法律と技術の矛盾とP2PネットラジオMercora

P2Pとネットラジオの融合–合法的音楽共有サービスの可能性 – CNET Japanを読んで。

 この記事に出てくるMercoraは、法律と技術の矛盾をついた実に興味深いサービスです。


 何しろ、Mercoraを使うと利用者全員のPCがラジオの放送局になってしまうわけです。しかも著作権料を支払っている実質公認サービス。

 放送する側としては利用者は曲を決めてオンデマンドで流すわけではないので「ラジオ扱い」なのですが、放送局が何百万にも増えれば、その分その瞬間に聞きたい曲を実質には「オンデマンド」で聞けるようになるというモデルになっています。

 Mercoraについては以前に私もコラムを書いたことがあるのですが、実はCNETの梅田さんに教えていただいたという経緯があります。
 その時に感じたのは、これを日本でやろうとしたらどうなるんだろう?という点。

 ちなみに、タイミングよく、先日P2P関連の勉強会で一橋大学大学院の福島さんの著作権に関する講演を聞いてきました。

 その講演では、P2Pファイル共有ソフトを巡る海外と日本の訴訟問題の違いなどを紹介してくれたのですが、その時に印象に残ったのが米国と日本の法律に対する考え方でした。

 米国を中心として欧米の場合は、違法と適法の線引きとなる考え方が実に明確のようです。
 その線を越えないように事前にプランを立てれば、裁判で負けるリスクもかなり低い。Napsterは最初の出来事だったため裁判で負けましたが、その後に出てきたほとんどのファイル共有ソフトはNapsterの敗訴理由を回避する形で適法の形を取ることができています。
 
 今回CNETの記事で紹介されているMercoraも、そういうコンセプトの土壌から出てきたものと感じます。
 もちろん、Mercoraもこれから訴訟にさらされるリスクはあるようですが、現時点での法律判断としては適法というものです。

 ではMercoraのようなサービスを日本で実施したらどうなるか?
 というと、それは非常にグレーでしょう。

 先日の講演を聴いても、結局、日本では違法と適法の線引き自体が非常にあいまいという印象を受けました。

 全米であれだけブームを巻き起こしているiTunesすら、いまだにサービスを開始することができていませんし。
 Winnyの開発者は、欧米で適法とみなされているものと類似の仕組みを取っているにもかかわらず逮捕されました。

 結局、日本の場合はあとから訴訟を受けるリスクを考えると、Mercoraのような法律と技術の矛盾をついたサービスは始めづらいということになりそうです。(そもそもJASRACに申請が通るのかどうかも不明ですし)
 
 Hotwiredの小倉弁護士のブログでも「汎用的なP2Pネットワークにおいて著作権侵害ファイルを排除するのは難しい(というか事実上不可能)」と、著作権付ファイル専用のP2Pネットワークの提案などをされています。

 本当、こんな感じでは音楽だけでなく、写真にしても動画にしても著作権がらみの新サービスは日本からは生まれそうにないなぁ・・・と思ってしまった今日この頃でした。

 どっちにしても海を越えてMercoraみたいなのを使えてしまうので、日本個別で法律論議をして無理矢理現状を維持しようとしても、事業環境自体が変わってしまうのは時間の問題のような気がするんですが・・・
 
 ちなみに、レコミュニが日本ではMercoraのような役割を果たすのかと期待していましたが・・・どうもK’s Diaryの記事なんかを見る限り、現状は厳しいようです。

 なかなか日本の音楽配信関連は難しいですね。

始まりも終わりも無いコミュニケーション

On Off and Beyond: AOLの涙を読んで。

 渡辺千賀さんのブログでEconomistのIT特集が取り上げられています。


 AOLのCD-ROMの話も面白いのですが、個人的に気になったのがVoIPについての記事。

電話のように「話し始め・話し終わり」が明快にあるものではなく、ambient communicationとなる、と。常時接続した状態で、話があると、ぱらぱらとテキストのインスタントメッセージのやり取りが始まり、ヒートアップしてくるとワイワイみんなで音声で話し合い、まただんだん静かになる。リアルなオフィスのような状態になるわけだ。

 ブロードバンドで常時接続が当然になると、現在のIMのような始まりも終わりも明確でない隣の席との雑談のようなコミュニケーションが、増えてくるようになるそうです。

 そういえばと思い出したのが、先日取り上げた松村さんの「脳を繋ぐテキストチャット、空間を繋ぐビデオチャット」という記事と、Skypeの初期に導入事例として書かれていたある人のブログ。

 その人は、誰もいないデータセンターに出かけて行って作業することが多い仕事なんだそうですが、それまではトラブルに遭遇したり分からないことが発生するたびにオフィスの同僚に携帯電話で電話をして聞いていたそうです。

 しかしSkypeを使うようになってからは、その同僚とつなぎっぱなし。
 データセンターだから回線状態も良好だし。
 無言で作業をお互い続けながら、質問があるたびに「ちょっといい?」とまるで隣にいるかのように作業を続けることができる、と喜んでいました。

 それを読んだときは「特殊な事例だなぁ」と思っていたのですが、今回のような記事を読むとそうでもなさそうです。
(ちなみに、昔Goodpicの金子さんが「Skypeは友達ルーター」という記事を書いていたのを思い出しました。ちょっと視点は違いますが、イメージは友達ルーターですね。)

 私は昔IT系のコンサルで、フリーアドレスのオフィスで働いていたことがあります。その会社では自分の席が決まっておらず、それどころか自宅作業もOK。
 ただ、もちろん打ち合わせがしたければ会社に出てこざるを得ないですし、そもそも自宅作業を本当にしているかもあいまいだったように記憶しています。

 こういう新しいコミュニケーション手段が増えてくると、ああいう働き方ももっと効率的に支援できそうです。
 先日書いたどこでも仕事ができる未来というのにもつながるのかもしれないなぁとぼんやり思いました。
 

 まぁ、個人的には渡辺千賀さんと同様、「そんなみんなにつながってる状態は鬱陶しいなぁ」と思いますが。

球団買収劇で得をしたのは・・・?

楽天のプロ野球参入が決定を読んで。

 近鉄とオリックスの合併に始まった野球界のドタバタ劇は、結局楽天が新規参入するという形で決着がつきましたね。


 あいかわらず球界自体では、ダイエーや西武のゴタゴタは続いているようですが。
 昔書いた記事を読みながら、結局今回のドタバタ劇で得をしたのは一体誰だったんだろうというのを振り返ってみました。

 まず、旧オーナー陣が得をしていないのは言うまでも無いでしょう。
 1リーグ構想も水泡に帰しましたし、1リーグ化に反対していたセリーグのオーナー陣もあまり良い印象を世間に与えませんでした。

 選手も得をしていません。
 球団数は維持されたので大幅なリストラは回避できましたが、今回パリーグの赤字額にスポットライトがあたったことで、選手の給与水準に疑問符がついたのは明らかですし、なによりシーズン中にストライキというひどい経験をしました。

 そもそも野球界全体があまり得をしていないように思います。
 野次馬としては面白いドタバタ劇を見せてもらいましたが、多くのファンとしては夢を裏切られた気分でしょう。
 そのあたりの話は、大西 宏のマーケティングエッセンスで詳しく分析されています。

 
 さて、では肝心の楽天とライブドアはどうか?
 無料PRによる「知名度」という意味で、両者が大きな得をしたのは間違いありません。
 いまや、楽天とライブドアは、知らない人がいないほどの有名なネット企業になりました。

 しかし長期的なブランディングという観点で見るとどうなんでしょう?

 確かに楽天は参入合戦には勝ちました。

 しかし、今回の楽天は東北宣言が後追いだったこともあり、楽天に対する仙台市民の視線は必ずしも暖かいものばかりではないようです。
(なんでも仙台市民にアンケートを取ったら多くの人がライブドアが良かったと言っていたとか)

 さらに、そこまでして得た球団ですが、果たして球団経営は楽天のブランドイメージにプラスの効果をもたらすのでしょうか?

 何でも初年度は楽天は年間で100敗してもおかしくないと言われています。
 (早速、最初の選手分配で不公平さが明確になりましたし)
 年間の赤字額も想定している程度では済まないのではという話もあります。
 弱小のパリーグ球団は、赤字額以上のブランド効果をあげてくれるのでしょうか?
 どうもそんな気がしません。

(ちなみにトヨタの奥田会長は、「これまで何回も(球団売却の)提案があったが、全国で事業展開する企業は、球団を持つとアンチファンの客が不買運動をする可能性がある。手を出さないのが1番いい。当社は手を出さない」とまで発言しています。まぁ弱小球団ならアンチファンはいないかもしれませんが・・・)

 nikkeibp.jpに掲載されている楽天消費動向研究所での田邊さんの記事によると、プロ野球参入記念セールは結構良い成果を残していそうですが、果たして今後セールをやれるようになるのはいつになるのか・・・

  
 じゃあライブドアのブランドはどうなったのかというと。

 つるの式「ライブドア・堀江社長の自己演出」によると、株価の面で見ると、実は投資家は堀江さんの露出の仕方にNoを突きつけています。

 その後、参入失敗が報じられてライブドアの株価は大幅に反発しましたが、まだ低い水準です。
 単純な知名度向上では、球団運営の赤字を埋めるほど本業に良い影響が出ないという判断でしょうか。 

 ベストジーニスト受賞なり、今回の参入劇での同情的な意見もあって、かなり好意的なファンは増えているようですが、斜めに見る人も増えました。
 
 もちろん堀江さんのTシャツ代ぐらいで、これだけの広告効果を上げられたのは大きいと思いますが、なんだか案外得してないんじゃないかなぁ・・・と思ってしまいます。

 そういう意味では唯一得をしたのは、急にプロ野球が地元にくることになった仙台の野球ファンぐらいでしょうか・・・
 まぁ数年たって振り返ってみないと結局分からない問題かもしれませんね・・・

既存メディアとネット系メディアの役割分担

なんだかブログのおかげで、「ん?この話誰かとしたことがあるぞ」というデジャブに会うことが多くなった気がします。


 先日、Eビジネス研究会のセミナーで、シックス・アパートの関さんと話をしたときに話題に上ったのが、渡辺さんのブログのGoogleとYahooの覇権競争で取り上げられている「LongTail」という視点でした。

 渡辺さんが「需要が一部の商品に集中するのではなく、尻尾に当たる部分が規模は小さいものの売れる傾向が強まっているという話となる。」と書かれているように、ブログや小規模サイトのようなネットメディアの役割が消費行動の変化にも影響を与えるということになるようです。

 関さんの講演でも「今後のブログは家族や一部の友人に向けたものが
増える」という趣旨の話がありましたが、じゃあ、そういうブログにはメディアとしての価値は無いのかというとそんなことは無くて、このLongTailの部分になるんでしょう。
 

 この視点で、既存メディアとネットメディアの位置付けを考えてみると、やはり以前渡辺さんも書いていたような役割分担と考えるのが正しいような気がしてきます。

 実は、そのセミナーでは、インターネットマガジンの西田編集長も講演をされたのですが、帰り道に西田さんと意見が一致したのが「やはり紙は重要」という点。

 もちろんネットが重要になり、重心がうつりつつあるのは間違いないんですが、一覧性や情報の取得効率を考えると紙の重要性がなくなることは当分ないだろう、という話にもなりました。
(もちろん、ネットは新聞を殺すのかの湯川さんが書かれている ように電子ペーパーになったときにはまた話は変わるのでしょうが)

 もちろん、ネット側の情報量や質の向上により、利用者の情報取得行動が変化すれば、当然ネットと既存メディアの力関係は変わるでしょうが、それもいわゆる「シフトする」わけであって、ネットが既存メディアをいきなり消し去るという話ではないんだろうなぁ、と改めて思いました。

 ちなみに、そのときに話題に上ったのが、アスキーの福岡さんが言われていた「雑誌はコミュニティへの定期郵便」という言葉です。
 
 定期的に雑誌という形で、コミュニティに関する情報が送られてくる(実際には店舗で購入する)という行為で、コミュニティの最新情報についていっているという安心感も買えるのでしょう。

 この視点は、結構今後のブログを中心とした世界にも意味があるのではないかなぁ・・・と思います。

 韓国の参加型ニュースサイトであるオーマイニュースも週刊ダイジェスト紙を出したことでようやく収支があったそうですし、muse-A-museによると、Californiaの参加型ニュースサイトもWebと紙の混合モデルのようです。

 日本でも週刊木村剛の月刊木村剛発行しているのも、この流れなのかもしれませんね。
 そういう意味では、既存メディアはすでに紙媒体を持っているわけで、ネットを上手く併用すれば比較的楽なはずですが・・・どうなんでしょう?

 現在、katolerのマーケティング言論の「プロ、アマチュアの垣根の消失がもたらす「喪失」」で書かれていたように、最後の聖域だったメディア・マスコミ市場を取り囲んでいる壁が崩れつつあります。

 この重心のシフトをどう乗り切るかが、ネット系の新興メディアにとっても、既存のメディアにとっても、正念場になるんでしょうか?

どこでも仕事ができる未来はどこへ行った?

Log the Endless World: 長野へを読んで。

 CNETの御手洗さんのブログで、興味深い書き込みがありました。


 投稿自体は、御手洗さんの長野出張日記なんですが。
 その記事を読んで、「そういえば、ネットワークを使えばどこでも仕事ができる未来はどこへ行ったんだ?」というのを思い出しました。

 正直な話、実は私はよくこのことを考えます。
 私は小学校から高校を山口県で育ったので、東京の緑の少なさとか満員電車にいまだに慣れないんです。
 

 御手洗さんは下記のように書いています。

「インターネットは有効に利用されれば本当はこうした人たちにも大きなメリットを与えてくれるはずなのですが、当初理想として描かれていたものに近づくどころか、現状を見るとより反対の都市部への一極集中に近づいているような気がしてなりません(その他の経済効率性の問題もあるのでしょうが)。」

 そう、そうなんです。
 インターネットの普及は、地理的弱点を補って、全国どこの企業にも、全国どこに住んでいる人にも、チャンスをくれるはずだったんじゃなかったでしょうか?

 ところが現実的には、東京への一極集中は逆にますます進んでいるように感じられます。
 もちろん、関東以外の地方にも成功しているベンチャー企業はたくさんありますが、典型的なネット企業ですら東京に集まる傾向がしまっているような気がします。

 例えばはてなも東京に移転したそうですし、paperboy&coも東京に重心が移っていると聞きます。

 なんでなんでしょう?

 結局チャンスも人も、ハブに集まってきてしまうということなんでしょうか?

 正直、私も、今ネット関連の面白い仕事をしたければ東京にいるしかない
、と直感的に思ってしまいます。 
 本当は自然が豊かなところで満員電車から離れて生活したいんですけどねぇ・・・