなので抵抗するだけ無駄なのかもしれませんが。
 iPhoneを提供するソフトバンクとauが、それぞれ回線速度の速さと値段でしか差別化できなくなり始めている現状を見ていると、iモードのような日本独特なエコシステムを一つの理想の姿として育ってきた通信会社出身の人間としては、なかなか複雑な気持ちになるのが正直なところです。
 と、ここまで書いて、私のブログなんかより、はるかにまとまった記事を日経新聞の井上さんが書いているのを発見したので、詳細はこちらをお読み下さい。
「LINE」が変えるリアル経済、ポイントも開始
 ちなみに、余談ですが、個人的には現時点で日本においてLINEにシェアで劣っているカカオトークや、最後発のcommは、正面からぶつかってもよほどLINEがミスをしない限り、ネットワーク効果の壁に必ず阻まれるため、アプローチを根本的に変える必要があると考えています。
 これはPCにおいて無料電話ソフトのSkypeが登場して、その後に登場した様々なクローンサービスのほとんどが存在感を示せていない事実や、ツイッター登場後のツイッタークローンのほとんどが消えた事実からも容易に想像できます。
 実際、LINEの舛田さんが、早速ライバルの登場にかなり強気な発言をされていました。
「競合の登場もすべて折り込み済み」LINEキーマン 舛田淳 氏、世界7500万ユーザー達成
 それもそのはず。
 現在の国内のLINEのユーザー数は約3500万人。
 日本のスマホユーザー数が6月末で2400万人とからしいですから、スマホユーザーの多くは既にLINEに触れている可能性が高いと言えます。
 
 そんな中、既存のサービスから他のサービスへの移行が発生するには、LINEに比べて他のサービスによほど革命的な魅力があるか、LINEが負荷でどうしようもなく重くなるか、今回のガラケーからスマホのようなパラダイムシフトが必要になります。
 もちろん、シニア層に思いっきりターゲットを絞るとか、自社のゲームユーザーのみに特化するとか、利用シーンを上手く棲み分ければ、まだまだ1億人近い人がLINEを使って無いとも言えるので余地はあるとは思います。
 ただLINEに追いついてトップを取るということになると、話は別です。
 カカオトークはグループ通話機能、commは通話の音質を売りにしてLINEに挑んでいるようですが、個人的には前述の通り、音声通話機能は、LINEから乗り換えを促すための本質では無いと思っています。
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 スマホメッセンジャーの競争において最も重要なのは、メールの置き換えであるメッセンジャー機能であり、メーリングリストの置き換えであるグループチャット機能になるはずです。
 
 DeNAも、過去に先行していたモバイルゲームSNSの王座の座を、後発のGREEに脅かされるようになった歴史があるので、今回はそれの逆のパターンをLINEに対して仕掛けたいと言うことだと思いますが。
 単純にゲームの面白さでユーザーが異動するゲームSNSと、スマホメッセンジャーのようなネットワーク効果が強力にはたらくサービスとでは、背景が全く異なると考えるべきです。
 シンプルなキャッチアップ戦術では難しいと考えて、こちらのブログの「Lineを殺すサービスの作り方 」というようなアプローチを考える方が良いのかもしれません。
 特にDeNAはゲームの収益がメインですし、カカオトークはヤフーと連携したことにより、ヤフーならではのアプローチを取れるオプションができたことが非常に大きい特徴と言えます。
 そういう意味では、DeNAのcommにしても、ヤフーと連携したカカオトークにしても、収益ポイントを思い切って無料化したり、LINEユーザーが積極的にサービス移行をしたくなるような新規サービスにより、LINEが嫌がるようなアプローチを取り、既存のネットワーク効果を徐々に崩せるかどうかが今後の注目点と言えると考えています。
 いずれにしても、今回のスマホメッセンジャー競争が一段落するだろう来年末ぐらいには、スマホや携帯におけるメッセージングサービスの主導権の景色が、数年前と全く変わってしまっているんだろうな、と感じてしまう今日この頃です。

4822225259 LINE仕事術 (日経BPムック)
日経ビジネス
日経BP社 2012-10-29

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