ローソンの製造小売宣言とアップルストア本に感じる、製造と小売を分けて考えることが時代遅れになる時代

 先日「CMO+CIO Leadership Forumで考える日本企業におけるマーケティングとテクノロジーの融合の難しさ」という記事を書きましたが、その際に一番衝撃を受けたセッションだったのが、ローソンの玉塚さんのプレゼンでした。
 プレゼンの詳細は下記の記事に出ていますが、
IBM CMO+CIO Leadership Forum Report:ローソン、ビッグデータ分析で「街」をもっと幸せに
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 最も衝撃を受けたのが下記の発言
「顧客の支持を得るためには、製造小売型のコンビニエンスストアを追求するしかない」
 ローソンと言えば、コンビニエンスストアですから教科書的に分類されるのは、当然「小売」業です。
 製造小売というのは、ユニクロや無印のように自らが製造した商品を自らの店舗で販売する業態を言うのであって、ローソンのような多数のメーカーの商品を販売するのが前提としている企業は、当然「小売」と定義されるべきでしょう。
 それが、明確に製造小売型を追求すると宣言されたのだからびっくりです。
 ある意味、これは現在コンビニに製品を並べているメーカーの方々への宣戦布告とも捉えられかねない発言なわけですが、玉塚さんの発言の趣旨としては、他のコンビニと全く同じ商品しか並んでいないコンビニでは顧客に選ばれないという危機感が後押ししていたように感じます。


 実際問題、最近の日本のコンビニエンスストアというのは、プライベートブランドのいわゆるPB商品比率が急速に高まりつつあるのを良く感じます。
 セブンイレブンのセブンプレミアムを筆頭に、今やお菓子売り場や冷凍食品はPB商品しか並んでいない棚があるのは当たり前になりつつありますし、シリアルや飲料などもPB商品が急増している印象があります。
 飲料の棚もPB商品が増えましたし、最近は飲料メーカーの聖域と思われていたビールすらメーカーと共同で独自商品を開発される事例がでてくるなど、コンビニエンスストアはどのような商品を製造するかという製造業の領域に片足を突っ込んでいるのが現実なわけです。
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 で、逆に製造業の視点から考えて興味深い動きをしているのが、先日「アップル 驚異のエクスペリエンス」という書籍の紹介をしたアップルです。
 アップルはいわゆる製造と小売の分類で考えると明らかに製造業ではあるわけですが、直営店であるアップルストアを筆頭に、ウェブのECストアやiTunes Storeなど、実は小売業と呼んでも良いほどの顧客とのタッチポイントを複数持っています。これは、明らかに他の小売り事業者とバッティングするアプローチです。
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 アップルストア出店当時、多くの批評家がアップルが小売に進出することを批判し、失敗を予言していたそうですが、実際には書籍に書かれているように、現在のアップルのサービスに対する姿勢は、ディズニーが参考にするほどの成功事例として知られています。
 一般的なPCメーカーは家電量販店に製品を置いてもらって販売してもらうという業態のため、たびたび家電量販店との力関係や、店頭に売り場を作ってもらうための販促支援の負担などが話題になりますが、アップルは自ら直営店やオンラインストアを持ち、魅力的な商品で利用者を自社の店舗に惹きつけることで、そうした小売り依存の体制から脱却することに成功しているわけです。
 そして、結果的に利用者に認められている商品として、家電量販店側も店頭に売り場をつくらざるを得なくなる、というポジティブなサイクルに成功していると言えます。
 一般的なメーカーの方のお話を聞いていると、ECや直営店をつくるという行為は、その行為自体がそれまで販売でお世話になっていた小売りに対する宣戦布告行為とみなされるため、なかなかふんぎりがつかなかったという話を良く聞きますが、アップルの場合はそこを早期に突き抜けることで、逆に小売の店頭に売り場が確保できているというのが非常に興味深いポイントです。
 昨年は資生堂のECストア開設が大きく話題になりましたが、こういう流れは様々な場面で増えてきている印象があります。
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 今回のローソンの問題提起に見られるように、実は小売側も激しい競争にさらされており、他の小売と差別化するためには自社ならではの商品を必要とします。
 そのため、自らが製造業の領域に踏み込んで、自社ならではのPB商品の開発を強化する流れが生まれています。
 一方で、製造側であるメーカーも、売り場では他の競合製品との競争にさらされており、顧客と直接繋がるために直販の手段を必要としています。
 そのため、自らが直営店やECストアなどの小売りの領域に踏み込んで、自社ならではの顧客接点の作り方を強化する流れが生まれています。
 実は、小売りも製造も、お互い製造小売りを目指す流れが強まっているのかもしれないと、思えてくるわけです。
 そこで当日、他の参加者の方に指摘されてなるほどなと思ったのが「もともとお店とか商売って、そういうものですよね」という話。
 マスマーケティングが進化する前は、靴が欲しければ靴屋に行き、服が欲しければ服屋に行っていたはず。
 同じ町に二つ靴屋があれば自分が欲しい靴を売っている靴屋の方に行っていたわけで、本当に欲しいものであれば少々遠くても脚を伸ばしてもらえたはず。
 団子屋が5軒あれば、すべて味も違うのが当たり前で、美味しい団子屋や、店員の愛想の良い団子屋が繁盛していたはずです。
 もともと多くのお店が製造をし、小売りもしていたわけですよね。
 それがマスマーケティングの進化により、製造と小売りの分業が進化し、どこの店に行っても同じ製品を買えるようになったわけですが。
 実はネットの進化によって、企業と顧客が直接つながりやすくなったため、再度この分業の壁が溶け始めているかもしれないわけです。
 当然、全ての業態において完全な融合が進むとは全く思いませんが。 
 自分の会社はメーカーだから、自分の会社は小売りだから、と自社の業態を顧客のニーズでは無く、業界分類で考えること自体が時代遅れになりつつあるのかもしれません。
 一昔前は、ある意味製造と小売りのプロセス全てを自社でやろうとする方が、ある意味時代遅れと言われかねない時代でしたが、実はまた昔と同じく顧客からどう見えるかの方が大事になりつつあり、分けて考えるのが時代遅れと言われかねなくなるかもしれない、というのは興味深い変化だなぁと、そんなことを感じる今日この頃です。