インターネットの法と慣習 (白田 秀彰)

インターネットの法と慣習 かなり奇妙な法学入門 インターネットの法と慣習は、Hotwiredで連載されていた白田さんのコラムを書籍化した本です。
 デジタルジャーナリズム研究会で献本いただいたので早速読んでみました。
 実は私は法学部出身だったりするのですが、法律については正直全く理解していません。そもそも日本で法律というと、なんだか堅苦しい押し付けられたルールという印象があって、日常生活に役立たなさそうですし。とか言い訳してみたり。
 そんな私でも、この本を読むと法律がそもそもどういうものだったのか、という根本的な部分から振り返って理解することができました。 
 そもそも法律とは誰のためにあるのか、国によってなぜこれほど受け止められ方や使い方が違うのか、インターネットの登場によって法はどういう変化を要求されているのか、白田さん独特の軽妙な語り口でわかりやすく解説してくれます。
 特にタイムリーなのが著作権に対するくだり。
 今まさにYouTubeに関連してネット上でも議論が盛り上がっているところですが、現状の著作権法とネットワークにおける法律について、封建社会と比較するあたりは非常に考えさせられるところです。


 どうしても政治的な話っていうのは難しかったり面倒だったりで普段敬遠しがちですが、政府や既得権側のリードでネットに法規制をかけられることのリスクみたいなことを考えられると、そろそろネット内でも前向きな議論をしなければいけないのではないかと考えさせられる一冊です。
 法律はどうも苦手・・・という人にもお勧めです。
(ちなみに、5ページの著者写真は渾身の力作なので一見の価値ありですよ。)
【読書メモ】
■日本とアメリカでは法律の重みが違う
・日本は権威主義
 役人が来てアレコレ指示を出したりすると「へへーっ」とひれ伏してしまう
 いつもビクビクしてエラそうな人のお墨付きを欲しがっている
・アメリカは個人主義
 政府やら役人やらに個人の自由や権利を制限する権限を法律によって与えている
 役人がアレコレ指示してきたときに、常に「あんたら、何の根拠でそういうことをする権限があるわけ?」というところが問われる
■最高裁裁判官の位置づけの違い
・日本の最高裁裁判官たちが法律のエキスパートとして期待されている
・アメリカの最高裁裁判官たちは、非常にゆっくりと変化していく政治的な面における常識(common sense)の体現者として機能している
■ネットにおける紛争解決法
・フレイム(flame 言い争い)が主流
・上位権力が介入し、当事者の一方あるいは双方を排除する
→ネットワークにおいては、排除を完全に行うことができない
→ネットワーク上の紛争は解決されるというより、拡散しやすい状態にある。それゆえ「ネットワーク上の言論は程度が低く悪口ばかり」といった評価を生み出すことになる。
■実務的参加者と遊戯的参加者
・実務的参加者は「名」を賭けることで、発言に関する誠実さを担保することができる
 (それまで蓄積してきた名誉、信用、評判を大きく損なうことになる)
・遊戯的参加者は容易に捨て去ることのできるハンドルしか固有のものを持たないため、法を発展させるだけの誠実さを期待することは難しい。
■ネットワークで法を生み出そうとするならば、責任を引き受ける覚悟のある独立した個人が、主体にならなければならない。
■著作権法における「法律」と「慣習」
 「タダで使えるものは何でも使い倒せ」という傾向が強い日本では、「複製=善」という一種独特な(間違った)概念が「慣習」として成立していた。
 一回できてしまった「慣習」を「法律」で覆すのは難しい。
→この状況を根本的に変えるには教育による意識改革しかない。
■知的財産権制度と封建制度
 知的財産権を人々の「あたりまえ」の観念にすることは可能
 しかし、知的財産権をネットワークで強制することは、かつての封建社会で生じていた不都合をもう一度ネットワークで復活させることになるのではないか?
■技術的制約とルールの多様化
・技術的制約があったころには、その制約が利用者の間のルールの多様化を制約していた
・技術的制約が緩和されていくにつれ、利用者のさまざまな行為の自由は広がり、ルールの多様化の余地が広くなった。
・法は何らかの社会的目的を掲げるものであるがゆえに、多様な価値観が同居するネットワークにおいては法が成長しにくい
■いずれの国の政府でも財源は欲しくて仕方がないわけだから、いずれネットワーク上の人々の諸活動に課税しようという方向に進むのは間違いない
 個人認証、ID追跡機能、コンテンツへのID付加などの技術で、本人特定と活動履歴が取得できるようになれば、政府からのサービスを利用して個人が獲得した利益の一部を税として徴収することもできる。
■新しい形態のメンドウな事態
・政治的要求への対応方法は「議会に代表を送り込む」か「ストライキやサボタージュ」の二つ
・まとまらない人々はこの二種類の方法を使えないため、「一人テロ」か「一人ストライキ」を選択するしかない。年間の自殺者3万人、引きこもり人口100万人、若年の自発的無業者推定200万人と言われているのは、社会とか世間に対する漠然的かつ消極的な「一人抵抗活動」
■ジャーナリストとブロガー
 17世紀のイングランドでは、政治的回路を形成するための最初のきっかけをジャーナリスト(journal+list=日報を書く人)が担った
 ネットにおいては、同様の機能を果たしているブロガー(Web+log+er=Webを記録する人)から現れるのではないか
■情報文明とは
「それは独自の世界観を持った文明であり、時間、空間、論理、因果関係についても、独特の考えを持っている」(アルビン・トフラー「第三の波」)

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白田 秀彰


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“インターネットの法と慣習 (白田 秀彰)” への1件のフィードバック

  1. いつも、ブックレビューがポイントをうまく抜き出してくれていて、参考になります。
    今後とも更新を楽しみにしてます。

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